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都市童話

山脈都市モグタナ

作者: 滅天使

 あるところにモグタナという街がありました。


 モグタナは山に囲まれた緑の街です。


 山の斜面を開拓して畑を耕したり、近くの川から水や魚を獲って暮らしていました。


 山や川を越えるのはとても大変なので、他の街から人が来ることは滅多にありませんでしたが、モグタナの人々も同じく街の外へは行こうとはしませんでした。


 だというのに、近頃は山で遭難してしまった者が二人もいました。


 一人は東の森で行き倒れていた少年、もう一人は西の山で道に迷っていた女でした。


 二人はモグタナの人々に助けられ、食事と寝床を与えられました。


 二人は恩返しをしようと農作業や魚獲りの手伝いをしました。


 最初は滅多に訪れない来訪者に落ち着きを隠せなかったモグタナの人々でしたが、二人が一生懸命手伝ってくれるので、すっかり仲良くなりました。


 数日後、せっかく打ち解け合ったというのに、二人はまた山へ戻ろうとしました。


 理由を尋ねると、まず少年が答えました。

「僕の住んでいる街は雪ばかりで、空は一面雪雲だ。けど、山を越えた街には海があり、空は雲ひとつなく太陽が見えると聞いた。きっとその街の連中が僕らの街から青い空と太陽を奪って独り占めしているに違いない。だから僕らの街にも青空と太陽をよこすよう懲らしめるために、旅人を装って街へ向かおうとしているところだったんだ」


 対して、女も答えました。

「私の住んでいる街は海と太陽が支配していて、毎日が日照り続きでとても喉が渇くのだけれど、海水では飲水にならない。けど、山を越えた街には雪があり、その雪は空の雲から降った氷の結晶だと聞いたわ。きっと雪を溶かせば、美味しい水ができるはず。その街の連中は私達の街から雲を奪って雪や水を独り占めしているに違いないわ。だから雪をよこすよう懲らしめるために、偵察に向かおうとしているところだったの」


 二人の話を聞いた街の人々は驚きました。


 二人はお互いの街へ向かって、争いの算段をしているところだったのです。


 モグタナの街を挟んだ山の外の街同士が戦争を始めてしまえば、モグタナの街にも火の粉が飛ぶことは容易に想像がつきます。


 人々はどうにかして、二人を説得して争いを起こさせないよう考えました。


 そこで、モグタナの人々は二人にそれぞれこう教えました。


 雪の街の少年には、

「モグタナの街は雪の街から遠いので、雪は降らないが、太陽はやってくる。雪の街から海の街までは二つの山を超えなければならないが、モグタナの街には一つの山を超えるだけでいい」


 海の街の女には、

「モグタナの街は海から遠いので、日照りが続くことはないが、雪の街の雪解け水が川となってこのモグタナに流れている。海の街から雪の街までは二つの山を超えなければならないが、モグタナの街には一つの山を超えるだけでいい」


 そして更に、それぞれにこう付け加えました。

「ひとつの山を超えるですら大変だったのに、それからもう一つ超えたらヘトヘトだ。山越えをしていない街に挑んでもきっと勝ち目はなく、滅ぼされる可能性のほうがずっと高い。それよりも、頑張って一つの山だけを乗り越えてモグタナに移住したほうが、確実で、滅びるような心配もない。街をあげて歓迎するよ」


 そう伝えた後、二人をそれぞれの街へと続く道を案内してあげました。


 二人がモグタナを離れた数ヶ月後。


 東から獣の皮の服を来た人々が、西から大きな帽子をかぶった人々がやってきました。


 モグタナの人々は彼らのために、山の斜面を切り崩して土地を広げました。


 そして、最初にモグタナにやってきた少年と女は再会し、あくる年、結婚しました。


 二人の結婚は街中でお祝いされ、その後、雪の街や海の街という区別もなくなりました。


 山に囲まれた緑の街のモグタナは、他の街から人が来ることは滅多にありませんでしたが、何不自由なく、平和に過ごしました。

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