冒険5歩目
皆さんこんにちは、私ことユーリがテントの中より実況しております。
なぜテントの中かって?
それは現在絶賛大ピンチだからです。
さかのぼること数時間。
森についた俺たちは木の伐採を開始した。
護衛が見張りにつき着々と木を切り倒してゆく。
時折現れるモンスターも襲いかかってくるもの以外は相手にせず戦闘は最低限で済ませていた。
みんなの協力があって日が暮れるまでは順調に切り倒すことができた。
切り倒した木はそのままアイテムボックスへ放り込んでいく。
あとで製材して細かい枝や切り屑も燃料として使うつもりだ。
しかし順調に進んでいたのも日が暮れるまでだった。
いったん『始まりの地』へ帰るかこのまま明かりを灯して伐採を続けるか相談している時のこと。
森の奥から一匹のオオカミが現れた。
鑑定すると今までよりずっとレベルの高いモンスターであることが判明する。
[魔物] フォレストウルフ Lv.12
討伐対象 アクティブ
しかもアクティブモンスターだ。
一匹ならまだ皆でかかれば問題なかったかもしれないがそれからが問題だった。
戦闘の途中でオオカミが吠えると、どこからともなく増援のオオカミたちが現れる。
優勢と思われた状況も時を追うごとにオオカミたちに追い詰められてゆく。
オオカミたちは連携してプレイヤーを倒していき、次々とプレイヤーは光となって散っていった。
護衛が倒れ抵抗していた生産プレイヤーたちも一人また一人と減ってゆく。
その中で閃いたことが一つあった。
死ななければよかろうなのだ。
さっそくとばかりにテントを出して潜り込む。
突然の行動にあっけにとられたプレイヤーが首を噛まれて散っていくのを横目にログアウトをすべくシステムを呼び出す。
間一髪のところで凶牙から逃れ一息つくと不思議なことが起こった。
入り口が開いているにもかかわらずオオカミが何かに弾かれたように飛びのきゴロゴロと転がる。
オオカミにとっても不意打ちだったようでしばらくは何が起きたのか理解していないようだった。
その後も攻撃しようと襲いかかるが何かに阻まれるかのように入り口から中に入れないでいる。
悔しげに何もない空間を引っかきながらやがてあきらめたようにテントの周りを回りだす。
時折思い出したかのように体当たりをしてきたりするがテントは子揺るぎもしない。
これは、もしかするともしかするか?
どうやらテントを設置すると一時的にセーフティーエリアと認定されるらしい。
しかもテントの耐久は∞。
思わぬ安全地帯の発見である。
試しに中から攻撃できないか試してみるがどうやら見えない壁は中からの攻撃も防ぐらしい。
こういうところはきっちり公平なようだ。
周りの気配から残っているのは俺だけのようで残る気配はすべてオオカミのものらしい。
助かったはいいが周囲を狼に囲まれて孤立してしまった。
まさに四面楚歌。
周りのオオカミは諦めるつもりがないらしく待ちの姿勢。
どうやら出てくるのを待っているようだ。
こうなったらどちらが先に諦めるか根競べだ。
おもしろい、相手になってやろう。
というわけで用意しておいたログアウトボタンを押す。
こちらでの時の流れは現実の2倍。
俺が現実で1時間過ごす間こいつらは2時間も待つことになる。
そのまま飽きてどっか行ってくれればいい。
せこい?
違うな。
負けなければよかろうなのだ。
心の中で高笑いしながら現実へ帰ってくるとちょうど午後3時を回ったところだった。
ゲーム内での昼が現実の9時から15時と21時から3時ということらしい。
とりあえず奴らが諦めるまで現実で時間をつぶすことにした。
とあるゲームでたき火が進入禁止オブジェクト扱いになるものがありましてね。
モンスターをひっかけて遠隔攻撃で倒すだけの簡単なお仕事です。