【習作】昼食日和
【習作】先輩と後輩の日常会話(http://ncode.syosetu.com/n3972cb/)と同一の登場人物を扱っています。
「あー、なんか平和だなぁ……」
小さな公園のベンチに座っている一ノ宮 悟は、近くのコンビニで購入したツナサンドイッチを頬張りながら、ぽつりとそう零した。
「仕事中ですよ。気を抜かないで下さい」
隣に座り、同じくサンドイッチを口にしている桜井 正直が顔を顰めながら言う。
「そう思わねぇ? 目の前には遊具で楽しそうに遊ぶ子供はいるし、他愛もない世間話を楽しんでいる主婦の皆様はいるし、手をつないで散歩してる老夫婦はいるし、おまけに日向ぼっこできるくらいに天気はいいし。平和以外の何物でもないだろ、今って」
「平和というのは、僕達の仕事がないことを言うんですよ」
正直が悟の台詞を切って捨てる。悟はしばらく返答に迷った末、「そうだな」と同意した。
その言葉を耳にした正直は咀嚼を止め、悟の顔を覗き込む。
「……鳩が豆鉄砲食ったような顔してんぞ、お前」
「いえ、あなたが僕の言葉に反論しないなんて、珍しいですから」
視線を正面に戻しながら正直が言う。「そりゃ貴重な体験できて良かったなぁ」と返しながら、悟は欠伸した。
「けど、実際そうだよな。本当に平和なら、俺たちみたいな仕事はないはずだからな。特にこんな仕事はなぁ」
見上げた太陽の眩しさに、悟は思わず目を細めた。「いー天気だなぁ」と呟く。
正直の切れ長の瞳に、刃物に似た鋭さが宿る。
「……仕事中だって言ってるでしょう。何度も言わせないで下さい、撃ちますよ」
「だからなんでいっつも最後に俺を撃とうとするんだよお前は―――」
慌てて反論する悟。その目に、正直の手に握られている、食べかけのサンドイッチが映る。
途端に爆笑する悟の姿に、公園にいた誰しもが不思議なものを見るような、もしくは不審なものを見るような視線を向ける。
「ちょっと! 何ですか、急に!?」
「だってお前っ……そんな涼しい顔して……苺って……!」
腹を抱え、呼吸困難になるほどに爆笑している悟。その理由を聞いた正直は、珍しくその頬を羞恥の色に染めた。
「酷い人ですね、人の食べ物で笑うなんて。別に誰が何を食べようと、あなたには関係ないでしょう?」
悪ぃ悪ぃ、と全く悪びれていない口調で謝罪しながら、悟は目元の涙を指の腹で拭う。
「だけどさ、お前みたいにフランス料理しか食べませんって言われても納得するようなクールな顔した男が、苺とホイップクリームいっぱいのサンドイッチ食べてる姿ってなかなかのインパクトだぜ? ちょっと雛菊ちゃんにメールするから写真撮らせて」
いまだにヒーヒー言いながら携帯電話をポケットから取り出そうとする悟を、正直は全力で睨みつける。
「ちょっと、お二人さん。いつまで遊んでんの?」
突然声を掛けられ、悟と正直は揃って声の主に目を向ける。
二十代前半と思しき男性。決してイケメンとは言い難い顔。重ねたシャツにジーパン。足元のスニーカーは量販店でよく見かけるような安物だ。
「どちら様?」
悟が声を掛けると、男は不機嫌そうに頭を掻き毟りながら「何度目だよ……」と呆れた様子で呟いた。
「飛鳥さん、我々に接触する前には事前にどのような容姿なのか知らせてくださいと、こちらも何度もお願いしているはずですが」
正直が冷静に告げると、男は「ありゃ、そうだったっけ」と苦笑する。
「何だよお前、今回は男かよ……。女が良かったなぁ、それこそスマートな社長秘書的なOLとか、旅館の若女将的な人妻とか」
「オッサンの趣味に付き合ってる暇なんてないの。とりあえず伝令。本日の作戦は予定通り決行。気を抜かずに任務にかかるように、だってさ」
「オッケー、オーライ」「了解した」
悟と正直は同時に返事し、互いをじろりと睨む。
「はい、ちゃんと伝えたからね。また後でね、サンドイッチマンたち!」
手をひらひらと振りながら、飛鳥はその場を走り去る。
悟は飛鳥が去り際に言った台詞を反芻した後、再び正直の手元に目を遣り、ぶふ、と品なく笑った。
続きは書くかもしれないし、書かないかもしれないです。




