【ギルド】登録
朝10時、【ギルド】についた。
試験日近くの【ギルド】の新規登録の受付は11時から特設窓口で行うそうだ。
俺たちは道すがら雑談(主にあいつの自己紹介だったが)しながら来たので、特に話す事も無く手持ち無沙汰になっていた。
「なあ、ユウリ」
「どうした?」
こいつはセイジと名乗ったので以後セイジと呼ぶ事にするんだが。どうやら【剣士】の養成所上がりだったらしい。
【剣術】のレベルがどうしても4から上がらず、登録資格を満たせなかったという事で【戦士】の試験に流れてきたそうだ。
だが、どうしても三次試験(俺は結局見なかったが、バトルロイヤル形式の模擬戦闘だったらしい)で集中攻撃を食らって真っ先に落ちたのだとか。
俺が三次に行ってたら確実に落ちてたな(汗)
「お前さ、【僧侶】にちょっと足りないって事は【浄化】か【回復術】は使えるのか?」
「ああ、【回復術】が使えるし、実を言うとまだ心もとないが【浄化】もできないことは無いが・・・それがどうした?」
「じゃあさ、冒険者登録したらパーティー組んでちょっと狩りに行かないか?俺は前衛しか出来ないからどの道後衛を探す必要があったし、お前は接近戦主体になったらまず死ぬか逃げるかになるだろ?」
確かにそうだな、俺の代わりに前衛をやる奴が居ればレベルは上げやすくなるか。
そのまま続けていくには華も無いし絶対行き詰るパーティー構成ではあるが、【ゴブリン】程度なら問題はないか・・・
「そうだな、登録が終わったら組むか・・でももう一人【回復役】は入れるぞ?俺の【回復術】なんか最低レベル以下だからな」
「【僧侶】入れたらそいつのほうが中衛になりそうな感じだけどな」
「俺が言う分には良いが、お前に言われるとなんか殴りたくなるな」
そんなしょうもない事を言ってると横に眠そうな連中が集まってきた。
【僧侶】試験組か?
なんか騒がしいな。
「おい、お前なんでここにいるんだよ」
「そうだよ、お前結局卒業も出来なくて試験も落ちたんだろ?さっさと修行に戻るか実家に帰ったらどうだ?」
どうやら朝の試験に落ちた奴が来ているらしい。一緒にいるのは同じく卒業できなかったが、何とか試験までに資格を満たした奴らのようだ。
「僕だって好きで試験に落ちたわけじゃない!!【浄化】試験であんなアクシデントさえ無ければ僕だって受かったはずなのに・・」
ギリギリと歯軋りが聞こえそうなほど悔しがっているのがわかる。
どうやら【僧侶】組でもアクシデントがあったらしいが、俺の方はそれが好転したのに対して、こいつは悪いほうに向かったようだ。
「そんな事言っても、運も実力の内って言うだろ?アンデッドの中に【マリオネッター】が混じってたなら、それを見抜いて直接攻撃すればよかったと後から言われたじゃないか」
【マリオネッター】・・・見えない糸で者や死体や骨を動かす事で、魔族やアンデッドの仕業に見せる性質の悪い悪戯妖精だったか。
確かにそれに反応できずひたすら【浄化】してたら失格になるな、【ゴブリン】の群れを見逃すのと同じ失態だ。
「くそ!!」
紫色のケープをつけた奴がその場から去って行った、多分あいつが試験で落ちたって奴なんだろうな。
判断力に問題はあるが、実力は多分十分なんだろう・・・
「お?窓口開いたな、行こうぜ!」
「そうだな」
さっさと登録を済ませることにするか。
登録も終わって特設窓口を出ると、少し先の木陰に紫色のケープをかけた奴を見かけた・・さっきの奴か?
ちょっと声をかけてみるか。
「ちょっといいか?」
いきなりでビクっとしていたが、自分の知らない声だと思ったのか不機嫌そうに振り向いてきた。
「僕?」
「ああ、あんただ。さっき窓口の前でなんかもめてたろ?」
「・・・確かにもめてたのは僕だけど、何か迷惑かけた?」
驚いた事に、目の前に見えるのはどう見ても少女だった。
パッと見は12歳くらいに見えるが、養成所を卒業した上で試験も受けてる事を考えても15は超えているんだろう。
「美少女」というほど目鼻立ちが整っているわけではないが、その庇護欲を掻き立てる感じは少女だと思えた。
しかし・・・「僕」?所謂「男の娘」って奴なんだろうか?
声変わり前なのかいやに高い声だと思ったが、これじゃどっちか判断がつかん。
「・・・すまん、失礼承知で聞くが性別どっちだ?わからないままだともっと失礼になるかも知れんし」
「え・・?ああ、今までまわりは知ってる人ばかりだから特に気にして無かったよ。僕の名前はエリオ、【僧侶】見習いで男だよ」
「そうか、よかった。やり取りから男だと思ってたのが顔見たら微妙だったんでな。俺の名前はユウリ、【戦士】になったばかりだ」
確認しておいてよかった・・・こりゃ、あいつらの中にも本気で田舎に返そうとしてた奴もいそうだな。
「じゃあ本題だ。エリオは俺たちとパーティーを組む気は無いか?」
「え?」
鳩が豆鉄砲食らったようなとはこんな感じだろうな。
完全に呆気に取られてる。
「いいの?さっきも言ったけど僕まだ見習いだよ?」
「いいんだよ、【ギルド】に登録できないだけで実力はあるんだろ?だったら後は仕事を請けられないとか買取が買い叩かれるくらいのデメリットだ、その辺を俺たちがやれば問題は解消されるだろ?」
「ま・・まあ、そう言ったらそれまでだけど・・・」
「俺たちは後衛、出来れば【回復役】が欲しい。でもこっちだって駆け出しだからな、今からそういう仲間を見つけようと思っても足元を見られるのがオチだ。その上で、俺たちは分が悪いんだよ・・・俺が本当に中途半端な所為でな」
「え・・?どういうこと?」
「俺は【戦士】としては体力が無さ過ぎて連続戦闘に向かないんだ。その分後衛の能力も持ってるが知力が低いので本来の役割が果たせない。もう一人だけならどこにでも入り込めるだろうが、俺は無理なんだよ」
「あ・・だから」
「ああ、そうすれば俺は後衛を守りつつ魔法で援護という形が取れるようになる。そこでエリオ、お前だ」
「ぼ・・僕?」
「お前なら俺と同じ様に他に入れてもらえないか、足元を見られてしまう。なら少なくとも俺とは対等で居られるうちのようなパーティーの方がよくないか?」
流石に話が旨過ぎて悩んでるみたいだな。
こんな時に俺のようなデメリットを前面に押し出す事はまず無い、だからこそ自分が単に食い物にされるわけじゃないという印象になってくれれば良いんだが。
「うん、わかったよ。確かに僕が冒険に出ようと思ったらどこかのパーティーに入るほうが良いし、そうなれば多少不利な事も大いにあるもんね。だったら君たちのほうが文句も思いっきり言えそうだ」
「そういうことだな、じゃあ向こうで待ってる奴と顔合わせだ」
「わかった」
そういってセイジの待っているところへ向かう。
セイジはエリオを連れてきた敬意、エリオの外見と性別のギャップにひとしきり驚いたものの、「おもしろい」と快諾した。
俺を勧誘するくらいだ、そういう反応だと思ってたよ。
俺たちは【ギルド】の正規窓口に行くと、一つの依頼を受けて【ギルド】をあとにした。
【ギルド】登録が完了し、仲間もゲットできました
次回は11/9の予定です