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守護霊なう  作者: 宇龍地
最終章
33/42

山賊

東王の都を出て五日。

今となっては高級品のガソリンを使った交通手段で一路北へと向かう・・・まあ、キャンピングカーなんだけどね。


現代科学で快適性を増した乗り合い馬車と比べても格段に快適な旅に全員が脱力モードになった頃、異変は起きた。


「キキーッ!!」


急制動に全員が座席から落ちると、運転手をやっていたバートさん(捜索クエストの時、暫定リーダーをやっていた冒険者だが、元々対頭目戦の戦力として近隣に居た高レベル冒険者を集めた臨時パーティーのリーダーだったらしく、本来はフリーランスだったとの事で、今回は運転手を買って出てくれた)がこちらに向かって話しかけてきた。


「なんだかバリケードがある、多分山賊だと思うから注意してくれ」


言うが早いかギヤをバックに入れて道を変えようとすると、それを見越したのか周囲の草むらから一抱えほどもある太さの丸太を持った山賊らしき男たちが出てきた。

「ヤられる!!」と思ったが特に衝撃は無い・・しかし、車はうんともすんとも言わなくなった。

どうやら前後のタイヤを丸太で止めたようだ。


狙いは車ごとって事か。


「へへっへ。怪我したくなかったら大人しくしてな!」


実にテンプレな山賊の第一声に俺だけが苦笑していると、バートさんが車を降りた。


「何の用だ?俺達は急いでいるんだがな」


俺達だけなら「魔王の名残」を使って転移で逃げる事が出来るとは伝えてあるので、捨て身で時間を稼ぐつもりなんだろうか?


「お前ら政府の協力で北に向かってるって奴らだろ?協力してやるから荷物は全部こっちによこせ」


テンプレにも程がある。


《バートさん、ちょっと体貸してくれ。連中を一掃する》


俺が断りを入れるとバートさんは僅かに頷いた。

それを了承と見て俺は【操躯】を使いバートさんの身体で【豪雨火矢】を撃ちこむ。


この【スキル】は非常に使い勝手が良い。

俺が誰かの身体を借りて使う時には特にだ。

なにしろ殺傷能力を持たせなければ、セイジ程度の魔力でさえ半径100mくらいなら撃つ事が出来る。


俺は多少傷になる程度まで威力を絞り、できるだけ広範囲に撃った。


「「「ギャアーーーーっ!」」」


盗賊たちの悲鳴が汚く重なった。


その隙を突き、バートさんは前後のタイヤに噛まされた丸太を彼の所持する魔剣を使って弾き飛ばした。


バートさんの魔剣は彼が自分で探索した遺跡から発掘した物で、切っ先が触れた物の重量をコントロールできる。

切っ先が触れた瞬間から離れて数秒間の間魔剣の使用者の意のままになるため、今回のように邪魔な物をどこかへ移動させたい時や、重い物を遠くに飛ばしたいときに重宝する。

逆に、無傷で無力化させたいときは、相手の重量を増やして身動き取れなくするといったことも出来る。


ものすごいベテランなのはわかったので出発前に試しにレベルを聞いたら50を超えていた・・・

この世界じゃ40を超えると超人扱いなので、フリーランスで冒険者をやっているのも頷ける。


年齢も生前の俺より上なのでさん付けである・・・アルバみたいに呼び捨てて良いと許可されて無いしな。


さっさと乗車してばっくれようと思ったらすぐに本隊がやってきた・・勘の良い奴らである。


「げーーはっはっはぁ~~っ!俺様の子分どもにたてついたのはどこのどいつだあ~?」


非常に良く通る割に残念すぎる下卑た声が轟く。

そちらの方角を見ると大男がこちらに向かってくるのが見えた。


あれ?なんか遠近感おかしくね?


よく見ると膝下に見える草むらに腰まで埋まっている子分たち・・・おいおいでか過ぎるだろそれ。


大男は、身長にして3mをゆうに超えている様だった。

しかし、遠近感が狂うほどバランスは良く、そのフォルムは正しくゴリラと言うかわかり易く言うと原○夫さんの描く大男そのものだった。

「そんなでかいババアがいるか!!」のあれである。


俺は一旦バートさんから離れて車の中に戻り、ユウリたちを呼び出す。

あいつは流石に全員でかからないと無理そうだ。


表に出ると、案の定バートさんが苦戦を強いられていた。


襲いかかって来る雑魚は魔剣の力ですっ飛ばして終わりだったようだが、あの大男はどう切りかかっても効果が無い様子だ。


《一体どうなってるんですか?》

「あいつ・・どうやら魔力が通りにくいようだ。重くしようとしても軽くしようとしても大して効果が無い」


バートさん的には相性が悪いのか・・


「そればかりじゃない・・奴の攻撃は重い。俺が避けたところで運悪く拳の餌食になった奴の子分が奴の力だけで数m飛ばされやがった」

《なっ!?》


どんだけべらぼうな腕力だよ。

いくらこの世界でも、素手で数m飛ばすとか滅多に居ないぞ。

って言うか、それをやろうと思ったら必殺技レベルの力を入れる必要がある。ユウリの肉体で気合を入れてぶち込んでも宙を舞う事は早々無い・・もしそれを筋力だけで再現するなら100は無いと無理だろう。


そうだな、筋力100にあの質量ならありえるかもしれない。


俺達は戦闘陣形に展開すると標的に向かった。

まず後衛からの攻撃が飛ぶ。


ラスの魔弓が数十本の矢を連射する。

この弓の特殊能力により出鱈目に撃っても狙った的に当たる特性を活かした攻撃方法だ。

矢には麻痺をさせるために雷属性を付与しているようで、あちこちで感電した際の悲鳴が聞こえた・・・割とエグい攻撃である。


アナは魔法障壁を展開する・・最前列のバートさんは守れないが、こちらの後衛は守る事が出来る。


マーリィとユウリは【火炎旋風】を放った・・・この二人的には一番相性の良い攻撃だろう。


雑魚は雷属性の矢で無力化され、孤立した大男を【火炎旋風】が襲う。

無駄に多い魔力を使った無尽蔵とも言える炎の矢を巻き込んだ風の渦がこの戦闘の勝利を約束するかに見えた。


「ズボッ!!」


間の抜けた音と共に、炎の渦から腕が飛び出してくるのを合図に、【火炎旋風】が解除された。


「げーーはっはっはぁ~~!お前ら強いなぁ。ここまで俺様を追い詰めたのはお前らが初めてだぞ」


おい・・・


「む・・無傷ってなんだよ・・ちょっと焦げてるだけじゃねぇか!?」


どうやら魔力の通りが悪いと言うのは間違いが無いようだ・・下手すると魔力無効化に近いのかもしれない。


《レニ!君の斧で攻撃してみてくれ》


レニは頷くと俺の考えを読んだのか勢いよく横なぎに(・・・・)斧を振りぬいた。

倍加したGにより本来の重量をはるかに超えた物体が奴に突き刺さる。

俺の考えが正しければ、増やしたG(重み)は消えてもそれまでに生まれた慣性力は打ち消せないはず・・・


「ギィィィンッ!!」


・・・

到底金属と人間がぶつかった音には思えない音が響く。


「いててて・・・傷が突いちまったじゃねぇか」


冗談だろ?

斧は確かに奴の腕に食い込んだ・・様に見えた。

だが実際には斧は弾かれ、体重の軽いレニは斧ごと飛ばされたようで、かなり離れたところに着地した。


レニが弾かれて飛んだ・・と言う事は慣性力は消えていない。

単純に奴の防御力が慣性力による勢いが付いた斧を弾けるほどだったと言う事だ。


人間業では無い・・・と言うか普通モンスターや魔族でもこんな芸当無理だ。


「んん~~~ん?俺様の強さが不思議で仕方ないと言う顔をしているな~~?」


当たり前だろそんなもん。


「俺様はな、選ばれし者って奴なのさ」


なんだと?


「器とか何とか言われたが、そんな事知った事か。俺様は魔族すら裸足で逃げ出す力を手に入れた!もう俺様に勝てる奴なんざいやしねえんだ!!」


こいつ・・「導き手」はどうしたんだ?


《おまえ・・選ばれし者だと言うなら「導き手」はどうした?》


堪らず【念話】で話しかけた。


「んん~~ん?この感じ・・・覚えがあるな」

《俺はお前とは関係ない「導き手」だ。お前の「導き手」はどうした》

「あ~~~、あいつか。あいつなら俺様の中で眠ってるぞ」

《!!?》


俺とユウリとは逆のパターンだってのか!?


「生意気にも俺様を北の外れまで連れて行くって体の主導権を取ろうとしやがったんでな。返り討ちにしてやった」


・・・こいつはもうどうしようもないな。


《管理者・・聞いてるか?》

《はいはい、なんですか?》

《今ここに俺たち以外の選ばれし者というのが居るんだがな?》

《それがどうかしましたか?》

《「導き手」を取り込んで自由になったと言って山賊やってるんだよ》

《・・・それは又特殊な例とお会いになりましたねえ》


のんきな奴である。


《こっちとしては無視して先に進みたいんだが、荷物もあることだしそれは最悪のケースとして・・・お前の方でどうにか出来ないか?》

《無理です》

《即答かよ!!》

外道な敵役登場です!!

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