神託
はれて教主から「選ばれし者」としてのお墨付きを受けた俺は、神託を受けるために祭壇のある部屋に通された。
そんなものは別に欲しくないと強行に辞退したのだが、受け入れて貰えなかった。
もう燃やしちゃって良いかな~?この教会。
まぁ、本当に神託があるのなら聞いておいたほうが無難だよな・・・まだ理由知らないわけだし。
祭壇のある部屋は、様々な儀式・祭典の行われる礼拝堂ではなく、教会の屋根裏にある小部屋だった。
この下に礼拝堂がある為、儀式などは祭壇の下で行われると言う事になるようだ。
部屋に入ると、いかにも神様の使いですと言わんばかりの格好に着替えた教主が待っていた。
俺が指示された場所に立つと、教主は仰々しく神像に祈りを捧げだした。
体感的には一時間ほど経っただろうか?
退屈すぎて異様に時間がかかったように感じただけかもしれないが、その時神像が光りだした。
”選ばれし者よ、我は神である”
部屋の中を声が響く。
エコーもかかっているように聞こえるが、周りを見てもそれが聞こえている様子は無い。
”そなたに使命を与える”
半透明の立体映像が目の前に現れる。
なんだろう?教主の若い頃のように見える・・・
あ、これやっぱ偽者だわ。
”そなたは勇者に選ばれたのだ・・・・”
ちょっと身体を動かしてみる・・・
途端に聞こえなくなる声。
恐らく超指向性の伝声魔法か何かにエコーをかけたメッセージを載せるのだろう。
科学的な発想の無い【フィアル】では気付く者も居なかったかもしれないが、ここは【リアース】と融合している・・・と言うか俺の生前の世界は下手すると【リアース】よりも進んだ科学世界だ。
俺が特に頭が良いわけではないから、威張れるような話でもないのだが。
”・・・聞いているのか?”
どこかから見ているのだろうか?姿勢を元に戻したところで咎められた。
恐らく「変なまねするなよ?これは録音とかじゃなくちゃんと見ているんだからな?」と言う牽制だろう。
これもやはり遠見の魔法など何かしらの形でこのポイントを見ているんだろう。
”もう一度言おう。そなたは勇者に選ばれたのだ、そなたには魔王を倒す使命がある。”
きたきた・・・手っ取り早く手柄を立てたいからこういう使命を与えるんだろうな。
「だが断る!!」
キリッ!!
とでも擬音が入る勢いで断って見せる。
”選ばれし者よ、そなたは勇者なのだ、断るなどと言う選択肢は無い”
なかなか向こうも強気だな・・・
「ならば聞こう、魔王とはなんだ?」
”魔王とは魔族の王だ”
「それは今どこに居るんだ?」
”魔族の国に居る”
「魔族は亜人のような物だ、特にこちらに敵意を表していないのにその王を滅ぼすのか?」
”魔族は存在そのものが人間の敵だ、滅ぼさねばならん”
「有史以来、人間と明確に敵対したのは大きな戦で数えれば片手で余るほどだが?」
”それは・・・”
「しかも、それらは近代、人間の侵攻に因って起こされた物が殆どで、魔族からの侵攻は前回の魔王対勇者のあの時のみだと歴史にはあるが?」
”あれが再度引き起こされる前に魔王を倒さねばならんのだ!!”
やれやれだ・・水掛け論どころじゃない。
「そもそもだ、俺は勇者ではない、それだけは事実だ」
「”何!?それはどういう事だ!?”」
おいおい・・目の前の教主と天の声がハモっちゃったよ。
「勇者と言うのは【フィアル】において生まれる【存在】の不均衡から起きた災害を抑える存在であり、召喚の際に【存在】の均衡を保つための力を与えられる存在だ」
「”だから魔王と言う不均衡があるのだから勇者が現れるべきであろう?”」
「魔王そのものは不均衡ではない。【存在】の不均衡とは災害だ、前回はそれがたまたま魔王と言う形で生まれたに過ぎない」
「”今回は魔王で無い保証など無いだろう?”」
「次に、勇者とはさっきも言ったように災害に対処するための力を与えられている。俺にはそんな力は無い」
「”邪神の召喚を防いだではないか!!”」
「それは結果に過ぎないし、そしてそれが役目だったとすれば、既に俺は役目を終えている。勇者とはそう言う存在だ」
「”一体どんな確証があってそんなことを?”」
「歴史は調べたんだよ、【フィアル】の歴史において、一人の勇者が複数の災害を止めた史実は無い」
「描かれていないだけかもしれないではないか」
もう天の声は聞こえない。
「恣意的に捻じ曲げられたのでもなければそんなことはありえない。むしろ恣意的に捻じ曲げるのであれば、同時期の災害は同じ組織の一人の勇者が抑えた事にされるだろう」
そして畳み掛けるように言った。
「大体、俺は既に神託らしき物は受けている、時が来るまで器を育てろと」
偽の神様の言いなりになるつもりなど無い!!
と、言う事で次回は12/20の予定です




