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レッドキャップ  作者: 髪槍夜昼
七章 忘れ去られた真実
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第八十一話 代替


「…さあ、好きに暴れるがいい」


そう告げると、テセウスは砂塵へ変化して消えた。


その場に残されたのは、テセウスの言葉にも反応せず佇むバーゲストだ。


獲物に狙いを定めるように、赤い瞳を静かに赤帽子へ向けている。


「随分と雰囲気変わったな。初めて会った頃が懐かしいぜ」


「はは…ははははは…そう、だね…うん、そうだな」


殺意と視線は向けながらも、どこか焦点の合わない瞳をバーゲストは動かす。


その様は狂気染みており、とても正気には見えない。


ヒトのまま魔力に触れ過ぎた為、精神が完全に崩壊している。


「…元から妖精に生まれていれば、少しは幸せだったろうに」


思わず、憐れみに近い言葉が漏れるが同情などするだけ無駄だ。


この憐れな狂犬は自分に襲い掛かってくる。


なら、殺されない為に…殺すまでだ。


「一時は道を示した先人として、引導を渡してやる」


赤帽子の言葉と同時に、バーゲストは獣のように襲い掛かった。








「外が、騒がしい」


王城の廊下を歩くリアは、窓の外を見ながら呟いた。


町のあちこちから聞こえる爆音。


次々と立ち上る煙。


まさか、また妖精が攻めてきたのだろうか?


そう考えていた時、チリンと鈴の鳴るような音が聞こえた。


不安で俯いていた顔を前へ向ける。


そこには、首に鈴を付けた『猫』が座っていた。


汚れているようにも、元々の色にも見える、真っ黒な色をした猫だ。


どこから入り込んだのか、いつのまにかリアの部屋に現れた不思議な猫。


何故かリアは導かれるように、この猫の後を追いかけていた。


理由は分からないが、直感的にこの猫を追っていったら、自分の過去を思い出せるような気がするのだ。


「…私は猫を飼っていた。黒い猫。この猫と同じくらい真っ黒な…」


霞みがかった記憶を辿りながら、リアは救いを求めるように猫を追っていった。








「…呆気ない」


王都を進攻するイグニスはその容易さにため息をついた。


前の戦争ではあれ程自分達を苦しめたと言うのに、イレギュラーに助けられなければこの程度か。


本当に人間は弱い。


だが、その人間に多数の妖精が殺された。


その復讐は、私が果たす。


激情に合わせるように、炎が勢いを増した。


「イグニス、この先が王城のようだけど…どうする?」


一人の妖精が目の前に存在する兵士達を見て言った。


イグニスの答えは決まっている。


「正面から、力で打ち破るまでです」


炎が、兵士達へと放たれた。








一人。


孤独。


母親がいない。


友達もいない。


私は、一人だった。


「ッ…」


頭痛を感じたようにリアは顔を顰めた。


まただ。


黒い猫を追いかける内に、段々と過去のことを思い出している。


この猫は一体何?


私に、何を思い出させたいの?


「少しは記憶を取り戻したか姫君?」


その時、無機質な声が聞こえた。


何度か出会ったことのある人影。


その男は、動きを止めた黒い猫の前に佇んでいた。


「テセウス…どうしてここに?」


「お前の居場所など、俺は手に取るように分かる…『俺達は繋がっているんだよ』」


「…?」


意味深な言葉に首を傾げるリアを見て、テセウスはため息をついた。


期待が外れたように、残念そうに…


「その様子だと、殆ど思い出していないようだな」


そう言うと、テセウスは黒い猫を掴み…その頭を握り潰した。


「こんな物を使った意味もなかったな」


頭を潰された猫は炭のように崩れていく。


元々まともな生物ではなかったのか、その身体は数秒で完全に風化した。


それは、テセウスが拡散する光景に似ていた。


「その猫も、あなたの魔法だったの?」


リアがティターニアの剣を生み出しながら、尋ねる。


疑問には答えないまま、テセウスはその光へ仮面で覆われた顔を向けた。


「やめておけ。俺にそれは効かん」


簡潔に告げられた忠告に、リアはテセウスの石化が浄化できなかったことを思い出した。


テセウスの魔法は、何故かティターニアの剣を受け付けない。


それと同様に、テセウス自身にも効果が薄いとでも言うのか?


考えられる理由は…


「あなたも、ティターニアの剣を持っているから?」


戦場で出会ったあの時、テセウスはティターニアの剣を持っていた。


この力のことは分からないが、同等の力を持っていると浄化が効き辛くなるのだろうか?


「違う。アレはただの代替品だ…本来のティターニアの剣には遠く及ばない」


「代替品?」


「そう、『剣』の一部を俺の力で結晶化し、指輪の形にした物だ。妖精相手ならそれなりに強力だが、使い勝手が悪くてな。もう捨ててしまった」


不意打ちとはいえ、赤帽子を一度瀕死の重傷を負わせた『アレ』を、テセウスは代替品と蔑んだ。


それ以上の力が、ティターニアの剣には秘められていると…


「俺達は繋がっていると言っただろう? それが、俺に『剣』が効かない理由だ」


「…どういう意味?」


「言葉通りだ。そのティターニアの剣は…」


テセウスが何かを言いかけた時、王城の壁が破壊された。


瓦礫と共に押し寄せる紅蓮の炎。


その中心には、イグニスがいた。


「貴女が、王女リアですね?」


「…また邪魔物か」


苛ついたようにテセウスは呟く。


「姫君、王城から出ろ。お前を殺させる訳にはいかん」


庇うように言ったテセウスの言葉に少しの間だけ迷い、


その後、リアは壊された壁から逃げ出した。

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