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レッドキャップ  作者: 髪槍夜昼
一章 姫と妖精
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第五話 悪鬼


「国王様、本当に奴を牢から出すのですか!」


「それ以外にリアを救う手段はない。リアを救う為なら、私は悪魔とでも取引をする」


引き止める大臣を振り払い、エイブラムは地下牢を歩く。


凶悪犯を閉じ込めている地下牢の更に奥、ヒトですらないモノの存在する場所へと…


「エイブラム…仮に奴がこのタイターニア全てに害を成す存在だとしてもか?」


妖精狩り部隊の隊長であり、旧友でもあるセドリックが言った。


誰に何を言われようと、エイブラムの答えは変わらなかった。


「リアは…戦争が終わり、この世界が平和になった後に生まれた子だ。あの子にはこの平和になった世界を楽しませると、私は亡き妻に誓ったのだ」


「…そうか、ならば私はもう何も言わん」


表情に乏しい親友は、そう言い口を閉じた。


普段から必要以上に言葉を話さない男だが、この時はそれが有り難かった。


大臣達も、セドリックが口を閉じた後、言葉を発することはなかった。


そして、遂にその場所へと辿り着いた。


「おやおや、団体様で…久しぶりッスね、国王」


その男は、あの頃と変わらない笑みを浮かべていた。


赤帽子レッドキャップ、取引だ」


「取引? 俺と?」


「私の娘、リアにかけられた魔法を解け。そうすればお前の罪を許し、自由を与えよう」


エイブラムは必要最低限の言葉だけを赤帽子に告げた。


赤帽子は、変わらず笑みを浮かべていた。


「………」


エイブラムは、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


赤帽子の要求は一つ、


首輪の鍵を渡せ。


やはり…とエイブラムは思った。


石の首輪。


アレは当然、ただの首輪ではない。


魔力を発する特殊な石、魔石で作られた首輪だ。


魔石はヒトにとっては毒物で、最近ではその麻薬まで出来た程だが、同様に妖精にとっても毒である。


魔力を扱う妖精は、魔石に触れると魔力が狂い、弱体化する。


魔石の首輪は、妖精を弱体化させる為に作った物なのだ。


つまり、アレが外れることは赤帽子の魔力が完全になることを意味している。


現在でも十分に驚異的な赤帽子が完全復活したら…一体どれほどの被害が出るか。


…だが、


「…鍵は、ここにある」


エイブラムにとって、娘以上に優先される物はなかった。


これが、国王としてどんなに間違った行いだろうと、目の前で殺されかけている娘を見殺しにすることは出来なかった。


「くはははは! 老いたなエイブラム! 何よりも大義を優先し、国を救う為なら、どんな非道も行った戦乱時代のアンタはどこ行ったんだよ!」


「………」


エイブラムは躊躇した後、鍵を赤帽子へと投げた。


エイブラムにとってリアは平和の象徴だった。


戦乱時代のエイブラムが求めていた物だった。


それが手に入った今、決して失いたくないと思っていた。


だから今、リアの為に全てを投げ捨てた。


鍵を手に入れた赤帽子はすぐに自分の首輪を外した。


三年間忌々しかった首輪を放り投げ、魔力が戻るのを実感する。


「くははははははははは! これで俺は自由だ! ヒトなんざに縛られねえ! 醜くて臭い汚物共に媚びへつらう必要もねえ!」


「赤帽子…」


「ああ、小娘。お前の役目は終わった。もう自由にしていいよー」


突きつけていた斧を下して、赤帽子は言った。


どうでもよさそうに、


その辺の虫けらでも見るように、リアを見ている。


「どうして、こんなことを…?」


「何も知らないお姫様。例え笑顔を浮かべていても、心の中では相手のことをどう思っているかなんて、分からないものなんだよーん」


「え…?」


「つまり、俺はお前達、ヒトなんか大っ嫌いだってことだよ!」


嫌悪感を顔に浮かべて、赤帽子は叫んだ。


三年間の鬱憤を晴らすように、叫ぶ。


「魔力も持ってねえくせに、この俺を見下し、道具のように扱いやがる! 醜くて臭くて五月蠅くて…触れたくもねえよ! クソ共が!」


「そんな…」


「お前達だってそうだろ! 妖精を認めず、臭い物に蓋をするように閉じ込めやがった! お前だって魔力塗れの妖精は汚ねえと思ってんだろ? 正直に言ってみろよ!」


「私は、そんなこと…」


リアは、何を言っていいのか分からなかった。


ただ、悲しかった。


裏切られたこと、


赤帽子が本当は何を感じていたのか知らなかったこと、


心がすれ違っていたこと、


それがとても、悲しかった。


「くははははは! 所詮お前は…」


「それ以上、喋るな!」


赤帽子の笑い声を遮って、怒声が響いた。


赤帽子は笑みを止めて、声の主を見る。


怒りの込められた目で睨むエイブラムの姿を…


「貴様だけは許さん!」


既に兵士達は動いていた。


剣を構え、赤帽子へと兵士達は向かっていく。


それには目もくれず、赤帽子はエイブラムの方を向いていた。


ゆっくりと手に持った斧を振り上げる。


「喚くなよ、蠅が」


一瞬だった。


エイブラムが一度瞬きをして、目を開いた時には赤帽子は目の前にいた。


まるで、空間を喰い破って移動したかのような…


リアも、兵士達も、エイブラム本人も何が起きたのか理解できなかった。


エイブラムは、自身に向かって振り下ろされる斧を、呆けた顔で見つめていた。


「…エイブラム、いつもイライラしながらアンタの顔を見上げていたが…」


時が止まったかのように静かになった部屋で、赤帽子は足元へ目を向ける。


ゴミを見るような蔑んだ目で、見下す。


「今度は俺が見下ろす番だ。くははははは!」


そこには、エイブラムの首が転がっていた。


「国王様…この化物!」


「絶対に逃がすな!」


リアの悲鳴を聞きながら、兵士達が赤帽子へ突撃する。


自分達の国王の仇を討つ為に、


目の前の怪物を殺す為に、


「逃げる? んなことする訳ねえだろ?」


笑みを浮かべ、赤帽子は兵士達へ目を向ける。


「さあ、お前達に本当の『魔法』ってやつをみせてやるよ」


赤帽子は斧を天井へ投げた。


斧に付着したエイブラムの血が舞う。


花のように舞い散る血の中で、赤帽子は舞台役者のように両手を広げた。


「害虫は我が同胞。存分に暴れろ、盟友共!」


ズルリ…と害虫が樹木を食い破るように、何もない空間から『何か』が這い出た。


一匹や二匹ではない、十や二十でも足りない程の大群。


蟲のように醜い妖精の大群だ。


拳くらいの大きさを持った蠅のような『悪鬼の群れ』


「コレが俺の最も得意とする魔法…『アンシーリーコート』だ!」


叫び声と共に悪鬼達が兵士達へ襲いかかる。


阿鼻叫喚。


それは最早、戦いとは言えない虐殺だった。


大群と言う天災に兵士達は飲み込まれ、身体を食い破られ、死に絶える。


戦意を喪失して逃げ惑う兵士達を眺めながら、赤帽子はのんびりと城から去って行った。


赤帽子さんの妖精解説コーナー


「どーも! 漸くひと暴れ出来て大満足の赤帽子ッス」


「さて、今回は妖精の紹介…と言うより、俺の魔法の由来だな。アンシーリーコート…ゴブリンやオーガ等の加害性の強い妖精、悪鬼の総称。要はカテゴリーだ」


「ゴブリンやオーガってのは、まあアレだ。RPGなんかに出てくる雑魚敵みてーな。明らかにモンスターですよーって感じの醜い奴ら。アレも一応妖精。俺の親戚みたいなもんなんだ」


「簡単に言えば、知性の低い獣や害虫に近い妖精さ。知ってるか? こうして喋ったり、ヒトに媚びへつらうことが出来る俺って妖精の中では頭良いんだぜ? 本当だよ?」


「まあ、そういう訳で、今回はこれでお開きだ。ではまた次回!」

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