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レッドキャップ  作者: 髪槍夜昼
三章 戦乱の記憶
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第四十六話 悲劇


最強の妖精、オベロンは幽閉された。


囚人を収監する監獄の更に奥。


太陽の光すら届かない暗闇に、戦乱時代の禍根は封印された。


それはオベロンに対する、決定的な裏切りだった。


そして、


「国王様、王妃様が!」


悲劇はそれだけでは終わらなかった。


オベロンが暴走したことにショックを受けたルクレースは、心を病んでしまったのだ。


「ルクレース…!」


「私は、私はあの子を追い詰めてしまった…泣き叫ぶあの子を、敵として見てしまった…」


ベッドに横になったままルクレースが呟く。


その目には、エイブラムが映っていないようだった。


「人間扱いすると決めていたのに…あの子の母になると、約束してあげたのに…私は…」


あの子には、自分の姿がどのように見えただろう?


子供を守る母親の姿。


それこそが、あの子が求めていたモノの筈だったのに…


「エイブラム様、私はもう、母親である資格がありません…」


「待て…死ぬんじゃない!」


「ごめんなさい…リアには寂しい思いはさせないであげて…そして、どうかあの子を許してあげて下さい」


それが、ルクレースの遺言だった。


その言葉を最期に、ルクレースはこの世を去った。


その日、エイブラムは心に誓った。


もう、間違えないと、


この手に残ったたった一人の家族だけは、何があっても平和に生きさせてみせると…








「リア、リア! しっかりしろ!」


庭に倒れていたリアを、エイブラムは抱き起した。


リアの目は焦点があっておらず、顔色も死人のように悪い。


「恐らく、先程城に侵入した妖精に呪いをかけられたのかと…」


「兵士達は何をしていたんだ!」


「そ、それが、魔法をかけられたのか警備を担当していた者が全て石に変わっており…」


「と、とにかくリア様を早くお部屋へ…!」


「ッ!」


一人の使用人にリアを預けた後、エイブラムは走り出した。


死なせない、死なせる訳にはいかない。


あの子だけは、最後の家族だけは守ってみせる。


呪いをかけられた人間を治す方法はない。


程度にもよるが、魔力が多く入り込んだ人間は助からない。


人間に呪いを治すことは出来ない。


だが、


「…奴なら」


十四年間、幽閉し続けたあの妖精なら治すことが出来るかもしれない。


危険は伴う。


王として判断するなら、ここはリアを見殺しにするべきだろう。


しかし、それだけは駄目だ。


リアだけは、リアだけはどんな手を使ってでも救う。









「国王様、本当に奴を牢から出すのですか!」


「それ以外にリアを救う手段はない。リアを救う為なら、私は悪魔とでも取引をする」


引き止める大臣を振り払い、エイブラムは地下牢を歩く。


凶悪犯を閉じ込めている地下牢の更に奥、ヒトですらないモノの存在する場所へと…


「エイブラム…仮に奴がこのタイターニア全てに害を成す存在だとしてもか?」


妖精狩り部隊の隊長であり、旧友でもあるセドリックが言った。


誰に何を言われようと、エイブラムの答えは変わらなかった。


「リアは…戦争が終わり、この世界が平和になった後に生まれた子だ。あの子にはこの平和になった世界を楽しませると、私は亡き妻に誓ったのだ」


「…そうか、ならば私はもう何も言わん」


表情に乏しい親友は、そう言い口を閉じた。


普段から必要以上に言葉を話さない男だが、この時はそれが有り難かった。


大臣達も、セドリックが口を閉じた後、言葉を発することはなかった。


そして、遂にその場所へと辿り着いた。


「おやおや、団体様で…久しぶりッスね、国王」


その男は、あの頃と変わらない笑みを浮かべていた。


赤帽子レッドキャップ、取引だ」


「取引? 俺と?」


「私の娘、リアにかけられた魔法を解け。そうすればお前の罪を許し、自由を与えよう」


エイブラムは必要最低限の言葉だけを赤帽子に告げた。


赤帽子は、変わらず笑みを浮かべていた。


「くはははは! 聞き覚えのある言葉だ! 俺をヒト扱いしてやるから、言うこと聞けってか? だったら、あの保護者気取りでも連れてこいよ。言いたいことは山ほどある」


「………」


「どうした、オッサン。あいつの老けた顔でも見れば、言うこと聞くかもしれねーぞ?」


「ルクレースは、死んだ。心を病んでしまってな」


「…何?」


唐突に赤帽子は笑うのをやめた。


赤い瞳を動かして、エイブラムの目を見る。


その目に僅かな悲痛を見た赤帽子は、その言葉が真実であることを悟った。


「…ハン、つまんねえ」


一つ赤帽子はため息をついた。


残念に思うような、不満に思うような、複雑な声だった。


「つまり、お前は自分の妻の仇に頼んでいる訳だ。ただ娘を助ける為だけに。本当は俺のこと殺してえんだろ?」


「…リアを助ける為なら、私はどんなことでもする」


「………ハン、面白味のない老け方したな。仕方ない、娘の方に期待するわ」


そう言い、赤帽子はエイブラムに協力することを決めた。

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