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レッドキャップ  作者: 髪槍夜昼
一章 姫と妖精
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第四話 強襲


日も落ちた真夜中。


城の一室で、赤帽子は自室にいた。


「………」


家具もあまりない質素な小さな部屋。


独房のように、部屋の扉には外から鍵がかけられた部屋。


そこが、赤帽子の寝床だった。


この国王の住む城の部屋で、最も窮屈な部屋であるが、最早不満はない。


三年もここに住んでみれば、意外と暮らしやすいことに気付く。


気になる点と言えば…


「この首輪…本ッ当に寝る時、邪魔だ」


苛立ちながら赤帽子は自分の首についている首輪を触った。


石の首輪。


重いし、肩凝るし、散々だった。


部屋に対して不満はないが、こちらには不満があった。


「やれやれ…」


ため息をついて、ベッドに横になる。


不満は残るが、これも三年の付き合いだ。


意外と無視して横になれば、気にならなくなる。


だが、赤帽子の安眠を妨げる音がした。


「おい起きろ! 非常事態だ!」


扉を荒々しく開けて現れたのは、見知らぬ兵士だった。


見覚えはないが、あちらは赤帽子を知っているのだろう、


寝ていた赤帽子は無理矢理ベッドから引きずり降ろされた。


「何ッスか…もう、営業時間は過ぎてますよー…ふはぁ…」


「非常事態だと言っているだろう!」


欠伸をする赤帽子に兵士は焦った様子で怒鳴った。


「妖精が城へ侵入したんだよ!」








「何が、何が起こっているの…」


「リア様、ご安心下さい」


「この部屋は我々が護衛しますので」


狼狽するリアへ二人の兵士が言った。


安心させるように落ち着いた口調で言うが、遠くでは未だに爆発音が響いている。


侵入した妖精に城の兵士が苦戦しているのは明らかだった。


「侵入者はすぐに撃退されるでしょうが、念の為、我々は部屋の前で護衛を続けますね」


「リア様は部屋から出てはいけませんよ」


二人の兵士は笑みを浮かべると、リアの部屋から出て行った。


武装した自分達が前にいるとリアも安心できないと思ったのだろうか。


だが、二人の思惑とは逆に一人にされたことでリアは更に不安になった。


三年前の恐怖が蘇る。


あの時の、怖さが、


あの時の、苦しみが、


忘れていた筈なのに、昨日のことのように鮮明に思い出される。


「…!」


その時、部屋の前で大きな音がした。


妖精が、リアの部屋の前までやってきたのだ。


リアは恐怖で震えた。


リアの部屋の前には兵士が二人いた。


彼らが妖精を倒してくれる。


しかし、前に聞いたことがあった。


魔法を使う妖精は、一匹でヒトの兵士十人に匹敵すると…


だとしたら…


「………」


気が付くと、部屋の外は静かになっていた。


ヒトと妖精、どちらにせよ決着がついたのだ。


扉がゆっくりと開く。


現れたのは、リアの予想通り…


「――――――」


蟲のように醜悪な妖精だった。


返り血を浴びて赤く染まった妖精。


「…あ…ああ…」


妖精が接近する。


リアは悲鳴を上げることも忘れ、震えていた。


殺される。


この妖精に、殺されてしまう。


三年前もこんなことがあった。


このまま死んでしまうのだと、諦めたことがあった。


あの時と同じだ。


リアにはどうすることも出来ない。


あの時は、彼が助けてくれた。


そして…


「オイコラ、少し暴れすぎだぞ」


今回も、同じだった。


妖精の身体が真っ二つになる。


醜悪な妖精を斧で切り裂いて現れたのは、リアの恩人で家族と同じくらい親しい人物。


「赤帽子…助けに、来てくれたんだ…」


安心して、涙を零しながらリアは言った。


三年前と同じだ。


また、助けてくれた。


前と同じように、自分の命を救ってくれた。


「何、当然のことを言っているんだか…助けるに決まってるだろ?」


馬鹿なことを…と赤帽子はため息をついた。


呆れたように苦笑しながら、リアへ近付く。


「お前には、まだ役に立って貰わなきゃならねんだから」


そして、手に持った斧を、リアの首へ突きつけた。


「…え?」


「リア、無事か!」


リアは首を傾げるのと、エイブラムが部屋へ駆けつけたのは同時だった。


エイブラムと共に、多くの兵士もリアの部屋へと駆け込む。


しかし、すぐにリアと赤帽子を見て、足を止めた。


「ナーイスタイミング。国王エイブラム、アンタに会いたかったんだわー」


「貴様…」


「何その顔? いつかはこうなるって分かってたんだろ? 言えよ、怒らねえから正直に言えよ。くははは!」


苦痛に歪むエイブラムの顔を見て、赤帽子は満足そうな笑みを浮かべた。


その顔は、後悔しているようにも見えた。


「どういうこと…?」


「まだ理解できてねえのか…国王ーお宅の娘さん、頭悪いッスねー…」


斧を突き付けられたままリアは呟くが、赤帽子は答える気がない。


ただ、馬鹿にしたように笑っている。


「そこの妖精は、貴様が用意したのか」


「その通り! アンタがこの小娘に甘いのは、三年も前から知ってたからな。警備がなくなる瞬間をずっと狙ってたんだよ!」


「今まで従順に妖精狩りに協力していたのは…」


「妖精を狩るのは赤帽子の仕事…そんな風に思い込ませる為さ。城に妖精が出ても俺が出れないんじゃ、意味ねえからな」


非常事態に危険な妖精を解放してはならない。


その考えを、従順な道具を演じることで覆した。


全てはこの瞬間の為、


全てはこの好機の為、


「…望みは何だ」


「くははは、アンタが大好きな取引か? まあ、俺は醜くて汚いヒトじゃねえから、働かせるだけ働かせて自由を与えない…なんて嘘はつかねえから安心しろ」


「早く言え」


「急かすなよ…そうだなーどうしようかなー…とりあえずー…」


笑みを浮かべて、赤帽子は自分の首についた首輪を触った。


「この鬱陶しい首輪の鍵、渡してくれない?」

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