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レッドキャップ  作者: 髪槍夜昼
三章 戦乱の記憶
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第三十八話 魔物


それは、異形だった。


戦場の全ての流血を集めて作ったかのような赤黒い巨人。


目も口もないその顔は背筋が凍りつく程に恐ろしく、吐き気を催す程に醜悪だ。


妖精を超える、正しく『魔物』と呼ぶに相応しい存在が戦場へ出現した。


見上げる程のその巨体は、現実感を失わせる蜃気楼のようだった。


「な、何だ…アレは!」


兵士達は思わず、動きを止める。


呆然と、その魔物を見上げる。


「………」


鈍重な動作で、魔物は腕を動かす。


瞬間、大地が抉れた。


地形が変貌し、そこに存在する全ての生命を削り取った。


それは、生物の所業ではない。


正しく、地獄。


天災のような、人間には対処不能の地獄だった。


「う、うわあああああああああ!」


誰かがそれから逃げ出そうとした。


しかし、それは不可能だ。


どれだけ屈強な兵士だろうと、災害の前では小さな一生命に過ぎない。


その地獄から逃れることは叶わない。


魔物は本能のままに暴れ始めた。


目的などないかのように、


ただそれのみが存在意義のように、


戦場の全ての生命を滅ぼし続ける。


阿鼻叫喚。


戦場は恐怖と絶望に包まれた。


「くはははははは!」


その地獄の中で、一人だけ笑う者がいた。


オベロン。


妖精と呼ばれた、生物兵器の少年だ。


「…何だ、お前は? エインセル兵も、タイターニア兵も、平等に殺し尽くすお前は、一体何者だ?」


オベロンは魔物に問いかける。


魔物からの返答はなかった。


そもそも、言葉を理解できないのかもしれない。


だが、それを不快に思うことなく、オベロンは更に深い笑みを浮かべる。


「くはは! 何でもいい。お前は正真正銘の魔物…ヒトを超越した化物だ!」


化物とヒトに称される妖精は叫ぶ。


自分など、こいつに比べればまだヒトに近い。


こいつこそが、化物。


ヒトなんぞ、寄せ付けない魔物。


「俺はお前を称賛する! 俺はお前のようになりたい!」


ヒーローを夢見る少年のように、オベロンは言った。


アイツのように成れれば、もうヒトなんぞに縛られることもない。


あの綺麗な存在へと成って見せる。


「……?」


その時、魔物の身体に異変が起こった。


丁度、戦場の兵士を粗方殺し尽くした時、魔物の身体に亀裂が走る。


まるで、役目が終わった道具のように、ゆっくりと魔物は崩壊を始めた。


「…壊れていく? 餌がなくなったからか?」


魔物を構成する赤い粉が霧散していくのを見ながら、オベロンは呟いた。


赤い粉は兵士の死体から発生していた。


それがなくなったから、消えようとしている。


「…また会おうぜ」


オベロンは友人に声をかけるような気軽さで、告げた。


それと同時に、魔物は完全に崩壊した。


戦場には、無数の死体だけが残った。








「………」


エイブラムはあまりに現実離れした光景に、言葉を失っていた。


アレは、何だ?


アレこそが、書物に記されていた妖精だと言うのか?


自分は一体、『何』をこの世に復活させてしまった?


「…いや」


それを考えている場合ではない。


王としてこの場でしなければならないことは狼狽することではない。


エインセルは、既に壊滅寸前だ。


それにこの力を抑止力にすれば他の国を戦わずして降伏させることも出来るかもしれない。


今の戦いで犠牲になった者達を無駄にしてはならない。


この戦いを人類最後の戦いにするんだ。


平和を、手に入れるんだ…

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