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レッドキャップ  作者: 髪槍夜昼
三章 戦乱の記憶
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第三十四話 起点


妖精と言うヒントを得たエイブラムは、魔石に注目した。


何十年も前から存在し、詳しいことはあまり分かっていない物質。


触れるだけで人間を壊す危険物質。


エイブラムは遥か昔から存在する魔石こそ、妖精復活の鍵だと思った。


魔石の放つ力こそが魔法であり、魔石を持つ者こそが妖精と呼ばれると、


すぐにエイブラムは魔石を兵器に改良することが出来ないか試させた。


しかし…


「また失敗…犠牲者は増える一方…か」


一枚の紙を眺めながら、エイブラムはため息をつく。


秘密裏に魔石の兵器改良を進めさせていた者達からの報告書だった。


魔石の兵器改良は困難を極めていた。


どんなに工夫をしても魔石に触れた瞬間、兵士は壊れてしまう。


力を引き出すには魔石に触れる必要がある。


しかし、魔石に触れてしまうと兵士の方が持たない。


一体これで何人犠牲者が出ただろうか?


だが、止まる訳にはいかない。


無駄な犠牲にしない為に、


「………」


平和を望むと決めた。


戦争を終わらせると決めた。


その為なら、何だって犠牲にする。


大義以外は何も求めない。


「魔石…兵器…」


報告書を見ながら、エイブラムは思考する。


魔石をそのまま兵器として扱うことは出来ない。


だが、魔石に触れた物にしか魔石に宿る力を使うことは出来ない。


「………妖精」


その時、エイブラムの頭にその単語が過った。


かつて存在した古代兵器。


エイブラムはこれを魔石を扱う人間のことだと思っていたが…まさか、


「本当に人間じゃない? 人間じゃない存在にしか魔法は使えない?」


だとしたら、魔石を兵士達が使えない理由が分かった。


兵士達は皆、人間だからだ。


人間に魔石は使えない。


「…なら」


エイブラムの頭に非人道的な発想が生まれた。


これは間違ったことだ。


王の道に、人の道に反することだ。


しかし…


「『魔石を扱える生物兵器』を作り、それを扱うことが出来れば…」


エイブラムは平和の為なら全てを切り捨てると決めた。


平和を手に入れる。


例え、その平和が屍の上に成り立つ物だったとしても…








「呼吸をしていない…A18も失敗だ。B19は?」


研究員の男、アーマンドがピクリとも動かない子供を指さして言った。


その隣に立っていた研究員も残念そうに首を振る。


「B19、B20共に失敗。様子を見ていたB18も駄目です。正気を取り戻す見込みがない」


「ならそれも処分か」


檻の中で暴れ続ける子供を見て、あっさりとアーマンドは言った。


隣の研究員もすぐに指示し、暴れていた子供はどこかへと連れて行かれた。


「やれやれ、失敗作ばかりで参るな。いくら戦争中で戦災孤児が溢れてるからって、数にも限りがあるだろうに」


「そう言えば、何で子供ばかりなんでしたっけ?」


「実験後、自我を持っていたのがガキだけだったからだ。感情豊かなガキの方が正気を取り戻しやすいんだろ」


魔石を人体に埋め込む『チェンジリング計画』に於いて、正気を取り戻した被検体を思い浮かべる。


まともに言葉も話せない被検体が殆どの中で、こちらの言葉に返答した時には皆、初の成功体が出来たと喜んだものだ。


惜しかったのは、


「アレが殆ど魔法を使えなかったのは残念だった。あの程度じゃ戦争に使えない」


「それにこちらに対して反抗的だったって言いますしね」


残念そうに二人は頷く。


人を人と思わない言葉だった。


こんな実験を進めている研究員達だ。


まともな人間である方がおかしい。


「おい、来てくれ! C19が…」


その時、一人の研究員が二人の下へ走ってきた。


やけに興奮した様子だ。


C19は確か…意識がハッキリしていたので実力を調べていた検体だ。


「どうした? まさか死んだのか?」


実力を調べる為に失敗作と戦わせたのだが…


やはり、数が多すぎただろうか?


「逆だ! とにかく来てくれ!」


そう叫ぶ研究員に引っ張られ、二人はその場所へ向かった。








「………」


それを見た時、アーマンドは言葉を失った。


流血、臓物、そんな物は見慣れた物だった。


にも拘らず、アーマンドが硬直した理由はその中心に一人の少年がいたから。


白い髪を返り血で濡らし、赤い瞳を爛々と輝かせた十歳にも満たない少年。


その周囲には、数十の子供の残骸が転がっていた。


この中には、僅かとは言え力を使える子供もいたと言うのに…


「…次は、あなた達が相手ですか?」


少年は小首を傾げながらそう言った。


アーマンドの背筋に悪寒が走る。


「違う。試験は終わりだ」


「…そうですか」


表情のない顔で少年は言った。


完全に少年がこちらに背を向けるまでアーマンドは生きた心地がしなかった。


(…成功だ)


これこそ、自分達の求めていた物。


人を超える怪物。


人間など気にも留めない生物兵器だ。


こいつこそが…


「…名前がいるな。お前、自分の名前を憶えているか?」


「………」


アーマンドの言葉に少年は再び小首を傾げた。


思い出そうとしているのか、質問自体が理解できないのか…


表情のない顔から読み取ることは出来ない。


暫くそんな仕草を続けた後、唐突に目をアーマンドに向けて口を開いた。


「………オベロン」


少年は、自分の名前を口にした。

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