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レッドキャップ  作者: 髪槍夜昼
一章 姫と妖精
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第三話 約束


「仕事が終わったら、即お帰りッスか。人使い…いや、妖精使いの荒いお方だ」


帰りの馬車の中、窓から外を眺めながら赤帽子は言った。


もう仕事は終わった。


赤帽子の出番は終了。


感謝の言葉の代わりに気味悪そうな目を兵士達に向けられ、お帰りだ。


「…お前が協力していることに関しては感謝している」


「ケッ、そんな無表情で言われても信用に欠けるな」


相変わらず表情のないセドリックの顔を見て、赤帽子は吐き捨てた。


感謝している。


そんな言葉一つで自分を道具のように扱うのが許されるのか。


妖精如き、道具のように扱っても問題ないと思っているに違いない。


苛立ちを隠さず、赤帽子は外を眺める。


外には、幸せそうに歩く人々が見えた。


幸せに笑いあい、自由に生きている。


この世は不平等。


分かり切ったことだった。


「…ん?」


ふと、幸せそうな人々の中におかしな者が見えた。


何か粉薬のような物を飲んでいる数人の顔色の悪い人々。


アレは…


「ヒトにしては魔力が濃いな…」


魔力を見抜く妖精の目で、それを感知した赤帽子が呟く。


魔法が使えないヒトには本来、魔力が殆ど存在しない。


にも関わらず、あの人々は濃い魔力を宿していた。


魔力に『汚染』されている。


「…魔石か?」


「流石は腐っても妖精、気付いたようだな」


同じく、窓の外を眺めていたセドリックが感心したように呟いた。


魔石とは妖精以外で魔力を発する特殊な鉱物。


見た目はただの石だが、長時間直に触れていると廃人になる程の高い毒性を持つ。


宝石よりも希少で、あまり見かけない危険物だった筈だが…


「最近、魔石を粉にして、薄めた『麻薬』が流行していてな。国王も頭を悩ませている」


「魔力による汚染…魔法をかけられることは、ヒトにとって苦痛だった筈ッスけど?」


「アップ系の幻覚作用があると言われるが…詳しくは知らん。薬に頼る亡者の戯言だ」


そう言い、セドリックは目を閉じた。


どれだけ麻薬が流行しようと、この男だけは使用しそうにない。


「愚かだ。いかに快楽を得ようと現実は腐っていくばかりだと言うのに…」


「いえいえ、ヒトが堕落することは愚かではありませんよ」


重々しく言うセドリックの言葉を赤帽子は遮った。


その顔には笑みが浮かんでいる。


「腐り、堕ちることの何がいけない。自ら望んで進んだ道なら、その選択は決して間違いではない…汚染された彼らの姿は、あんなにも『綺麗』なのだから…」


「…お前と私は美観が異なるようだ」


「ええ、俺もアンタみたいな醜いヒトと同じ美観では困るッスよ」


嘲るように笑いながら、赤帽子の目は魔石中毒者へ向けられていた。








「具合はどうだ。リア」


「元気です。いっつも毎日お元気ですから、お外に出して下さい!」


リアは部屋を訪れた初老の男に叫んだ。


威厳のある服装と、それが相応しい雰囲気を纏う男。


リアの父、エイブラム。


現タイターニア国王だった。


「そういう訳にはいかん。お前は身体が弱いし、外には妖精もいる」


「せめて、お庭! お庭ならいいでしょ?」


「駄目だ」


エイブラムはリアの言葉を切り捨てた。


断られ、拗ねたような顔をするリアの頭へ優しく手を置く。


「妻を亡くした父の心配を理解してくれ、リア」


「………」


「少しだけ待ってくれ。もう少しで危険な妖精を皆、退治した平和な世を迎えることが出来る」


「…平和になったら、外に出してくれる?」


「勿論、その時は旅行にだって連れて行ってやる」


エイブラムは家族にしか見せない笑みを浮かべて、言った。


二十年前に戦争を終わらせ、タイターニアは平和を手に入れた。


後は妖精だけだ。


妖精狩りが終われば、本当の平和が訪れる。


最愛の娘が自由に外を歩ける世界がやってくる。


「…約束だよ?」


「ああ、約束だ」


その言葉に、拗ねていたリアも漸く笑みを浮かべた。

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