第十六話 無垢
「赤っちー、赤っちってどんな魔法が使えるのー?」
「………」
「ボギーのはね、グリーンマンって言って自然を作る魔法だよ? ねえねえ、赤っちのも見せてよー」
「………」
懐かれてしまった。
厄介なことになったと、赤帽子は喧しいボギーと言う妖精から目を逸らす。
森の中で偶然リア達を見つけ、相手をするのも面倒だったので、暫く様子を見ていた。
すると、このボギーと言う妖精はあっさりとバーゲストと言うヒトに倒された。
別に助ける義理はなかったのだが、ボギーの妖精らしい性格が赤帽子の琴線に触れたのか、助けることにした。
その結果、
「ねえ、無視しないでよ。赤っちー」
これ程、懐かれてしまった。
赤帽子自身、マイペースで傍若無人な性格をしているが、それ以上にボギーはマイペースだ。
「大体赤っちって何だよ。俺は赤帽子だ」
「レッドって赤じゃん。それにお兄ーさん、全体的に赤いじゃん。だから、赤っち」
「………」
短気な所もあるが、基本的に赤帽子は余裕を持って、小馬鹿にして、相手に接している。
赤帽子の意外と計算高い一面と、その実力がそれの元になっているのだが、一つだけ苦手としている物がある。
それは、自分のペースを乱されること。
敵意や反抗ならまだしも、自分の予想を超えた行動や、思考が何より苦手なのだ。
その為、予想外なことが起こると…
「あ、お兄ーさんより、お父ーさんって呼んだ方がいい?」
「俺はまだ二十代だ! お父さんなんて呼ばれる筋合いはねえ!」
激怒する。
案外、赤帽子がリアに対して特に辛辣に接するのも、裏切られても慕うその思考が理解できないからもしれない。
「大体、お前とそんなに歳離れてねえだろ。若作りしてんじゃねえぞ、コラ」
「…え?」
赤帽子の言葉に、ボギーは本気で首を傾げた。
言葉の意味が分からない。
ボギーの外見は、リアと同じくらい。
まだ二十にも満たない少女のように見えるが…
「妖精の身体は成長が遅い。稀に歳が止まる奴もいる。お前もそうだろ?」
「そう…なの? じゃあじゃあ、ボギーって何歳くらいなの?」
「…二十代…少なくとも二十は超えている」
その言葉は、ボギーにとって割と衝撃だった。
記憶がないので、自分の年齢はヒトに比べて十代くらいだと思っていたのに、
実は自分は割ともう子供じゃない年齢だったとは…
「ボギーって、いつの間にか立派なレディになってたみたいー…」
「…まあ、中身は全然ガキのようだな」
言葉は解するが、知性が低い方なのか。
それとも、記憶喪失が影響しているのか…
「大人になったら…何しなきゃいけないんだっけー?」
そう言って、暢気に首を傾げているボギーの精神年齢は、外見相応のようだ。
やれやれ…と赤帽子はため息をつく。
気が合いそうだったので気まぐれに拾ったのは、早計だったか。
早くもそんな後悔が、赤帽子を包んでいた…
「そうだ! 子供を産まないとー!」
「ゲホッ! ゴホッ!」
思わず咳き込んだ。
何てことを大声で叫ぶガキだ。
「子供だよ、子供! 大人は子供を産み、育てる義務があるとか、何とか、前に読んだ本に書いてあったような…」
「自信ねえなら、叫ぶな!」
「と言う訳で、赤っち! 協力して!」
「…はあ?」
「だって、妖精の知り合い…赤っち以外にいないし…」
じゃあ、するな。
子供など、望むな。
「大丈夫! やり方なら分かるから! こうめしべとおしべが…」
「それ以上喋るな」
「痛い痛い! やめて、斧を押し付けないで! ハード過ぎるよー!」
この耳年増が…
吐き捨てながら、赤帽子はボギーに向けていた斧を消した。
「それだけ元気なら、先を急いでも問題ねえな」
「先? どこに向かってるんだっけー?」
「さっき言ったろ、旧エインセルだ」
赤帽子は目的地を呟いた。
バーゲストが教え、リアの向かっている場所を…
当然、リア達の会話は聞いていたので、向かっていることは知っているが…
それでも優先することが、旧エインセルにはあったのだ。




