part4「豪邸と魔の手」
数多くの住宅が立ち並ぶ住宅地がある。
その中、ほぼ中央に位置した所に、広大な土地用いて作られた豪邸と庭がある。
高い塀に守られ、24時間体勢で目を光られるカメラがあり、近隣の防犯にも貢献する活躍を見せる、スーパー金持ちパワーを撒き散らす家だ。
その正面玄関、鉄格子で固く閉じられた扉の前に、影がある。
人工の光に照らされてるのは、黒い髪に無愛想極まりない顔付きの存材空樹だ。
空樹は肘に二つの鞄を持ち、そして背中には静かに寝息を立てる少女がいる。
伯東美朝だ。
学校のいざこざを納めた空樹は、白い馬鹿の首筋に手刀を叩き込み無力化し、今にいたる。
豪邸、伯東の表札を掲げるそこは、まさしく美朝の家である。
鉄格子の向こうは、学校のように横に長い建物があり、多大な光量を放っていた。
電気代が勿体ないと思う空樹であったが、確か昔に全て自家発電と聞いた事があった。
その際、美朝が、
「ネズミさんが頑張って走っているんです」
と、可愛いと思う反面、将来が本当に心配になった覚えがある。
ともあれ、防犯カメラが全てこちら向き、このまま立ち止まると不審者扱いされる恐れがある。
空樹は扉の端に申し訳程度に着いたインターホンを押す。
すると直ぐに、
『どちら様で―――――あ? 言いたいことは山程あるが、とっとと死ね』
じゃあなー、と最初と最後ではまるで声のトーンが違う女性の応答は終了した。
テンションが落ちて、体温が少なからず落ちだが、無言で人差し指を使いリトライ。
『どちら様で――――あ? 言いたいことは山程あるが、扇風機に指突っ込んで死ね』
じゃあなー、とセカンドコンタクトは失敗に終わった。
しかし、と言うように空樹は再チャレンジ。
『どちら様で――――あ? 言いたいこはぁっ!!』
インターホンの向こうで相手が悶絶した。空樹はようやく話が出来ると安堵し、
「空樹です。美朝さんをお届けに参りました」
一体どこの宅急便だ、と自分にツッコミを入れる。
まぁこんな営業スマイルの欠片もない人間がつける職ではないのだが。
『――――ああ、空樹君か。
わざわざすまないな。今開けよう』
女性にしては力強い声だ。先程のやからに制裁を加えた後だからか、気持ち息が荒い。
そして扉が悲鳴を挙げて開いた。
「どうもありがとうございます」
空樹は一度頭を下げて、伯東家の敷地内に足を踏み出す。
左右対称をイメージしているのか右を見ても左を見ても同じ光景が広がっている。
しばらく歩いた所、ちょうど門と家の間に噴水があり、後ろの家の光が水を煌めかせていた。
何度見ても綺麗な場所だと空樹は思う。
こんな光景を見れる自分は幸せだとも。
しかし、少なくとも住宅地の中にあって良い物かと疑問に思う自分もいた。
近隣の住人からしたら嫌みでしかない気がするからだ。
そして、本邸に着いた。
少ない階段を上り、大きな扉がある。
その前には、メイド服を着こなした大と小の二人が立っており、
「出迎えありがとうございます、大佐」
空樹は大きいメイドに挨拶を口にした。
この家に仕えるメイドは、階級が名前と同じ意味を持つ。
何でも、美朝の父がサバゲーマニアと言うことが関係しているらしい。
よく庭で第三次世界対戦ごっこをやっているとか。
まったく、遊びとはいえ、人に銃を向けるとは野蛮な。
何処からか鏡見ろと言われた気がするが、気のせいだろう。
そして、金の髪を下ろし、眼帯で片目を隠した二十歳ほどの女性、大佐は笑みを浮かべ、
「ああ、礼を言いたいのはこちらの方だ。
もしよかったら中でお茶でも出そう」
すぐに断ろうと言葉を作ろうとした時、
「いや、要らないだろ? 言いたいことは山程あるが、とっとと帰れよ」
何もかも小学生サイズのメイド、栗色の髪を肩で切り揃えた少女の悪態がそれを邪魔した。
空樹に毎回突っかかって来て、
「黙れ、軍曹」
と、直ぐ様後頭部に大佐の拳が降り下ろされ、地面にひれ伏す事が定番の少女だ。
出会いが悪かったのだろうと、空樹は思う。
初めて見た時に、迷子かと思い交番まで連れていってしまったのがいけなかった。
道なりに、お菓子を置くとずーっとついてくるような残念な少女である。
どこぞのピエロと酷似しており、何処か他人とはおもえない。
基本は無視する事にしているが。
「いえ、俺はもう帰ります。
美朝を届け来ただけですから」
「そう言うな。
目上の誘いを誘いを断るほど、君は失礼な人間ではないと私は思っている」
柔なか笑みでそう言われると断りづらい。そもそも善意から来る物を断るのは、至難の技だ。タイミング的にも、これから断るのは謙遜ではなく、失礼にあたる。
この人には顔が上がらないな、と思い、
「では、お言葉に甘えます」
伯東低、最下層に作られた部屋がある。
部屋は暗く、唯一の明かりは、複数のディスプレイの光だ。
それは敷地内、いたる所に配備されたカメラの映像である。
その中の一つ、玄関前に配備されたカメラが写し出すディスプレイを眉間にシワを寄せ、手に持つグラスを揺らす影がある。
優雅な椅子に腰を落とし、
「また来たおったな、ファッキンエアめっ!」
渋い男の声だ。
「ふ、だが私も大人だ。
ちょっかい出すと、マイエンジェルがもう二度と一緒に出掛けてくれないと言っていたからな、これぐらい多目に―――――」
男は、肝心かつ重要な事に気づいた。
少年の背で寝ている少女の事だ。
甘い吐息を吐いて、胸の膨らみを押し当てている。
「うらやま…………いや、ハレンチなっ!
許さんぞ、近年乙女心全開で、一緒にお風呂も入ってくれないのにぃ!」
男――――美朝の父は決意と同時に、あるボタンを押した。
トラップ、とかかれたボタンだ。
「さあ! このダンジョンを抜けてここまで来てみせろ!」
父はサバゲー以外にも、実はRPGも大好きな大人だった。