表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

part3「夕日と狙撃」

 西の空に輝く夕日は、最後の悪あがきと言うように、見るもの全てをオレンジ色に染めている。

 校舎も、校庭も、そして、校門前に立つ伯東美朝すらも。

 美朝は一人、校門の前で顔をうつむき立っている。

 下校時間のピークを過ぎた校門は、孤独に彼女をその場に置いていた。

 それを、見る二人の影がある。

 校舎の屋上、フェンス越しに、双眼鏡を覗き込むのは、空樹と労働者だ。

「一人女の子を待たせるとは、相手はろくでもないヤツだな」

 空樹が、やはり無表情に悪態つく。

 それを聞いた労働者が、

「いや、空樹。人の事棚にあげて言うけど、盗み見る俺らも、素晴らしくろくでなしじゃね?

 てか、昼休みの『美朝の気持ちを素直に伝えればいい』と、あのイケメン台詞を言ったお前は何処に行った!」

 空樹は遠い目をして、

「世の中には、汚名を被ってでもやらねばならぬ事がある」

「やだ、カッコいい!――――って、ただのストカーじゃねぇか!」

「失礼な事を言うな」

 空樹は心外だと言うように、

「あちらからでは、この位置は逆光だ、バレなきゃストカーと言われない」

 我ながら完璧だ。

 労働者が愛想笑いを浮かべ、何でこうおれの周りは、と頭を抱え始めたので、放っておく。

 美朝の周りに人影がない事を念入りに確認し始めると、不意に、

「つうか、この学校の屋上立ち入り禁止じゃなかったけ?」

 そう、この屋上は立ち入り禁止で、掃除は勿論、整備も何も受けてないため数多くの汚れがある。

 空樹は一度溜め息をして、真っ直ぐの視線を労働者に向け、

「大丈夫だ、壊した鍵はちゃんと治して返しておく」

「お前、以外と後先考えないよな…………」

「そんな事はない。俺は準備を怠らない人間だ」

 どうでもいいように、例えば? と労働者が疑問を作る。

 空樹は懐から、無線式のイヤホンを取りだし、労働者に片方を渡す。

「これは美朝の会話を聞く為に用意した、盗聴機だ」

「お巡りさ~ん、この人捕まえて~」

「なんだ、盗聴器が気に入らないなら、そこに集音器があるぞ?」

「どっちも盗聴と言う事実は変わりませんよ!?」

 まったく注文の多いヤツだ。そんな事を思いつつ、空樹は横に置いてある人が入れるほど大きなバッグから、

「ちょ、何それ?」

 バッグから出たそれを見て、労働者が戸惑いの声を挙げた。

 空樹が出した物は、映画で出てきそうな黒塗りの銃であった。スコープとロングバレルが特徴の、スナイパーライフルと言う狙撃専用の銃。

 PSG1。

 空樹は脇を閉め、右手の人指し指をトリガーに掛け、構える。

「お、お、お、お前何処にそんな物を隠してやがった!?」

「教室のロッカーだ。

 前からちょくちょくこんな事があったからな。手に届く所に置いていたのだ」

「伯東さんに告白したヤツはショックのあまり病院送りになると言う、真実がこれかっ!」

 それは初耳だ、と思いつつ、

「安心しろ、弾はゴム。殺傷能力は低い」

「低いって事は、殺傷能力あるってことか!?」

「俺の腕を信じろ。今日は風もないし見張らしもいい、絶好の狙撃日和だ。

 撃ち抜いてみせる……ハァ……ハァ」

「無表情でハァハァ言うな!」

 体温は平熱より少し下あたりだろう。

 まさに冷血だ。

 スコープ越しに、相手を待つ。

 大丈夫だ、俺らやれると、自己暗示を掛けていると、一人の男子生徒が、美朝に向かっていた。

 背が高く、姿勢の良さが育ちの良さも語っている。

「お、3年の及川じゃん」

 労働者の顔見知りらしい。

「及川か…………。誰だか知らないが、半径一メートル以内に入ったら、即人生の卒業証書を送りつけてやる」

「待て待て、取り合えず話を聞けって」

 むぅ、と少々不満を感じつつも、片耳のイヤホンに聞き耳をたてる。

『えっと、返事聞かせて貰っても大丈夫ですか?』

 不安なのか、声にあまり力がない。

 空樹の返事は銃弾だが、美朝は一度深呼吸をして、

『ごめんなさい』

 腰を折り、頭を下げた。

 姿勢を戻して真っ直ぐの眼差しで、男子生徒を見て、

『お気持ちは嬉しく思います』

 ですが、と美朝は前置きして、

『私には心に決めた人がいます。

 誤解されやすくて、あまり体が強くない人ですが、それでも不器用に誰かを助ける彼が好きなんです』

 横の労働者が、ヒューヒューと言ってくるので、ジャブを放って黙らせておく。

『そう言うと思ってました。これで区切りがつけられます』

 何かが吹っ切れた男子生徒は、そこで始めて笑顔を浮かべた。

「………………」

 空樹は構えた銃を下げた。

 もう必要がないと悟ったからだ。帰り支度をし、盗聴器の電源も切ろうとした時だ。

『ふ、ふふふふふ』

 と、不吉で品性を疑う笑い声が聞こえたのは。

 まさか! と、銃を構え直しスコープを除くと、美朝の黒の髪が先端部から雪のような白色が昇って行くのが確認できる。

「ヤバイな」

「え、何がっ!!」

 横で起き上がってきた労働者に、再び拳を打ち込む。

 ピクピクとカエルが痙攣したように倒れ伏せる労働者を見て、芸達者なヤツだ、と感心する。

 今の起きようとしている事実に対して、空樹は解決の為にスコープの先に男子生徒を置いて、

「悪いが、眠ってもらうぞ」

 大きく息を吸い、止める。

 右目に全神経を集中させ、引き金を、

 

 ドン!


 引いた。

 砲身から穿たれた弾は、真っ直ぐと男子生徒の顎を射し、

『ごぉ!』

 と、顎の衝撃が脳に伝わり、膝を折り、倒れた。

 それと同時に

『余、見参!』

 何処までも威張り、腰に手を当て、胸を張る少女、美朝の裏、美朝の影、そこには美夜が立っていた。

『て、オイ、余が降られたお前に追い討ちを掛けに来たのに寝るな!』

 馬乗りで、ビンタを始めた美夜がいる。

 空樹はバックに荷物をまとめ、美夜を回収した後、

「救急車呼ぼう」

 と、決め、地面に付した労働者を置いて、そこを後にした。

 後に、学校の七不思議には、真っ白な髪をした少女が、降られた心をいたぶりに来ると言う物があることを空樹は知った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ