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part1 「死線の早朝」

 東の空が明るみ出した早朝。

 肌寒く、静寂の中にある住宅地がある。

 薄い霧と、時たま聞こえるバイクのエンジン音、そんな寝静まった住宅地の中、前髪で片目を隠している少年――――存材空樹は電信柱の横に立ち、一つの自動販売機へと視線を向けている。

 正確に言うなら、自動販売機の前に立つ、一人の少女を見ていた。

 腰まで伸びる雪のように真っ白な髪の少女だ。猫の絵が描かれた可愛らしいパジャマの上にロングコートを羽織り、マントの如くそれが風を受けている。

 少女は自動販売機の前で、何が偉いのか仁王立ちで対面している。

 そして、少女は財布を出すと、

「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 と、1000円札を投入し、120円のコーヒーを買い、

「ふん!」

 と、気合いの籠った声を出し、お釣りのレバー引く。すぐさま甲高い音を立てて、小銭が落ちてくる。

 それを確認すると、少女はもう一度1000円札を投入して、同じ事を繰り返す。

 それを見ていた空樹は、顔色一つ変えないで、少女に近付き、

「朝から精が出るな、美夜」

 バッと、勢いよく振り向いた美夜と呼ばれた少女は、空樹と見るやその顔に笑みを浮かべ、

「おお、空樹ではないか! お主こんな朝早く街を徘徊しておると言うことは、とうとう余の世界征服に協力する気になったのだな!」

 本当に嬉しそうな美夜とは対称的に、無愛想な顔のまま、空樹は自身の体温が今35度前半と予測し、口を開いた。

「いや、珍しく目が覚めたから、珍し繋がりで散歩を試みただけだ」

「そう照れるでない、全くういヤツよのぉ~」

 と、満面の笑顔を浮かべた美夜が、つま先立ちで空樹の頭を撫で回す。

 ちなみに、背伸びで足りない分は、空樹がバレない程度に膝を曲げていた。

「ところで、何をしていたんだ?」

 調子に乗って、口を近づけてきた美夜を片手であしらいつつ、空樹は疑問を作った。

 悪しき作戦が上手くいかなかったため美夜は、くっ! と、一度歯ぎしりして、

「ふ、ふ~んだ。余は絶賛世界に反逆中なのだ。

 別に良いことしている訳ではないぞ? はっはははは」

「そうだな、善と言う字をノート3ページ分書かせるぐらいは、お前を修正するかもしれない」

「余のチャーミングポイントがっ!!」

 ムンクの叫びをリスペクトし始めた美夜を視線の片隅に追いやり、自動販売機の二つの口に貯まった物を見て、空樹は取り合えず、回収を始める。

 貯まるに貯まった缶を取り出す事に、困難を覚えつつ、

「お前コーヒー飲めたっけ?」

「いや、全く飲めない。ちょうどボタンが押しやすい位置にあっただけだ」

 だとすれば、飲む事ではなく、買うこと意味がある。

 空樹は思考を巡らせ、ふと気がついた。

「ひょっとして、釣り銭切れを狙ってるのか?」

「フフフフ、よくぞ気づいた! 自動販売機で喉を潤しに来た哀れな子羊達は、小銭をぴったり持っていなければ喉を潤す事が出来ないのだ!

 なんと言う迷惑! 非常識! 斬新な発想!

 アレ、余って天才じゃね?」

 ああ、そうだな、と流して、空樹は最後の一本を取り出す。

 やっぱり!? と、美夜が荒ぶり始め、そろそろいい加減近所迷惑で通報されそうなので、

「じゃあ送るから帰るぞ。荷物は俺が持ってやる」

 正気に戻った美夜は、うむ、と頷き、

「流石余が見込んだ男だ。今はツンデレのデレだな!」

 いつもなら手刀で黙らせるが、両手一杯の缶がそれを許さないようだ。

 買ったヤツを守るとは、なんと義理深い。

「まぁ余はそんなお主が大好きなのだかな」

「………………」

 沈黙。

 しかし、空樹の体温はみるみる高くなり、

「空樹!?」

 倒れた。

 推定、40度の高熱。

 両手から溢れた缶が、コロコロと四方に八方に転がっていく。

 明け始めた空を見て、空樹は全くもって正直な体だと、そう思った。

「どどどどとうした!? む、お主熱があるではないか!! 何故家でじっとしていなかったのだ、いや、今はそれより救急車か! そう言えば、自宅にいる専門医がいたな、そっちの方が早いか」

 と、美夜がポケットから携帯電話を取り出すのを見て、空樹はボーッとする頭を抱え、

「いや、大丈夫だ。

 取り合えず、お前の事なんか大嫌いだ、と言ってくれ」

「何を言うのだ! 余はお前の事が大好きであるから、けして死なせはせんぞ!」

 脳が電子レンジに掛けられているかのような錯覚を覚える。

「くっ…………た、頼む」

 最後の思いを乗せ言葉を発する。

 美夜も、それを無下に出来るほど悪に堕ちていない。

「くっ、余は…………お主の事が…………大嫌いだ!」

 すぅー、と熱が引いていく。

「おお! 何故かはわからんが熱が引いていく! ――――アレ? これは引きすぎではないか? まるで死人のようだが、って空樹!?」

 ぶるぶる、と体が寒さに震える。熱と言う熱が抜けて行く感覚。

 そうか、ショックだったんだな…………、と熱かったり寒かったり、本当に忙しいと思いつつ、平熱のありがたさを改めて噛み締める。

「空樹ぃぃぃぃ!!」

 抱き締められ、甘い香りと、

「む、胸が当たって……………」

 体温が上が(以下略)

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