表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

「君の鑑定スキルはゴミだ」と断罪されたので、『神眼』で拾った国宝級の旦那様と出て行きます 〜元婚約者の商会が偽物だらけで破滅しても、もう遅いです〜

作者: 夢見叶
掲載日:2025/12/31

シャンデリアの煌めきが、今の私には刃物のように冷たく感じられた。

 王都の夜会。華やかな音楽が止み、周囲の視線が一点に集中している。その中心で、私は扇で口元を隠すことも忘れ、呆然と立ち尽くしていた。


「聞こえなかったのか? リゼット・アークライト! 君との婚約は、今この瞬間をもって破棄させてもらうと言ったんだ!」


 甲高い声で宣言したのは、婚約者のギルバートだった。

 整った顔立ちは侮蔑に歪み、その隣には露出の多い真っ赤なドレスを纏った男爵令嬢、ミナがべったりと腕を絡めている。


「……理由を、伺ってもよろしいですか。ギルバート様」

「理由だと? そんなことも分からないほど愚鈍なのか! 君が『役立たず』だからだ!」


 ギルバートは勝ち誇ったように鼻を鳴らし、周囲の貴族たちへ聞こえよがしに声を張り上げた。


「我が『ギルバート商会』は飛ぶ鳥を落とす勢いの大商会だ。必要なのは華やかさと実益! だが君はどうだ? 『鑑定スキル』などと言い張って店に持ち込むのは、泥だらけの壺、錆びた剣、変色した絵画……ガラクタばかりじゃないか!」


 周囲からクスクスと失笑が漏れる。

 私は唇を噛んだ。

 泥だらけの壺は、洗浄すれば国宝級の価値が出る古代王朝の遺物。錆びた剣は、伝説の英雄が愛用した聖剣の折れた切っ先。

 私はその「真価」が見えていたからこそ仕入れを勧めたのだが、彼は表面上の汚れしか見ていなかったのだ。


「あれは全て、磨けば価値が出る原石です。現に、先月売れた『青の聖杯』も……」

「黙れ! あれは俺の営業努力で売ったんだ! 君の石拾いのおかげじゃない!」


 ギルバートが乱暴に手を振る。

 彼は私の実家の借金を肩代わりすることを条件に、私を「便利な目利き」として雇っていたようなものだ。だが、その借金も私の労働分――彼がガラクタと呼んだお宝の売却益で、既に完済されているはずだ。


「見ろ、ミナを。彼女は『宝石生成』という素晴らしいスキルで、こんなに美しいダイヤモンドを作れるんだぞ!」


 ミナがふふん、と笑い、左手の薬指を掲げる。

 大粒のダイヤモンドが、シャンデリアの光を吸ってギラギラと輝いていた。

 会場から「おお」と感嘆の声が上がる。

 けれど――私の【神眼】には、その「内訳」が残酷なほどはっきりと見えていた。


(……材質、ガラス玉。付与魔術『幻影の光』。効果時間は、あと七十二時間)


 それは宝石ではない。ただの光るガラスだ。

 時間が経てば魔力が霧散し、ただの透明な玉に戻ってしまう。

 私は小さく息を吐いた。


「ギルバート様。その石は……」

「嫉妬か? 見苦しいぞ、地味女」


 ミナが猫なで声で割り込む。

「そうよぉリゼット様。自分が石ころしか拾えないからって、私の才能をひがまないでくださいまし。ギルバート様は、本物がわかるお方なんですの」

「そうだとも。慰謝料はいらん、その代わり今すぐ出ていけ。我が商会に、君のような寄生虫は不要だ!」


 寄生虫。

 その言葉が、私の中で何かの糸をぷつりと切った。

 私は彼に尽くしてきた。彼の目が節穴でも、私が陰で商品を選別し、彼の手柄にしてきた。店が「目利きのギルバート」と称賛されるようになったのは、誰のおかげだと思っているのか。


(……もう、いいわ)


 怒りよりも先に、憑き物が落ちたような安堵が広がった。

 借金は終わった。これ以上、彼に搾取される義理はない。


「わかりました。婚約破棄、謹んでお受けいたします」


 私は優雅にカーテシーをした。

 背筋を伸ばし、彼と、その隣で嘲笑うミナを真っ直ぐに見つめる。


「ただし、後悔なさいませんように。私が選別をやめれば、お店の商品が『本物』であり続ける保証はありませんわ」

「ハッ! 負け惜しみか! 二度とそのツラを見せるな!」


 罵声を背に受けて、私は踵を返した。

 出口へと歩き出す。惨めだとは思わない。これで自由になれたのだから。

 そう、自分に言い聞かせた直後だった。


「――ほう。『不要』と言ったな?」


 会場の空気が、一瞬にして凍りついた。

 比喩ではない。肌を刺すような冷気と、圧倒的な威圧感がホール全体を支配したのだ。

 騒がしかった貴族たちが、蜘蛛の子を散らすように左右へ道を開ける。

 その奥から現れたのは、漆黒の軍服に身を包んだ、長身の男だった。


 銀色の髪は月光のように輝き、切れ長の瞳は氷河の青。

 北の辺境伯、ジェイド・シルヴァリオ様。

 隣国との国境を守り、「氷の魔人」と恐れられる王国の最大戦力だ。


「ジェ、ジェイド閣下……?」


 ギルバートが間の抜けた声を出し、ガタガタと震え始めた。

 商人の本能が、目の前の男が「決して怒らせてはいけない相手」だと悟ったのだろう。

 だが、ジェイド様はギルバートを一瞥すらせず、私の目の前まで大股で歩み寄ると――その場に、音もなく片膝をついた。


「え?」


 悲鳴交じりのどよめきが起きる。

 あの冷徹な辺境伯が、跪いた?

 ジェイド様は手袋を外し、私の震える手を取ると、甲に熱い口づけを落とした。


「探していた。ずっと」


 恐ろしい噂とは裏腹の、蕩けるような甘いバリトンボイスだった。

 見上げられた青い瞳が、熱っぽく私を捕らえて離さない。


「我が領地から出土した『煤けた石』が、実は古代竜の魔石であると見抜き、匿名で買い取ってくれたのは君だろう?」

「……あ」


 思い当たる節があった。

 三年前、ギルバートが「こんなゴミ!」と捨てた石の中に、凄まじい魔力を秘めた原石があったのだ。私はこっそり私財でそれを買い取り、魔力不足で飢饉に苦しんでいると聞いた北の辺境へ、匿名で送ったのだ。


「あのおかげで、結界は維持され、領民たちは冬を越せた。君は我々の命の恩人だ」

「そ、そんな……私はただ、あまりに綺麗な石だったので、あるべき場所へお返ししただけで……」

「その無欲さと聡明さこそが、私が求めていたものだ」


 ジェイド様が立ち上がり、私を庇うように抱き寄せる。

 たくましい腕の中に閉じ込められ、私は心臓が跳ね上がるのを感じた。良い香りがする。冷たい氷の魔人だなんて嘘だ。彼はこんなにも温かい。


 ジェイド様は、ギルバートへと視線を転じた。

 その瞳は、私に向けていた甘さが嘘のような、絶対零度の殺意を宿していた。


「……そこの男」

「ひっ、は、はいぃ!」

「貴様が『石ころ』と呼んで捨てたその女性は、国宝などという安い言葉では測れない。彼女の瞳こそが、この国の至宝だ」

「な、なにを……ただのガラクタ女ですよ!? 鑑定だって嘘で……」

「黙れ」


 一言。

 それだけで、ギルバートは口をパクパクさせて沈黙した。声が出ないのではない、恐怖で喉が引き攣っているのだ。


「私の『宝物』を愚弄することは、シルヴァリオ家への宣戦布告と受け取る。……覚悟しておけ」


 ジェイド様が指を鳴らすと、控えていた近衛騎士たちがバッと進み出て、私たちを警護するように囲んだ。

 彼は私に向き直り、とびきりの笑顔を見せた。まるで、ずっと探していた迷子を見つけた子供のように。


「リゼット。私と来てくれるか? 君のその瞳で、私の隣にふさわしい未来を選んでほしい」

「……私で、いいのですか? 私は、家もお金もありません」

「君『が』いい。君でなくては、駄目なんだ」


 その熱量に、胸が熱くなる。

 誰にも評価されなかった私の力を、この人は必要としてくれている。いや、力だけじゃない。私という人間を、見てくれている。

 私は涙をこらえ、力強く頷いた。


「はい、ジェイド様。……喜んで」


 呆然とするギルバートと、悔しそうに地団駄を踏むミナを置き去りにして、私たちは会場を後にした。

 背後で、パリン、と何かが割れる音がした気がしたけれど、私は一度も振り返らなかった。


 ***


 あれから一週間。

 私は今、北の辺境伯領にある城の執務室で、最高級の紅茶をいただいていた。


 窓の外には、厳しいが美しい雪景色と、魔導具によって暖かく保たれた城下町が広がっている。

 ジェイド様の隣に座り、彼が持ってくる領地経営の書類や、発掘された遺物に目を通すのが、私の新しい日課だった。


「リゼット、この古文書はどう思う?」

「……これは偽書ですね。紙の年代が新しいです。でも、裏面に書かれた地図は本物。西の廃坑の奥に、ミスリル銀脈を示す暗号があります」

「やはり君はすごいな! すぐに開発班を手配しよう」


 ジェイド様は私の言葉を疑わない。即断即決だ。

 その信頼が心地よく、私は自然と微笑んでしまう。

 ギルバートの店では、何かを提案するたびに「証拠を出せ」「口答えするな」と罵られたものだが、ここでは毎日が感謝と賞賛の嵐だ。


「そういえば、王都から早馬が来ていたよ」


 ジェイド様が、私の腰に手を回して膝の上に乗せながら言った。

 最近の彼は、隙あらばこうして私を抱っこしたがる。最初は恥ずかしくて死にそうだったけれど、彼曰く「リゼット成分が足りないと凍えてしまう」らしいので、渋々受け入れている。(嘘だとは思うけれど、彼の体温が心地よいので文句は言えない)


「ギルバート商会が倒産したそうだ」

「……えっ」


 予想はしていたけれど、早すぎる。


「君がいなくなってから、仕入れる商品がことごとく偽物ばかりになったらしい。極めつけは、ある男爵令嬢の『ダイヤモンド』だ」

「あ……」

「公爵夫人に高値で売った翌日、それがただのガラス玉に戻ったそうだ。夫人は激怒し、詐欺罪で告発。ギルバートは『騙された!』と叫んでいたそうだが、店主としての責任は免れない。不敬罪で投獄、家財は没収。多額の負債を抱え、今は鉱山で強制労働中だとか」


 あっけない幕切れだった。

 ミナも共犯として捕まったらしい。私の【神眼】によるチェックがなくなれば、彼らの嘘が露見するのは時間の問題だったけれど。


「ざまぁみろ、と言っていいんだぞ?」


 ジェイド様が私の髪にキスを落としながら、悪戯っぽく囁く。

 私は少し考えて、首を振った。


「いいえ。彼には感謝しているんです」

「感謝? あんな男にか?」


 ジェイド様が不満げに眉を寄せる。その嫉妬深いところも、愛おしい。

 私は彼の頬に手を添え、ふわりと微笑んだ。


「はい。彼が私を『不要だ』と捨ててくれたおかげで……私は、あなたに出会えましたから」


 そう言うと、ジェイド様は一瞬目を見開き、それから耳まで真っ赤にして私をぎゅうぎゅうと抱きしめた。

お読みいただきありがとうございます!

「スカッとした!」「ざまぁ早くて最高!」

「ジェイド様みたいなスパダリに溺愛されたい!」


少しでもそう思っていただけたら、

ページ下の【☆☆☆☆☆】から評価をポチッとお願いします!

(★★★★★にして頂けると、執筆のモチベーションが爆上がりします…!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ