第15話『傷跡の記憶と、新たな誓い』
記録の封印が解かれるとき、空気が震えた。
咲良とミナトの前に浮かび上がったのは、一つの“記憶”──
それは、かつて《女神の器》を受け継ごうとした者たちの、破滅の記録だった。
──少女がいた。名を、レイナという。
清らかな心で選ばれたはずの彼女は、次第に力に飲まれ、そして、崩れた。
大地が裂け、空が悲鳴を上げる中、レイナは自らの記憶ごと世界を封じた。
「これが……過去に起きたこと……?」
咲良の声が震える。
「まさか、女神の器が……人を壊すなんて……」
ミナトは拳を握りしめた。
カイトが静かに頷いた。
「器とは、強さを量るものではない。
それは、いかに傷を受け、なお進む覚悟を持つかを問う“器”だ」
「……レイナは、それを……」
「一人で抱えすぎた。誰も、彼女を支えなかった。
その過ちを、記録に残し、私は沈黙した」
咲良は目を伏せたまま、口を開く。
「なら、私は違う。ミナトと一緒に進む。たとえ傷ついても、支え合って──」
「咲良……」
二人は静かに目を合わせた。
「過去は変えられない。でも、未来は変えられる。
この記録は、絶望の証じゃない。もう一度、歩き出すための道しるべになる」
その瞬間、ルナ・アーカイブの天井がわずかに開き、
夜の帳を破って一筋の光が降り注ぐ。
女神の像が、微かに微笑んだように見えた。
ミナトがそっと咲良の手を取る。
「行こう。これが、新しい誓いだ。
記録を背負って、未来を創る。それが……俺たちの使命なんだ」
カイトが目を閉じ、静かに告げる。
「ならば、次なる道を開こう。器が満たされるその日まで、記録は導くだろう」
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次回予告
第16話『鏡写しの祈りと、偽りの都』
記録に導かれた咲良たちは、“偽りの神”が支配する都市へと足を踏み入れる。
信仰と欺瞞が交錯するその地で、咲良は自らの信じる祈りの形を問われる──。