第14話:月の記録庫と、沈黙する神官
銀の光が満ちる夜。
咲良とミナトは、天空に浮かぶ巨大な記録庫へとたどり着いた。
無数の星が見守る中、重厚な扉が音もなく開く。
その先には、無限に続く書架と浮遊するホログラムの記録が広がっていた。
「ここが……ルナ・アーカイブ。全ての記録が集められた場所」
「でも、どうしてこんなに静かなの?
生きているような記憶が眠っているはずなのに……」
ミナトの問いに、咲良は神妙な顔をする。
「……神官がいるはず。女神に仕えた者たちが、記録の守護者」
奥深く、彼らは一人の神官に出会った。
白髪の長髪。
淡い青の瞳。
しかし、その目は何かを封じたように閉ざされていた。
「……私はカイト。女神の記録を守る者の一人だ」
カイトは静かに語る。
「この場所の記録は、ただ保存されているわけではない。
危険な記憶、忌まわしい過去もまた、ここに封印されている」
「忌まわしい記憶……?」
「その通りだ。
かつて、女神の器を継ごうとした者たちの過ち、裏切り、絶望。
それらは記録とともに封じられ、世界の崩壊を防いでいる」
ミナトは息を呑む。
「でも、それを封印したままにしておくのは、記憶を忘れることじゃないのか?」
「そうだ。だからこそ、私は沈黙を選んだ。
過去を掘り返せば、再び世界は混乱するかもしれない」
咲良は決然と言った。
「でも、忘れてしまえば、私たちは何も学べない。
記録はただの過去じゃない。私たちの未来を創る道しるべ」
カイトの目が少しだけ開く。
「……お前たちの意思が試される時が来たようだな。
だが覚えておけ。記録を開くことは、同時に傷をえぐることでもある」
静寂の中、咲良は深く息を吸い込んだ。
「それでも、私たちは進む。女神の器を満たすために」
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次回予告:
第15話『傷跡の記憶と、新たな誓い』
開かれた記録が呼び起こす過去の傷跡。
咲良とミナトは、封印された真実と向き合い、新たな誓いを胸に旅を続ける。