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遅刻

 どうもシファニーです! クリボッチ! あ、自己紹介です。

 翌朝。俺は寝坊した。


「私は先行くからねー」

「あーい」


 なんて妹に適当に返事しながら歯磨きを始める。


 にしても不覚だった。昨日、いや、今日寝たのが3時だったせいで予感はしていたが、見事な寝坊だ。アニメって1度見始めると時間を忘れるよな、ほんと。


「これ、間に合うか?」


 すでに朝のSHRまで10分前に迫っていた。全力でダッシュでギリギリか……。


「たまには遅刻もいいよな。皆勤なんて目指してないし」


 そう呟いた俺は、自由気ままに準備を進め、のんびりとした足取りで学校へ向かった。


 そして、当然のように指導された。

 SHRがちょうど終わり、職員室に向かう途中だった担任と昇降口で遭遇。まったく急ぐ様子がなかった俺を見て目を吊り上げた担任に連れられて指導室に入っていた。ちなみに初めて入ったので内心テンション高かったりする。


「それで? どうして遅刻したんだ?」

「ちょっとおばあさんを助けるアニメ見て寝不足だったんです」

「自業自得じゃないか」


 そりゃそうだ。

 というかこの人、突っ込みとかできるんだな。


 我らが2年1組担任櫟原(くぬぎはら)京谷きょうや先生は、去年新採用された教師だ。去年は副担任だったのが今年から担任になり、年が近いこともあって生徒からの人気はそれなり。中高はサッカーをやっていたらしく現在もサッカー部の副顧問で、真面目顔の眼鏡インテリ外観のくせにスポーツもできるという万能っぷりを発揮している。


「というかおばあさんを助けるアニメってなんだ。聞いたことないぞ」

「俺もないです」

「言い訳する気がないってことだけは分かった。とりあえず遅刻届を書け、猫を助けてたってことにしとけば何とかなるだろ」

「なるわけないでしょう」


 突っ込みだけではなくボケも出来るなんて感動だ。


 櫟原先生に用紙とペンを渡され、記入している間に振られたのは何気ない雑談。


「そう言えば友倉、愛可はどんな感じだ?」

「その年末年始に会った親戚の質問みたいなのやめません? もうちょっと具体的なのくださいよ」

「じゃあ愛可のこと好きか?」

「恋バナもやめてください」


 この人真顔で言ってるから怖いんだけど。


「じゃあ真面目な話だ。愛可、溶け込めると思うか? 俺は正直難しいと思ってる」

「……いや、そもそもそれを俺に聞くのもおかしくないです? 任されたつもりもないんですけど……」


 隣の席は任されたけど、愛可の相手を任されたつもりはない。それにたった数時間一緒に過ごしただけで愛可のすべてが分かるわけでもないし……。


「そうなのか? 商店街デートを楽しんでたって話じゃなかったのか?」


 ズザッ


 俺の握っていたボールペンが、遅刻届の用紙を筆圧で引き裂いた。おかげで泰河が泰シになった。


「……それ、どこで聞いたんですか」

「今朝委員長から。密告があったって聞いたぞ。クラスラインで話題になったって」

「ちょっと待ってください色々突っ込みどころがあります」

「ん? どこだ?」

「いつ委員長決まったんすか」

「事前投票で決めてただろ? 去年と委員会は全部据え置きって」

「全然知らないんですけど……」


 あれ? もしかして俺寝てたのか?


「いやほら、委員会議会の上院で過半数取ったから」

「え、何の冗談です?」

「……はぁ、面倒だからそういうことにしたんだよ。今朝のSHRで決まった」

「教師やめちまえ」


 担任就任2日目にしてこいつを信じられなくなったぞ。


「で、他の突っ込みどころはどこだ?」

「クラスライン知りません」

「お前嘘だろ……俺も入ってるんだぞ?」

「それはそれでどうなんです?」


 教員と生徒の仲がいいのは悪いことじゃないが、生徒とライン交換したらダメだろ。


「流石に冗談だ。捕まりかねない」

「そりゃそうですよね。……じゃないじゃない、俺1年ハブられてたってマジっすか?」

「せっかく人が話題逸らしてやったのに」

「どうせなら真っ向からフォローしてくださいよあんた教師でしょう」

「ほら新米だから」

「無責任にも程がある」


 本当に大丈夫なんだろうな。今更ではあるが学年主任に抗議してやろうか。

 そんな会話の間に新しい用紙を貰い、必要事項を書き直していく。


「それで、愛可とのデートはどうなった?」


 ズザッ


 友倉が友ノになった。


「デ、デートじゃないです」

「じゃあ何してたんだ? 教室にも最後まで残ってたらしいじゃないか」

「な、何ってそりゃあ……」


 俺は昨日起こったことを思いだす。


 一緒にお昼ご飯を食べ、寄り道して買い物して、買い食いして、家まで送り届けた。

 ……デートじゃね? い、いや違う。そう、俺は大事な事実を忘れていた!


「愛可の荷物持ちです」

「おいいじめか? いじめアンケートは来月だからな」

「今すぐどうにかしろよ……あといじめじゃない。お弁当を分けてもらったお礼です」

「お弁当ってお前……。金ないなら相談しろよ? 話だけなら聞いてやるから」

「どうせなら一食くらい奢ってくださいよ。あとお金はあります」

「じゃあ奢らないぞ? にしても、仲が良さそうなのは本当っぽいな」


 3枚目の用紙にしてようやく必要事項を書き終え、それを受け取ると櫟原は満足そうに頷いて立ち上がり、俺にひとつの使命を与えた。


「これからお前が愛可当番だ。慣れない日本での生活、隣で支えてやってくれ」


 お前は愛可の何なんだ、と言いそうになった。

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