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対比

 どうもシファニーです! 絶対にクリスマスに出す感じの話じゃなかったです!

「いやなんか、めっちゃ疲れた」


 愛可を、豪邸と言っても差し支えない家に送り届けた。正直驚きすぎてあんまりそれからの記憶はない。買い食いの規模と言い、もしかしたらお金持ちなのかもしれない。

 そして俺は2階一戸建ての家に帰ってくる。庭のサイズ感が違い過ぎてこじんまりしているように見えてしまったのが残念だった。


 自室に入り、ベッドの上にダイブしながら大きく息を吐く。春休み開けて初日だというのに、夏休みが始まりそうな疲労感だった。何言ってるか自分でも分からん。


「てかほんと……何が何だか全然分からん」


 1日中振り回されてた気がする。


 愛可アダム。イギリス産まれアメリカ育ちの美少女は、俺の静かな人生に土足で踏み込みどんちゃん騒ぎを始めていた。それに対して強く出られない俺も俺だが、遠慮がないにもほどがある。もともとそういう性格なのか、初めての日本に興奮しているだけなのかは分からないが、もう少し遠慮してもらいたいよな。


 俺は端から誰かと一緒に過ごしたり、笑い合ったりって言うのが苦手な人種だ。

 小学校、中学校と続けて来たサッカー。本当は大好きで仕方なかったけど、いつしか誰もが力の抜き方を覚えて行った。

 例えば試合では本気を出すけど、家に帰ってみればボールを触った練習なんて誰もしない。朝練と放課後練、どちらも参加するだけ参加して途中途中で喋ってる。

 そんな中、俺はいつだって必死にやってたつもりだ。上手くなりたいと思って空き時間があればボールに触り、練習中は課されたメニューに集中。遠征の移動中はサッカーメモを見直し、外が雨で練習できないなら試合観察。

 別に努力を自慢したいわけじゃない。ただ、周りと同じようにする、という能力が圧倒的に欠如していたという事実があるだけ。中学3年生になり、受験を控えてもギリギリまで部活に参加していた。同級生たちが受験を理由にやめていく中最後まで続け、受験ギリギリになって引退。勉強はそれから頑張った。

 だから、本当ならサッカーさえ出来ればどこでも良かった。そうやって選んだのが今いる高校だったはずだ。入学したらサッカー部に所属して、今まで通りに頑張る、そのはず。そう、信じて疑わなかったはずなのだが。


 受験が終わり、合格が決まった春休み。いつも通りサッカーボールを手に近くの河原に向かった時に出会った人がいた。どうして喋ることになったのか、そのきっかけはもう覚えていない。けれど、その人と話をした後に、俺は自分の考えを改めた。

 これがいいことなのか悪いことなのかは分からない。ただサッカーを頑張る気が亡くなり、休み中に初めてアニメを見始めた。それに見事にはまって量産型インドア系男子へと転職した。

 高校に入ってからはサッカーボールに触っていない。選択授業の中にあったが、どこか抵抗があって選ばなかった。1度頑張ることをやめてしまった俺に、触る資格はないような気がしたから。


 だから、だから俺はこんな人間なんだ。だから、愛可と肩を並べて歩くような人間じゃない。

 自分の楽しいことの為に全力で、可愛くて、元気で、キラキラしてる、俺とは真逆の存在。別にサッカーしていた頃なら釣り合う、という話もない。あの頃の俺も、今の俺と熱中していた物が違うだけで、別に輝いたりはしていなかったから。


 顔を上げて、時計を見る。

 時刻は19時過ぎ。帰って来たのが1時間前。なんか、体が疲れるのと同時にメンタルもやられていたらしい。だいぶ落ち込んでる。


「はぁ……とりあえず着替えるか」


 しわがついた制服を脱ぎ、散らかしてあった部屋着に着替える。制服くらいはハンガーにかけて、手荷物を放って部屋を出る。

 1階に降り、リビングに入る。いつも通りに家族に迎えられ、夕食はまだかと聞けばすぐだよ、といつもの返事。スマホをいじりながら時間を潰す。だらしない、なんて指摘を妹から受けながら、いつものように俺の勝手だろ、とあしらう。

 他の人にも妹にするくらい強気に出れればなと思いつつ、大人げないだけだと気付いて肩を落とす。そんな俺のため息を拾う人はおらず、夕食の時間。一応家族4人で食事を囲み、俺を除いた3人が適当に雑談する。クラス替えは? と父に聞かれ、無いと答えただけが俺のセリフ。

 そんな夕食を終えて、部屋に戻る。


 扉を開けて、部屋を見渡す。いつも締めっきりのカーテン、クローゼットの前に放置された服、最後に干したのがいつなのか思い出せない布団。勉強机の代わりにあるのは、父に譲ってもらったデスクトップパソコン。

 椅子を引いて電源を付け、その間スマホでSNSを開いて適当にスクロールする。何が目的なわけでもないその行動に、いちいち意味なんて求めたことはなかった、今日はセンチメンタルになっているんだろう。無意味を自覚しながらもそれを続け、パソコンが起動。

 モニターが付くと同時にロック画面を解除。それからいつも通りアニメ視聴サイトを開いて――


「あれ、着信?」


 お馴染み中国製トークアプリの着信音。普段から鳴ることはほとんどないが、辛うじて連絡を取り合う相手はいる。家族は無いとして、あと何択だと考えるのもはばかれるような数の顔を思い浮かべてスマホを開くと、あまり見慣れない名前が表示されていた。


 今日は楽しかったデス!!!! また明日、お弁当作っていくデス!!!! 


 そんなビックリマークを多用した文言と何かのアニメキャラクターのスタンプの送り主は、アイカ、と書かれたアカウント。そう言えば、帰りの途中に交換したっけか。内容が濃すぎて忘れてた。

 しかしうっかり既読を付けてしまった。どう返事したらいいかと迷いながら、辛うじて返信する。


 俺も。お弁当、お願いします。


 送ってから、いや、なんで敬語なんだよと思ったがすでに既読が付いている。

 今更取り消しもあれなのでスマホを放り、モニターに向き合う。


 それから数秒と経たずに鳴った着信音は、ヘッドフォンに流れ始めたアニメのオープンニングソングで掻き消されていた。

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