喫茶店
どうもシファニーです! 前書きは省略!
映画が終わった。
愛可と一緒にいるという胸の高鳴りは、いつの間にか映画にとってかわられていた。それくらい、俺もこのアニメが好きだったのだ。
だが、俺がアニメに集中していたからと言って愛可が怒ることは無い。なぜなら愛可は俺以上に映画にのめり込んでいたから。
デートなんて単語はどこへやら、映画を思う存分楽しんだ俺たちは、胸に残る感動と喪失感を携え、少し駅前を歩いていた。昼時なのだが、本なら読後感、映画なら何て言うんだったか。
それでお腹が満たされてしまっていて、ご飯を食べる気に慣れなかった。消化という意味も込めて、少し辺りを散歩することにしたのだ。
「凄かった、デス」
「だな。めっちゃ良かった」
語彙力などどこへやら。感情の高鳴りをそのまま口にするだけを続けること10分ほど。偶然入り込んだ裏通りに、小さな喫茶店を見つけた。そうは言っても喉は乾き、数時間座りっぱなしだった状態から10分歩いたことで少し疲れた。ちょうどいいと中に入る。
「あ、ワタシ、お手洗い借りてくるデス」
「分かった。あ、注文聞いとく。何が良い?」
「Hum……Coffeeでお願いするデス。甘いもの取り過ぎたデス」
「了解、注文しとくな」
「よろしくデス!」
落ち着いた雰囲気の、覚えのないお店だった。この街のことはある程度知りつくしたと思っていたが、まだまだだったらしい。
人の入りもそれなりで、俺たちが案内された席が最後の一席だった。こうなると4人がけの席にふたりで座るのが申し訳なくなってくるが、こればっかりは仕方ない。
席につき、しばらくすると定員が注文を聞きに。愛可に頼まれていた注文をし、雰囲気にあてられて俺もコーヒーにしようと考える。ただ苦いものは得意ではなかったのでコーヒーは断念、カフェオレを頼む。
そして、以上です、と言おうとした時、視界の端に気になるものを見つけた。
「あれ、これルービックキューブですか?」
「あ、そうなんです。店長の趣味で」
「へえ。これ、ちょっとレトロなやつですね。初めて見ました」
「やったことあるんですか? 良かったら待ち時間の間使っていただいてもいいですよ」
「いいんですか? ありがとうございます」
では、と定員は下がっていく。
ルービックキューブ。高校1年生になりたての頃、サッカーという人生のすべてを賭けていたものを失い、手持ち無沙汰になった俺はサブカルチャーオタクになった。
その過程で、アニメの登場キャラクターが触っていたのを見て、いつだったか本気で勉強したことがあったのだ。面を揃えるためのテンプレートを覚え、ひとりタイムアタックをしていたのもいい思い出。
似たような理由で英語や四字熟語の類にも詳しくなってしまっていた。まったくいらぬ才能だ。
いや? 四字熟語に関してた最近対飛竜さん用と言う用途が見つかったか。英語も愛可相手に通用するし。
今度はドイツ人が来たりするのだろうか。実はドイツ語も少しわかる。
来たら面白いなと思いつつ、手癖でルービックキューブを回していく。
最近よくあるプラスチック製特有の軽めの音じゃなく、しっとり滑らかな手触りをしていて、すいつくような音が鳴った。なんかアンティークって感じだ。
これは良い、と回していると、足音が近づいて来て、見覚えしかない金髪が視界に映った。
「タイガ! それは何をしているんデスか? It's so cool!」
「これか? ルービックキューブって分かるか?」
「おお! Japanese soul cultureデスか?」
「いや普通に世界共通。てかアメリカ発祥じゃね?」
どうやら愛可が返ってきたようだった。ルービックキューブを見たことが無かったのだろう。日本製のものじゃなくても、新鮮な物には必ず目を輝かせる愛可。
興味津々な様子で手元を覗き込んで来たので、手本に見せてあげることにした。
「凄いデス! ぐちゃぐちゃだったのに、色が揃ってるデス!」
「そういうおもちゃだからな」
「ワタシもやってみたいデス!」
「いいぞ、やってみろ」
「Yes! Beyond 限界デス!」
「なんで初っ端から越えるんだよ。まず限界まで頑張れ」
映画を見たテンションのままなのか、アニメで出てきそうなセリフを叫んでいた。
ルービックキューブを手渡すと嬉しそうにいじり出し、真剣な目つきで6つの面を観察し始める。結構簡単なばらし方にしたのにさっそく突拍子もない方向に回し「おお……?」とか「ムムム」とか「これは……!」なんて声を漏らし始めたのに思わず笑いがこぼれるが、何も言わず見守り続ける。
おっかなびっくりした様子で右手を動かし、真剣な表情で順調に、より複雑に色を混ぜ始める愛可だったが、本人が必死に取り組んでいるんじゃ、邪魔をしないほうがいいだろう。
程なくして注文していたコーヒーとカフェオレが届いた。だが、愛可は目もくれずにルービックキューブと格闘している。
そんな愛可を眺めながらカフェオレに口を付ける。違いなんてよく分からないが、市販のものよりは美味しく感じた。正直和菓子以外には馬鹿舌だった。
まあでも、愛可と一緒だったら何でも美味しく感じるんだけどな。
と言うわけで前書きを省略したのは後書きを書くためです。
お察しの方はお察しかと思いますがこの作品の区切りになります。所謂第1章完、です。
さてこれからどうしましょうね。第2章を書くべきか否か。ネタはあるんですけどねぇ。他にも書きたい作品があるので考えものなんですよね。もしかしたら数日お休みするかもしれませんのでご了承ください。
それでは!