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映画館

 どうもシファニーです! 今日は猫の日らしいですよ! 愛可ちゃんに猫耳でもつければよかったかな

「タイガー!」

「あ、来た来た」

 

 歓迎会から1週間後、土曜日の午前10時20分。

 俺と愛可は駅前で待ち合わせの約束をしていた。待つこと実に1時間、俺はこれをネタにするべきか否かを悩んでいた。


「早いデスね! 待ったデス?」

「……」

「Mm? タイガ?」


 やばい、どうしよう。

 待ってない、今来たところだよ、と言うのが定番だと言うのは分かる。

 でも、そう言ってしまえばネタにするのが難しくなるわけで……。


 そう。俺は、愛可に10時30分前、と言われたのを9時30分だと認識していた。

 対して、遅刻をしたつもりの無さそうな愛可を見るに、10時30分の少し前、と言いたかったのだろう。

 

 今日観る予定の映画、その放映開始時間が10時35分なのを見れば一目瞭然だったというのに。


「……い、今来たところだよ」

「絶対嘘デスよね……?」


 自分の馬鹿さ加減が悲しくなってきてそう言ったがあっさり見抜かれた。まああれだけの葛藤があれば分かって当然だ。

 日本語って難しい。


 ちなみに、伝えたところ愛可は謝ってくれそうになったのだが、ただの俺の勘違いだからとなだめるのに時間がかかってしまった。愛可の前でこの手のネタは使えないかもしれない。

 

 そんなこんなで駅と併設するように並ぶショッピングモール、その映画館にやって来た。

 見るのはアニメ映画。俺も視聴経験がある人気ファンタジー作品だ。察していたというか分かってはいたのだが、愛可はだいぶ日本カルチャーの虜、オタクだ。昨日上映開始の映画の予約をすぐにとり、こうして見に来るほどには熱心な。

 俺も知っていると昨日ラインで話してしまった時には3時間以上にわたる熱いトークが始まっていた。俺的には、初めて趣味を共有できたような気がして嬉しかった。

 ただ、愛可がそんな俺とは比べ物にもならないような熱量で話すので、ちょっと気おされてしまった。でも、例えライン越しだとしても、好きなものについて語る愛可の楽しげな姿はありありと頭に浮かんだ。

 そんな姿が可愛いと思えて、3時間チャットをした後すぐにアニメ本編を見返したほどだ。おかげで時系列はすべて頭に入っている。愛可と同等の熱量で映画を楽しむ準備は万端だった。


「おお! JapaneseCinemaデス! Toho!」

「……まさか映画館の段階で心まで喜ぶとは……」


 どうやら愛可と同じ熱量と言うのは難しかったらしい。


「Caramel popcorn and 2 Cokes, please!」

「Sure、please wait a moment」

「Thank you!」


 英語対応が出来るという看板があったのだが、それを見たせいだろうか。愛可が英語でしゃべってた。と言うか売店の人も流暢だな。きっと洋画が大好きに違いない。


 と言うか俺のドリンクがコーラになっていた。いや、別に嫌ではないけど。あれだろうか。アメリカだとやっぱりコーラ一択なんだろうか。


 入場可能時間になり、予約チケットで中へ。シアタールームに入れば、愛可はルンルン気分で席を探した。さああとは映画が始まるのを待つだけだと思っていたのだが、その前にもうひと悶着あった。


「Oh! Japanase映画泥棒デス!」

「あー……これも珍しいのか」


 映画を撮影することを禁止する映画前の注意喚起みたいなやつ。いつかSNSで流行ってからは一種の作品として親しまれている雰囲気すら醸し出している。まさか海外のオタクが見て喜ぶほどのものだったとは。

 その後のコマーシャルも、愛可は目を輝かせてみていた。


 そう言えば、そもそも日本で映画を見るのが初めてだったはずだ。

 日本のことが大好きでやってきて、生位でその大すきに触れようとしている。興奮するのも当然のことだと思う。

 でも、それを全身で表現できるのは愛可にしかない魅力だ。大袈裟なんかじゃない。心からの喜びを表に出している。

 そんな愛可の姿が可愛くて、いつからかひかれていたんだろうなと思えば、愛可こんな姿を見られるのは、俺にとっても嬉しいことなんだ。


 愛可とはこれからもっと色々なことが出来るのかもしれない。たくさんの時間があるのかもしれない。

 でも、1分1秒を無駄にせず、今ある時間を大切にして全力を尽くす。それこそ誰に求められている者でもないけれど、それが好きだから、ってただそれでけで全力を尽くせる。


 ふいに意識が現実に戻る。

 周囲を見ると照明が落ち、スクリーンに光が灯り始めていた。

 手に触れた感覚を頼りに見ると、そこにはそっと添えられる愛可の白い手。そこから視線が上に向かえば、興奮と、ほんの少しの羞恥心とが合わさって色付く頬が、暗がりの中でもはっきり見えた。

 はにかむ愛可に、俺も出来る限りの笑みで応える。


 いつだって、何だって全力な愛可に、俺も応えたいと思う。そうして、愛可のことをもっと知って行きたいと思う。それが俺なりの誠意だって、愛可といる内に知ることが出来た。

 だからこれからもそれを続ける。たとえそれが自己満足でも。その先に、喜んでくれる愛可がいる。そう思える限り。

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