輪に入って
どうもシファニーです! 何とかギリギリ今日に間に合いましたね。ゲームしてたら時間が迫ってました。
「それこっちにくれ!」
「うわ、めっちゃ美味そうじゃん!」
「美味しいよぉ。あ、私そっちも食べたい!」
「天下一品」
「私ジュースおかわりぃ!」
愛可の家は、喧噪に包まれていた。
最終的に集まったのは20人弱。リビングやダイニングだけでは収まりきらず、庭も開放してバーベキューと相成った。
ちなみに誰よりも力を入れていたのはクスタフだった。玄関から廊下、リビングまで風船を浮かべたりメッセージカードをかいたり帯を付けたりと飾り付けを。愛可はそのために折り紙を練習したと言っていた。愛可と同じく努力家らしい。三日三晩かけたと聞いた時は流石に驚いた。
ピザやフライドチキンを買い寄せ、バーベキューセットも購入。もちろん材料だって買っていたし飲み物もたくさん用意したらしい。
なんて報告を愛可がクラスラインにして、みんな何も持ってきていなかったらしい。俺はと言えばラインは見逃し、そもそも何かを持っていくという発想にならなかった。
普通に考え足らずである。猫弧も緊張で忘れてたと恥じていた。
にしても流石お金持ち。娘の友人たち、それも食べ盛りの高校生ばかりが集まって全員分のご飯を嫌な顔ひとつせず用意するとは太っ腹だ。
……こうなるとクスタフと飛竜の両親、どっちがお金持ちか気になるかもしれない。
「タイガ! 楽しんでるデス?」
「ん? 愛可か。ああ、ご飯は美味しいし、楽しいよ」
今日の主役の愛可。パーティーハットを付けた愛可は、嬉しそうに笑って顔を覗き込んできていた。
俺はと言えば、ダイニングの席についてポテトを摘まんでいた。愛可は引っ張りだこでみんなの相手をしているが、俺は喋りかける相手もあまりいない。
実は言えばまだこの雰囲気に馴染めていないのだが、つまらない素振りなんて見せられるわけもない。
まあそれに、楽しそうにしている愛可を見ているだけで正直俺まで楽しくなれているんだ。嘘ではない。
視線を巡らす。
奈央や美鈴、飛竜。あとは博人を筆頭にした男子たち。あそこら辺のいわゆる陽キャ組とはまだ対等に関われない。どうしたって苦手意識がある。
いや、奈央たちとはだいぶ慣れて来た。ただ、そこに出来た人の輪の中に入るのは苦手だ。俺は聖徳太子ではない。いっぺんにたくさんの人の話を聞き分けられたりはしない。
話題を合わせるのも、たぶん難しい。世間話なら出来そうなんだけどな。
たぶん、苦手意識があるのは中学の頃の影響だ。
サッカーに全力を注がず、おちゃらけてけらけらと笑う。どうにもそんな姿勢が気に食わなくて、いつからか声をかけなくなった。しばらく経っては周りの人たちが皆そうなんじゃないかと思えて来て、いつしか誰と喋るのも怖くなっていた。
今思えば、俺がインドアな趣味ばっかり増やしていたのはそれも原因だったのかもしれない。
「本当デス? ちょっと退屈そうに見えるデス」
「ん? いや、そんなことはないぞ。今は……あれだ、休憩中」
「Oh、大事デス! ゆっくり休んでくださいデス」
「ああ、ありがとな」
言うと、愛可は嬉しそうに笑って庭の方へと向かった。ちょうどお肉第一陣が焼け始めたところらしい。まだお昼には少し早かったが、みんなはしゃぎまわっている。お腹もすくだろう。
テレビゲームとかボードゲームも用意しているみたいだし、ボールがあれば軽くサッカーができるくらいのスペースもある。サッカー部を中心に遊ぶんじゃなかろうか。奈央たちならバドミントンもだよな。ネットはないだろうけど、ラリーくらいなら……。
そこまで考えて、俺は気付く。
俺はいつから、こんなに周りの人たちを意識するようになったんだろう、と。
思い返してみれば、いつからか周囲の視線を気にしだすようにもなっていた。誰が何をしていて、どんなことをすると興味持たれて、みたいな。そんなことを考えて、まあ避けようとする場合が多かったのだが、行動していた。
ちょっと前まで、周りのことなんて何も見えていなかったのに。
いや、見えていない頃の方が楽だった。気にしだしてからは気苦労ばっかだ。
でも……。
「あ、兄貴、こんなところにいたんだ」
「おお、猫弧じゃないか。どうだ?」
「ん、結構楽しい。みんな優しいし。私も兄貴の高校行こうかなぁ」
「候補に考えてもいいけど、お前勉強できるんだしもっと頭いいとこ行けるぞ?」
「それはブーメラン。兄貴の偏差値、10の位単位で適正じゃないもん」
「お、おい、あんま言うな」
受験が面倒くさくて近場を探し、勉強しなくても授業もテストもある程度できそうな高校を選んだ。サッカーに集中したかったから。
あんまり人に聞かせて面白い話ではない。それに、1年時は後悔したのだ。俺が苦手な人ばかりだったから。
でも――
「……まあ、俺は今の学校に来てよかったと思ってるけどな」
「それ、結局愛可さん目当てでしょ」
「それもあるけど、まあ、いろいろとな」
明星との出会いも、たぶんオリバンダー高校のおかげではある。あの言葉が無ければサッカーを止めようと思わなかったし、思わなかったらきっと、愛可との出会いがこんなに心に響くことは無かった。
山あり谷ありが人生で、落ちて沈んでを繰り返すのが成長で。だとしたら、俺が今までにしたどんな決断も、今こうしてパーティーを楽しんでいる俺を実現させるには必要なことだったんだと思う。
「なに浸ってんだか。ボッチのくせに」
「うっさい。いいんだよ、今はひとりでも」
「はいはいそうですか。それじゃ、私もお肉貰ってこようかな」
今はまだ、猫弧のように人の輪には入れないかもしれない。
けどいつか、一緒にいたいと思える人がたくさん増えたのなら。
俺も、その輪に入れるんだろうか。入れたらいいなと、そう思う。