ジャパニーズ買い食い
どうもシファニーです! 学校でインフル流行り出しちゃいました。突然更新休んだらインフルでもなんでもないただのサボりなので仕方なく待ってやってくれると嬉しいです。
先程から愛可が静かだった。
お弁当は豪快に食べていたのに、ハムスターくらい小さな口で大切そうに栗まんじゅうを食べている。栗まんじゅうに集中しすぎて転ばないか心配だが、今のところ危なっかしい様子はない。
ちなみに、今俺たちがどこに向かっているのかはよく分かっていない。一応愛可が家がある、と言っていた方向には来ているが、愛可が何も言わずに歩き続けているせいで曖昧だ。そろそろ歩き始めて10分経つのだが、愛可の家に着いてもいい頃だよな?
だが、愛可は何の反応も示さず栗まんじゅうを食べ続けている。残り3割ほど。
……いや、本当に食べるの遅いな!? え!? 何なんで栗まんじゅうをそんな大切そうにしてるの!?
そんな疑問が喉元まで出かかったが、これで、おばあちゃんが最後に食べたいと言っていた物デス、とか言われたら返しようがないので何も言えない。
そして、さらに数分後。ようやく愛可が食べ終わった。
「……ごちそうさまデス」
「お、お粗末様?」
にしてもほんと、どうしてここまで静かなんだろうか。
と、思ったのも束の間。
「さあトモクラ! Let’s go! 商店街に行くデス!」
「え? あ、ちょ、待てって!」
食べ終わった直後に元気に戻り、走り出した愛可を追いかける。
いやほんと、結局何だったんだ?
普段から人の行動について考えたりする質ではないのだが、この時だけはどうしても気になって仕方なく、頭の中から離れなかった。
そんな思考にばかり頭を使っていたせいだろう。
俺はいつの間にか、大量の買い食いに付き合わされていた。
「これがジャパニーズ買い食いです!」
「いや、お祭り帰りか!?」
という普通に聞けば何言ってるか分からない突っ込みは、愛可の姿を見れば的を得ていることが分かるだろう。
右手にタコ焼き、左手にコロッケを抱え、右腕にアンパンとメロンパン、左腕にフランクフルトとホットドックが入った袋を下げている。……いや日本じゃねぇ。タコ焼きコロッケまではいい。あとアンパンとメロンパンも許そう。だがフランクフルトとホットドック、お前らは駄目だ。
というわけで両手いっぱいに食べ物を抱えているお祭りスタイルの愛可なわけだが、にこにこ笑顔で食べまくっていた。
本当に栗まんじゅうは何だったんだ……。
そんな疑念を込めた視線を向けていると、愛可がコロッケを咥えたままこちらを向く。
「ふぁふえふぅふぇふぅ?」
「英語の方がまだ分かりそう」
「……んっ、食べるデス?」
しっかりと飲み込んでから、愛可は食べかけのコロッケを向けてくる。サクサクの衣とまだ湯気が立って温かいと分かるひき肉の断面。愛可は美味しいデス! と言っていたが、そりゃそうだ。地元で大人気なんだもの。俺だって時々晩御飯で出てくれば多少なりとも浮かれるほどに。
だが、ここは男の意志でもって断る。
「いや、いいよ。愛可にはお弁当も貰っちゃったし、帰ったらこれもあるからな」
と言って和菓子の入った袋を見せれば、愛可は納得したように頷き、笑みを浮かべる。
「そうデス? …んっ、It's so delicious!」
またも豪快にかぶりつき、そう声を上げた愛可。俺はそれを見ながら微笑みを浮かべ、内心で何とも言い知れない感情を抱えていた。
いやだって! 容赦なく間接キス迫って来るんだよ!? 正直な話お弁当の箸を共有していた時点で気にはなってた! でもそれは不可抗力だもん箸一本しかないから! でも、でもなんかこれは違う! 最悪唾液とか共有することになるわけで! まあ嫌と言うかむしろこう背徳感があってって俺は何を言ってるんだ!? 煩悩よ消え去れ素数を数えるんだ!
1,2,3,4、5,6,7,8――
「って素数じゃねぇ!」
「Wow!? 急にどうしたデス!?」
「あ、なんでもないです!」
やべえ語尾がうつった。
というか俺の物静かキャラがどんどん崩れてるんだけどどうしてくれるんだよ。……考えてみれば自爆しかしてないわ。
冷静に、冷静になるんだ、俺。深呼吸をしろ。改めて素数を数え直そう。
43,47,53,57、61、67――
「いや突込み不在ってキツイな!?」
「What!? トモクラ、本当に大丈夫デス!?」
「ああはい問題ないです!」
ここがクラスの中じゃなくてよかったと思う。まあ、商店街にいる多くの人にはすでに変人を見る眼で見られている気がするけど。ほら、これはもともと特徴的な外見の愛可が視線を集めていたというか? って言いたいけど、オリバンダー高校に通う留学生も利用してるからそこまで珍しくはないという。
もうこの商店街に来るのはやめるか。
愛可に心配されつつ自己嫌悪しつつの帰り道はその後数分続き、愛可が立ち止まったことでいったんの終了となった。
「ここがMy houseデス!」
そう言って愛可が指差したのは……。
「なんじゃこりゃ……」
3階一戸建て、庭付きのここの住宅街の中では他と比べ物にならない程の豪邸だった。