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兄貴

 どうもシファニーです! 今日1日思い返してみて部屋から出て無さすぎてびっくりしました。ご飯食べる以外部屋出てない気がする……。あ、いつものことか。

「はあ!? 愛可さんと付き合うことになったぁ!?」

「こ、声がでかい……まあ、気持ちは分かる。俺も正直、今でも信じられない」


 リビングでテレビを見ていた猫弧に報告すれば、大体予想通りの返答が返って来た。ただ、予想以上に声が大きかったので鼓膜が死にかけた。


「うっそ……こんな駄目兄貴のどこを気に入ったの……? 何か勘違いしてる? 一瞬の気の迷いじゃないの?」

「……俺もそんな風に思わないでもないがやめてくれ。自信無くす」


 せっかく自信がついてきたところなのに一瞬で粉砕するのはやめて欲しい。


「まあ、私も愛可さんのことよく知ってるわけじゃないから、たまたま兄貴が好みだったって可能性はあるよね。それにまあ、別に魅力がまったくないわけでも……」

「ん? なんて?」

「っ、な、何でもない! 最近は少しマシかなって言っただけ!」


 目を逸らし、言葉尻を小さくして言われたので聞き返せば、今度はまた鼓膜を突き破るような勢いで怒鳴られた。よっぽど混乱しているのだろうか。情緒不安定に見える。


「で? これからどうするの? 付き合うって言っても、何か具体的に変わるわけ?」

「それは……どう、なんだろうな」

「はあ? 何も考えてないのに付き合うことにしたの? 意味ないじゃん」

「うっ……」


 確かにそれはそうだ。

 いざ付き合って、それで今まで通り過ごします、じゃあ付き合ってる意味がない。いや、もしかしたら付き合うって行為そのものには大きな意味があるかもしれない。互いに好きって感情を打ち明けるのはもちろん、友人としてはしにくかったことも出来るようになるはずだ。デートとか、手を繋ぐとか、それ以上とか……。

 って想像しかけて、頭を振る。駄目だ駄目だ、思考が邪な方に走りかけてた。


 でも、結婚って話が出てきちゃったし、もし結婚することになったら、そういうことも……。

 愛可ってスタイル抜群だし、顔もいいし。正確とかそう言うの無しにしても魅力的が過ぎるんだよなぁ。


「……兄貴、何考えてるか大体分かるけど、顔キモい。あと妹の前でそれは引く」

「は、はあ!? 別に何も考えてないが!?」

「動揺しすぎ……はあ、これだからだ非モテは」

「うっ。い、いや、猫弧だって彼氏はいないだろ? 俺のことは言えないはずだ!」


 なんて、中学生の妹に言うのは大人げないよな。

 分かっていながらも、一方的に言われ続けるのが悔しくて口にしてしまう。だが、猫弧はムキになるでもなく、あっけらかんと返してきた。


「いや、いないけど告白はされるよ。まあ、どの男子も顔目当てってのがバレバレだしタイプじゃないから断るけど」

「なん、だと……?」


 告白される? 猫弧が?


「何その反応、失礼なんだけど。私顔は良い方でしょ」

「それは……」


 言われて猫弧の用紙を確認してみる。


 中学生にしては大人びた顔つきは鋭く、俺から言わせてみれば怖いのだが、クールと取ることも出来る。

 肌や髪、まつ毛に気を遣っているのはなんとなく知っている。入浴後、就寝前、起床直後と時間をかけまくっている姿を見ているからだ。実際、不快感は一切受けない。

 目鼻立ちも……整っている。形が極端に崩れている部位は無いし、歯並びが綺麗で目だって大きめ。


「……なあ、俺と血繋がってる?」

「どういう質問なの、それ」


 怒りっぽかった表情が一変、可哀そうな物を見るような呆れ顔になってこちらを睨んでくる。睨んでくることに変わりはなかった。


「いや、俺と比べて顔いいなって」

「気を遣ってる私と無頓着な兄貴を比べないで。……って言っても、兄貴だって別に造形だけは悪くないんだけど」

「え? 何かさっきから聞こえない部分あるんだけど」

「私も疑わしいと思ってるって言ったのよ」

「あ、やっぱりそうか?」


 一応気遣って聞こえないように言ってくれたらしい。今回は俺の自爆だったか。


「ま、顔の造りなんて結局は第一印象でしかない。健康的な生活送って気を遣ってれば最低限のものにはなる。あとは、他の女子より目立てば告白される事だって珍しくない」

「目立つ? 何かしてるのか?」

「別にしてないけど。私、学校じゃ一匹狼気質だから。嫌でも目立つってだけ」

「え、何、いじめか?」

「違う。勝手に人を被害者にしないで」


 加害者にしないでなら聞いたことあるけどそっちパターンって存在したんだ。


「男子は子どもっぽいから嫌いだし、女子も手抜きばっかで合わないの。私はひとつのことでもいいから真剣に頑張れる、そんな人じゃないと関わる気になれない。それだけのこと」

「へぇ、猫弧ってやっぱり理想高いんだな。俺が言えることじゃないけど、友達は作れよ?」

「本当に兄貴の言うことじゃない。ま、安心して。友達くらいいるから」

「ならよかった」

「何で? 兄貴には関係ないでしょ」

「え? あー、それは……」


 なんで、って言われるととっさに出てこない。

 友達はいるに越したことが無い、と思い込んでいた。でもまあ、強いて言うなら――


「猫弧が寂しがってるの見ると、ショック受けそうだからな。猫弧は元気すぎるくらいが一番似合ってる」


 これでも昔はお兄ちゃんっ子だった妹だ。嫌いなわけはない。最近はずっと口調が強いが……それでも、心配くらいはしてもいいだろう。


「なっ……ふ、ふぅん、そう。まあ、そうだよね。元気ない私なんてらしくないもん。よく分かってるね、褒めてあげる」

「何で上からなんだよ……」

「う、うっさい! と、とにかく! 愛可さんに迷惑かけないためにも、何かわからないことあったら私に聞くこと、いいね!」


 それだけ言うと、猫弧はすぐに顔を逸らしてリビングを出て行き、慌ただしく階段を駆け上がって行った。


「あ、ああ、分かっ――行っちゃった。……ほんと、頼もしい妹だ」


 最近、久しぶりに猫弧と向き合えている気がする。この1年はほとんど関わりも持てていなかった。最悪絶交を言い渡されるくらいに嫌われていても不思議じゃないと思っていたが……俺も捨てたものじゃないな。

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