ジャパニーズ寄り道
どうもシファニーです! クリスマスが近づいて来たからクリスマスに関するお話し書きたいんですけど作品の進行度的に無理ですね……。作品まだ4月の頭ですからね。
アメリカの文化のひとつにデーティング期間と言うものがあるらしい。
気になる人とはとりあえずデートして相性を考えよう! ってものらしいのだが、正直他人事だと思っていた。
なぜそんなことを突然思い出したかと言えば、愛可がデートだとか言い始めたのが原因だった。
「La lalala lala~」
洋楽っぽい何かを鼻歌で奏でる愛可を、俺は少し恨みたい気分で横目で見ていた。
俺が頭を悩ませる原因たる本人がここまでのんきだと、怒りたくもなるというもの。
あれか? 日本に来たしとりあえず彼氏作っとくかってやつか? やっぱりアメリカだとみんな積極的なのか? 日本男子がシャイすぎるだけ? ……まあ、俺が女性経験と無縁なので実際の日本男子のことなんて知らないんだけど。
って誰が非リアだふざけんな。
彼女いたことは無いけど! 無いけど!
そんな自問自答? を繰り返しているうちに、100均にたどり着く。
「えっと、お弁当cornerはあっちデスね!」
さっきまで気にならなかった所々に挟まるネイティブ英語が煽りみたいに聞こえてきた。駄目だ俺落ち着け、ここで愛可にイラついても何もいいことはない。
今この状況が少しずつ放課後デート的な何かに見えてきたのだって、きっと何かの間違いだ!
「トモクラ! これなんてどうデス?」
「え? ああ、シンプルでいいな。でもちょっと小さいんじゃないか?」
「Mmmー、そうかもデス。違うのにするデス」
……いや普通に答えるなよ!
相手が可愛いからって騙されるな……! はっきり言ってやれ、やっぱりいらない、と!
「これなんてピッタリじゃないデス?」
「いや俺は――」
いらない、と言おうとした時、楽し気に弁当箱を手に取り、こちらに笑顔を浮かべる愛可が目に入った。純粋無垢な笑顔には初めての経験への興奮、喜んでくれたらいいなと言う期待、彼女自身の明るさなど、多くの色が見えていた。そんなポジティブの塊に対し、それでも俺は正面から否を突き付け――
「――それ、いいと思うぞ。気に入った」
「それはよかったデス! それじゃあ明日から、これがトモクラのお弁当箱デス!」
突き付けることが出来なかった。
認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというやつを。
いや、これは俺が悪いんじゃない。普通の人間なら断れるわけがない。誰がこんな笑顔を前に否定を突き付けられるんだろうか。俺は大人になっても、子どもの純粋さを否定しない大人になりたいな。
両手で胸元まで持ち上げ、誕生日プレゼントをもらった子どものようにはしゃぐ愛可に対して、俺はもうなんか否定やネガティブワードをかけるのは不可能だと判断し、無駄にあれこれ考えるのをやめることにした。
世の中切り替えが大事だからな。
「それではお会計に行くデス!」
「あ、ちょっと待ってくれ。他に買いたいものがある」
「Huh? 分かったデス」
俺が言えば、愛可は素直について来る。これだけ素直なら俺が何言っても笑顔で応じてくれそうな気がしてしまうが、小心者の俺に大それたお願い事など出来るわけはない。
それから俺が向かったのはお菓子コーナーだった。
ポテトチップスやじゃがりこ系スティック菓子を横目に、俺は和菓子が並ぶ棚を見る。
小分けにされた手のひらサイズたちの商品を眺めていると、隣から愛可が覗き込んでくる。そして並ぶ品々を見て、目を輝かせて声を上げた。
「わぁお、Japanese和菓子デス?」
耳元でそう聞かれ、少し距離を開けてから答える。
「……そうだな。羊羹、どら焼き、大福……どれか気になるものあるのか? 少しくらいなら奢るよ」
「おお! トモクラはあれデス! ほらその、Mmmm……三段腹デス!」
「太っ腹な? それどういう間違いなんだ?」
愛可のボケなのか天然なのか分からない発言に戸惑いながら、お気に入りの商品を次々と手に取る。たまにこうやって買いだめしておかないと、お菓子でさえ買いに来るのが面倒になるんだよな、俺。ここより近いコンビニもスーパーもあるのだが、そこに行くのすら億劫だ。何とかしないとな、とは思いつつ、結局この1年進歩は無かった。
と言うわけで買い込んでおこう。
カゴを手に取って次々と和菓子を詰め込んでいると、愛可がカゴの中を覗き込んでくる。
……じーっと見つめ、何か珍しいものでも見るかのような視線を向け続ける愛可。途中まで気にせずに投入を続けていたが、いつしか居心地が悪くなり、完全に手が止まる。
「ど、どうかしたのか?」
「Japanでは買い物中に食べてはいけないと聞いたデス」
「ん? ああそうだな。アメリカとかだといいんだっけ?」
「お金さえ払えば問題ないことが多いデス。……食べていいデス?」
「駄目だって自分で分かってただろ。すぐ買うから待っててくれ。ほら、気になるものあったら入れていいから」
俺がそう言うと、愛可は顎を抱えて悩まし気に観察を続け、最終的に栗まんじゅうを手に取った。
「これにするデス」
「1個でいいのか?」
「とりあえず、お試しデス。気に入ったら、また買いに来ればいいデス」
なんか少し、珍しくテンションが低い気がした。何か、お菓子を透かして遠くを見ているかのような。達観しているような雰囲気。
何か、栗まんじゅうに思い入れでもあるのだろうか。
……いや栗まんじゅうだぞ何の思い入れがあるんだよ。
結局疑問は解決されないまま、俺は溜め込んでいた千円札を数枚取り出して会計を済まし100均を後にした。