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緊急女子会

 どうもシファニーです! 今週どうやら前期高校受験らしいですね。私自身勉強に励んだ人間ではありませんが、その場で過ごす、そのことだけでも十分な意味がありますし、多くの経験を積むことが出来ます。もし高校に行こうとしている方いましたら、覚えておいてください。

 苦しさも悲しさも、いずれ自分を助けてくれる武器になります。それに、目を逸らしたっていいんです。私は高校に通うだけ通って、小説ばっかり書いていた人間です。そんな人間でも、趣味を武器に変えて大学合格までこぎつけています。何なら大学に行く必要だってありません。

 どこかに行って何かをする。それだけで、本を読んで感情を揺さぶられるのと同じだけの価値があります。


 何が言いたいかと言えば、本をたくさん読みましょう! 特に私の作品!

 結局愛可とまともに話もできず、泰河が部屋でひとりうるさく騒いでいる頃。

 泰河のクラス街のとあるファミレスで、緊急女子会が開かれていた。


「愛可どうしたの!?」


 議題は、そう。

 なぜ、愛可は急に泰河に対して冷たい態度をとるようになったのか、である。


 私こと音村奈央は、みんながドリンクを手に取り、ポテトとサラダを注文したことを確認してから愛可を問いただしていた。


 今日の今朝からだろうか。

 愛可は不自然に冷たい、と言うか落ち込んだ様子を見せていた。泰河ある程度の事情を聞いたはいいが、正直愛可がここまで落ち込む理由が分からなかった。

 感覚としては、大好きな彼氏の前に元カノが現れてNTRされた、って感じなのだろうか。それだったら確かに落ち込むが、そもそも愛可と泰河は付き合っていないはずだし、泰河だってその初恋の人にそこまで興味がある様子でもなかった。

 もしかしたら何かよからぬすれ違いや勘違いがあったんじゃないか、と言うのが、私がこの緊急女子会を開いた理由だった。


 友人として、クラスメイトとして、これからも恋バナも供給源であってもらうために、私に出来ることなら何でもしたいのだ。


 そんな、いろいろな思いのこめた問いに、愛可はドリンクに付けていた口を離す。

 ちなみにメンバーは私、美鈴、ひーちゃん。私と美鈴が隣同士で、私の正面が愛可、美鈴の正面がひーちゃんだ。


 そして愛可が窓側なので、逃げ道は無い。そんな追い詰められた状況、かつ3方向から見つめられた愛可が放ったのは、どこか間の抜けた声だった。


「Huh? ワタシ、どうかしたんデス?」

「いやほら! 泰河に対して素っ気なかったでしょ? 何かあったのかなって」

「そっけない……oh、生卵を乗せた料理がないんデス?」

「いや、ゆっけないじゃなくて」

「では、電気通すやつデス?」

「ソケットでもなくて……」

「すぐやられちゃう」

「それは呆気ない。って、そうじゃなくて! 何? そんなに言いたくないことなの?」


 愛可のボケに対する突っ込みがここまで疲れるとは思わなかった。泰河は案外凄いのかもしれない。

 ではなく、これは完全にはぐらかされているのではなかろうか。いつもの冗談のようにも思えるが、やはり愛可はどこか気落ちしているのだ。初めて会った時の、あの底抜けに明るいムードメーカーのような印象を、今の愛可からは感じない。

 ただ淡々と受け答えする、どこにでもいる普通の女の子みたいだ。いや、もしかしたら普通より少し暗めかもしれない。どちらかと言えば日陰者、そんな雰囲気を纏っていた。


 美鈴やひーちゃんは何も言わない。これは、あらかじめ決めておいたことだ。いっぺんに色々聞かれても困るだろうから、私だけが質問をする、という約束をした。

 だから、私が問いかけた後、愛可がドリンクをストローでぐるぐるかき混ぜたり、注文した商品がやってきて、それを受けっとったりしている間も、私たちの間には静寂が漂っていた。


 コップの中で、氷が音を立てる。それを合図にしたかのように、愛可が口を開いた。

 ずっと口元ばっかり気にしていたからだろうか。愛可があまりに静かにうつむいていたに気付いたのは、震えた声に思わず顔を上げた後だった。


「ワタシは、泰河とは合わないかもしれない、デス」


 上擦っていたりはしない。涙が流れていたりもしない。

 だけど悲しそうでで、どこか悔しそうな声。普段はあどけなくて可愛いと思える片言の日本語が、心の中で渦巻く思いを上手く言葉に出来ないようで、私の心まで締め付けられていった。


「初めて会った時、想像していた日本人だと、思ったデス。アニメの主人公のような、そんな気がした、デス」

「アニメの主人公?」

「Yes」

「それって、どういう?」


 もっと聞きたい、もっと知りたいと思った。何だか、私が思っていたよりもずっと前から、愛可は悩み続けていたのかなと思ったから。そのことに気付けなかったんじゃないかと思ったから。


「ワタシの無茶振りに、嫌な顔しながらも付き合ってくれたデス。どれだけしつこくしても笑って受け入れてくれたデス。ワタシがめげずに頑張れば、泰河はそれに答えてくれたデス。けど……ワタシと一緒にいる時の泰河は、心から笑ってはいないような気がする、デス」


 そう、だろうか。泰河は愛可といる時、何時も楽しそうだったように思う。むしろ、愛可が来てからだ。泰河が、泰河と言う人間を見せ始めたのは。

 去年を通して、ずっと教室の隅にいる人としか思っていなかった。喋ることはほとんどなかったし、何が得意で何が苦手か、好き嫌いも夢や目標、趣味だって何ひとつわからない、そんな人。

 今まで自分が出会ってこなかったタイプだからか、無意識のうちに避けてしまっていたような気さえする。


 でも、愛可が来てから本音を見せてくれるようになった。

 教室中に響く声を上げるのも、みんなを盛り上げる噂の的になるのも、誰かとお弁当を食べたり、学校で笑い合って話したりなんて姿、初めて見たから。


 そんな愛可が引きだしたものでさえ、泰河の心からの感情ではない、のだろうか。

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