更なる努力へ
どうもシファニーです! 絶賛腹痛で体調不良ですが書くだけ書きました。
飛竜が口にした言葉は、どれもやればできる、そんなことを意味する言葉たち。
可愛らしい笑顔と共に送られた言葉たちに、暗く狭まっていた俺の視界に、光が差し込んだような気がした。
少しずつ温まっている心に手を当てながら、思わず呟いていた。
「……うん、ありがとう。頑張ってみるよ」
「お、応援、してる、から」
照れるように頬を染めながらも、ガッツポーズを作ってエールを送ってくれる。はにかんだその表情に、こちらまで笑顔を浮かべたくなってくる。
どうしてそんな言葉をかけてくれたのかは分からなかったけど、それでも、応援してもらえていることが、純粋に嬉しかった。頑張れると、思えた。
無性にポカポカと暖かかったし、ふわふわと優しい気持ちになってきた。
「な、何かよく分からないけど、ファイト!」
「だね! ガンバ、泰河っち」
「2人も、ありがとう。困ったことがあったら、また相談してもいいか?」
「ま、聞くだけ聞いてあげてもいいかな」
「私たちでよかったらいつでも言ってくれてもいいよ。別にラインでも……あれ?」
何か言いかけた美鈴が小首を傾げた。
「私、泰河っちのライン持ってない気がする」
「え? クラスラインに入ってない?」
「いたっけ?」
「……たぶん、いないです」
というか確実にいない。この前椹沢先生に言われて初めてクラスラインの存在を知ったくらいだ。
奈央と美鈴がどこか気まずげな空気を出し始めたのが分かる。それはそうだろう。俺がクラスラインにいなかったことそれ自体だけではなく、そのことに今の今まで気付いていなかったのだから。
この空気をどうやって抜け出そうかと思っていると、飛竜が静かにスマホを取り出し、言った。
「こ、交換……し、よ?」
とぎれとぎれで、控えめな声。普段の四字熟語とは違う、柔らかくて優しい、文字にしたら丸文字になるであろう声は、恥ずかしそうな表情で告げられる。スマホで口元を隠しながらの言葉に、俺は思わずドギマギしてしまう。
そんな、まるで俺のラインが欲しいけどなかなか言えなくてやっと言えた、みたいな表情で言われると、勘違いしてしまいそうになるからやめて欲しい。
恐らく、飛竜は元から恥ずかしがり屋な性格なのだ。奈央や美鈴といるときはそれが薄れているだけで、だから俺と1対1で話すときは俯いてしまっていたし、俺に何かを提案するときに緊張して恥ずかしく感じてしまう。
そう、だからそれ以上でもそれ以下でもないのだ。
まさか俺のことを好きだなんて、微塵も可能性は無いのだから。
それからは割と円滑に交換が済み、1年越しにクラスラインに参加を果たした。今更になって使うことはあまりないだろうし発言の機会も無いかもしれないが、ようやくクラスの一員になれたようで嬉しかった。
そして、昼休みが終わる直前になって、ようやく目的の人物が現れた。
「あ、愛可来たよ」
と小声で伝えてくれたのは美鈴。恐らくは俺の死角、教室の御後ろの扉から愛可は入って来たのだろう。とっさに振り返ることも出来るが、なに、焦ることは無い。心配せずとも愛可は隣に来るし、俺はお弁当というイベント発生アイテムを持っている。
若干の緊張に包まれる中、俺たちは雑談するふりを続けた。
「私最近メロン好きなんだぁ」
「ねえ、あれ可愛いよね」
「古今東西、一石二鳥」
「マジで意味わからないよな」
何がいけないのかと言えば、俺たちがあまりに雑談の不利が下手くそだったということ。会話がまともに成り立っていない。飛竜に関してはぱっと頭に浮かんだ言葉を言っているだけではなかろうか。
それでも時間は流れるもので、じきに愛可が椅子を引き、座る音が聞こえた。
隣を見れば、ツインテールに結ばれた金髪と綺麗な青い瞳がしっかりと見えた。ただ、いつも通りの楽しそうな笑みは無かったし、背筋を正して正面を見るばかりでこちらには一切視線を向けてこない。
その、不自然なまでの距離感というか、拒絶というよりは無視に近しい態度に若干落ち込みつつも、俺は切り札を抱えて声をかける。
「愛可、今日も弁当ありがとな。美味しかった」
「……Thanks」
サッ、という音が聞こえた気がする。
愛可は小さく言葉を漏らした後、目にも止まらぬ速さで俺の手元からお弁当を持ち去り、鞄に仕舞った。そしてまた、無言で前を向き続ける。
そのあまりの素早さに俺は唖然とし、他の3人も何も言えずに固まっている。
そしてそのまま無言の時間が流れ、やがて昼休み終了のチャイムが鳴った。
結局、その日はそのまま何もなく終わってしまうのだった。




