ジャパニーズ弁当
どうもシファニーです! 相変わらず誇張しまくった外国美少女ラブコメ更新です!
「お昼デス!」
年度初めの始業式が終わった。
本来退屈な行事なのだが、愛可は目を輝かせて真剣に校長先生の話を聞き、片言の日本語で校歌を歌い、全身全霊で礼をしていた。ハイテンションモンスターだった。
そんな彼女を隣で観察し続けていた俺は、何度も、思ったよりコーチョーの話短かったデスね。七転び八起きってなんデスか? 東大へ行けとは言われないのデスね。などと話を振られ続けたことで一睡も出来なかった。いや寝るための時間じゃないけど。
そんなこんなで今日の行事が終わり昼時、帰り支度を始めようとした時に愛可がこちらを向いた。それから二段重ねの弁当箱を抱げ、こちらに見せつけながらそんなことを言った。
愛可の目は輝き、ツインテールが嬉しそうに揺れている錯覚が見えた。
そんな状況に驚きつつも、俺は答える。
「えっと、そうだな?」
「That's Right! つまりJapaneseお昼ご飯の時間デス!」
「いや、帰るけど」
「Huh?」
俺が素で返すと、愛可はわけが分からないと言った様子で小首を傾げた。
「お昼ご飯、食べないのデスか?」
「いやだって始業式の日は午前中で終わりだし」
「ガーン! デス!」
「効果音を自分で言うな……」
驚きに目を見開き、信じられないと言ったりリアクションを取る愛可を横目に、教室を見渡す。
みんな思い思いに荷物を抱え、教室から出て行くところだった。中にはこちらを見て笑みを浮かべる人もいたが、話しかけてくることはない。もしかしてだけど実質転入生さんもう面倒臭がられてない?
「じゃ、じゃあ! お弁当食べないんデスか⁉ 目玉焼きとか、おにぎりとか!」
「まあ、今日は持ってきてないから」
「ウソだ! デス!」
「嘘じゃないあと急に大声出すな」
どっかで聞いたことあるようなセリフに耳を塞いでいると、愛可はお弁当を持っていた手を力なく下し、悲しそうに俯いた。
「うぅ、楽しみにしてたのに、デス……」
「愛可……」
それはそうか。初めての日本での学校、やりたいことが色々あったのかもしれない。わざわざ外国での生活を辞めて来日するくらいなのだし、日本の生活に憧れていたはずだ。海外に弁当を食べる習慣がないわけではないが、日本のお弁当は憧れの対象と聞いたこともある。
可哀そうだが、俺にはどうすることも出来ないな……。
そう思っていた時、愛可が勢いよく顔を上げ、人差し指を立てた。
「ピコーン! いいこと思いついたデス! トモクラ! ワタシのお弁当わけるデス! Let’s eat togetherデス!」
だから効果音を自分でつけるな、と突っ込みを入れる隙は無かった。
勢い任せにそう言われ、弁当箱を差し出される。
「え、いや、悪いし……」
と言いながら助けを求めて教室を見る。
誰もいなかった。しかもご丁寧に、俺と愛可のいる場所以外の電気が消えてる。気が利くクラスメイトで嬉しいよこん畜生!
「遠慮はいらないデスよ! この後Japanese買い食いもするデス!」
「とりあえずジャパニーズって付ければいいと思ってない?」
「思ってるデス!」
思っているらしい。てか違和感だらけで逆に気付かなかったが、とりあえず語尾にです、って付ければいいとも思ってそうだな。
そんな会話を挟みながらも、愛可はほれほれ、と言わんばかりに弁当箱を揺らしている。ここまで勧められると断る方が申し訳なって来て、受け取る。愛可は満足そうに頷いて、期待するような目でこちらを見てきた。開けていい、ということだろうか。
蓋を止めてあったゴムを外し、恐る恐る蓋に手を持つ。
正直この先に何が待っているのか分からない。普通にお弁当だろと思うことも出来るが、びっくり箱の可能性も……いや、流石に無いな。
そう思った瞬間さっきまでの緊張が馬鹿らしくなり、俺は弁当箱を開け放つ。
それと同時に放たれたのは食欲をそそる香りだった。二段ある関係上、上の段はおかずだけにしているのだろう。卵焼きと小松菜のお浸し、漬物と煮物がそれぞれ区分けされて詰っていた。正直、俺のお母さんが作るものより良くできている。
「……いや凄いなこれ」
「本当デスか⁉ 嬉しいデス!」
「え、もしかしてこれ、愛可が作ったのか?」
「Yes! I love Japanese和食! たくさん練習しまシタ!」
文法に誤りこそあれ、その喜びように嘘はないのだろう。
俺としては思わず零した感想だったのだが、愛可はとても喜んでくれていた。ここまで喜んでくれるならこちらも褒め甲斐があるというもの。
「どれくらい練習したんだ?」
「junior high schoolの頃デス! アメリカではトレイにポイポイ! してたのデスが、日本のお弁当のwonderfulなお弁当を見て、感動したんデス! それからずっと練習してたデス!」
「そんな熱心に……いや、ほんと凄いわ」
素直な称賛を並べていると、愛可は興奮した様子で笑顔を浮かべた。それからこちらに手を伸ばし、二段目を持ち上げて俺の机に置いた。
「こっちも見てくださいデス!」
「ん? ああ、分かった」
二段目がおかずだったので下はご飯になるはずだが、二段目がかなりのクオリティーだったため、こちらにも何か工夫があるのかもしれない。そう思いながら、一段目のふたを開けると……。
みんながよく知る黄色の国民的電気ネズミがいた。
「いやキャラ弁!」
「That's Right! Japanese soul弁当デス!」
そんなことはない、という突っ込みは、キャラ弁の完成度によって掻き消された。
黄色い部分は卵でできているらしい。白い部分が一切なく、そのうえ極限まで薄く焼かれており愛可の技術力が伺える。きっと何度も練習したことだろう。体に所々ある黒色は海苔、ほっぺなどの赤い部分はハムだろうか。見た目が完璧なだけではなく味のバランスにも気を遣っているのが分かるのがまた凄い。
ただよく見てみると、ネズミ型に包まれたそれ。周りをレタスとミニトマトで装飾して草原を駆けている雰囲気さえ感じさせていて秀逸だったのだが、そこじゃない。卵の下はご飯だろうというのが予想されていた。だが、ふいに卵の隙間から見えた下のご飯は赤く色づいている。いわゆるケチャップライス、つまりはオムライスだった。
「いや一応洋食!」
日本発祥だが洋食の区分だったはずだ。キャラ弁って文化は日本かもしれないが中身が洋食だった。
「これが和洋折衷デスね!」
「なんか違くね?」
そんな俺の突っ込みは見事にスルーされたのだった。