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資格じゃなくて

 どうもシファニーです! 今日はだいぶ遅れちゃいましたが更新!

「ちょっと、愛可さんだっけ。すごい勢いで出てったけど」


 愛可が走り去ってから、実際にどれくらい経ったか分からない。それくらい、俺は唖然とし、訳が分からない混乱状態の中にいた。


 そこから解放してくれたのは、開いたままだった扉から顔を覗かせ、睨みつけて来た猫弧だった。


「いや、俺は……」

「兄貴デリカシーないから変な事言ったんでしょ。どうせそうだよそうに違いない」


 俺の意見も聞け、って普段なら言うところだが、今回は否定のしようがなかった。

 

「で? あの子、結局何だったの? この前一緒に歩いてたって子?」

「あ、ああ……」

「ふーん。兄貴、あの子がどうやってここに来たか、聞いた?」

「聞いてないけど、歩いて来たんじゃないのか?」

「ばーか、そういうことじゃないっつーの」


 猫弧は覗き込むような姿勢だったのを、しっかりと部屋の中に踏み入り、腕を組んでふんぞり返った。


「あの子、近所の家を回ってたんだよ」

「……は?」

「友倉さんちはどこですか、って」

「……」

「どうしてもお見舞いに行きたくて、大体の場所しか分からなかったからしらみつぶしにって。隣の佐藤さんが連れて来た。そんな子を、兄貴は一体なにを言って追い返したわけ? 一生縁切られてもおかしくないからね?」


 家々を巡ってた、ってことだよな。

 そんなこと、何のためらいもなく? それも俺なんかを見舞いに来るために? その挙句、俺はあんな最低なことを言って、追い払って……。

 もちろんそんなつもりは無かった。俺が愛可にとって不相応だって分かって欲しかっただけだ。それでも、愛可の優しさを、労力を、俺は無駄にしたどころか貶したんだ。


 後悔が、焦りが体を震わせる。さっきまでよりもずっと熱い熱を帯びて、さっきよりもガンガンと頭が響く。


「まあ、復帰した時にでも謝って……って!? 何してるの!? 今は無理したら駄目だから!」


 猫弧のそんな叫びを聞いてようやく、俺はベッドから転げ落ちていることに気付いた。

 今すぐ謝りに行かなきゃという衝動に駆り立てられ、具合が悪いのも忘れて追いかけようとした。直後にやってきたのは立ち眩みと、どうしようもない倦怠感。ベッドの上にいたから気付かなかったけど、俺はは今、自分で想像していたよりもよっぽど重症だったらしい。


 倒れて起き上がれないのを、猫弧に抱き起されてベッドに戻る。


「何やってんだか……後悔するなら最初っから言わなきゃいいのに」

「……後悔するって分かってれば、そもそも言葉を交わしたりしなかった」

「え?」


 ベッドの上で横になり、開くのも疲れた両目を腕で覆った。


「あいつは……愛可は、俺が一緒にいるべき様な人間じゃない。陽キャと陰キャ、リア充と非リア。別の枠組みにいて然るべき対局の存在だ。それが、どういう偶然かきっかけが生まれ、気に入られてしまった。どうせそのうち離れて行くのかもしれない。だけど、そんなそのうちを待つより、さっさと離れるべきだと思ったんだ。……誰かを笑わせる、楽しくさせる才能のある人間が、俺みたいな自己満足でしか生きられない人間に、時間を浪費するべきじゃないんだよ」


 そう、そうなのだ。

 愛可が俺と一緒にいるのは時間の無駄。だから俺は遠ざけようとした。その結果嫌われるなら、それでいいじゃないか。そうやって愛可がより良い人生を歩むなら、それで。


「……兄貴、病んでる?」

「絶賛病人だ」

「そういうことじゃないんだけど……気落ちしてるときに何考えても無駄だよ。ネガティブ思考になっちゃうから」


 ……言いたいことは分かる。でも、どれだけ俺が具合が悪くてネガティブ思考に陥っていたんだとしても、さっき愛可に書けてしまった言葉は取り消せない。もう後戻りは出来ないんだ。嘆きたくだってなるだろう。


「今俺は、一生に1度、今後会うことが出来ないかもしれない、俺に優しくしてくれる人を失ったんだぞ……」

「んな大袈裟な。謝って、許してもらえばいいでしょ?」

「出会って数日だぞ。それで今日のことがあって、印象最悪だ。持ち直すほど仲が良かったわけでもない」

「……はあ、まあ、好きに嘆いてて。どうせ明日くらいまでは具合悪くで動けないだろうから、独り言を聞かれる心配はないよ」


 猫弧はそれだけ言うと、溜息を吐いてから部屋を出て行こうとする。そして後ろ手に扉を閉めようとした時、玄関の開く音が聞こえた。


「あれ、帰って来たのかな。お帰りー、兄貴まだ駄目そ――」

「お邪魔するデス!」


 声を張った猫弧に対し、買ってきたのは特徴的なイントネーション。


「愛可?」


 どういうことだ? 幻聴か? 具合が悪すぎて、幻覚でも見ようとしてるのか? それとももう夢の中、とか……?

 

 自分の頬を抓ってみれば、じんわりと痛みが広がっていく。たぶん、夢じゃない。


 階段を駆け上がる音が聞こえて、猫弧は慌てて部屋の外に出た。


「え、あの、ちょっと、急にどうしたんですか? 兄貴、また倒れちゃって」

「こ、これ! 渡したいデス!」

「え? それは……」


 部屋に入る前に呼び止めたらしい。しばらく外で間が開いてから、愛可が再び顔を見せた。

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