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帰国(笑)子女

 どうもシファニーです! 片言日本語ガールって、いいですよね……。ってだけの作品です。


 私立オリバンダー高校は、どこぞの魔法使い映画好きの校長が建てた高校だ。ちなみに魔法を使える人はいないし、杖を作る学科などもない。

 そんなこの高校は留学制度が多くあり、海外からの留学生受け入れも盛んな高校だ。俺が入学したのも留学目当て……なんてことはなく。近くて自分の学力に見合った学校を探したらここだった、と言うだけの話である。体感、そんな生徒が過半数。


 ただやはり、そんな学校なだけあって外国人は多くいて、留学する人も少なくない。そして留学する人がいるのなら、当然留学から帰ってくる人もいる。

 だから、これは別にそこまで特別なことではなかったのだが、クラスは浮き間っていた。


「えっと、去年留学していて、帰ってきた生徒がいる。1年間丸々留学していたから会ったことはないと思うが、よろしくしてやってくれ。入っていいぞ」


 担任の先生は恒例行事のようにさらりと言うが、クラスメイト達がざわついているのはよく分かった。

 だって実質転入生だ。誰もあったことがなく、留学から帰って来たばかりの新しい仲間。留学する、帰ってくるはそれなりにあっても、転入なんて前例はほとんどない分、みんな新鮮味を感じているのだろう。

 かく言う俺も、隣の席が空いていたことで若干の興奮を抱いている。


 この高校は学科ごとにクラスが固定で、ここ進学学科と呼ばれる学科は1クラスしかないため3年間同じ仲間と生活することになる。そこに加わる新メンバーが隣の席なのだ、多少なりとも意識する。というか、可愛い子だったらいいなとかいう淡い期待も抱いてる。

 と言ってもその興奮を共有する友人もいないのだが……。か、悲しくなんてないけどな! そもそも俺は1人静かに過ごしたいタイプだし! みんなでワイワイとか性に合わないし!


 俺が脳内で言い訳していると、教室の扉が少し動いた。ざわめきが静まり、みんなの視線がそこに集まった時、教室の扉が静かに――ではなく盛大に開かれた。

 そうして現れたのは満面の笑みを浮かべた女子生徒。金髪ツインテールを下げ、青色の瞳と言ったなかなか見ない特徴を持っている。目元は大きく、弧を描いた口元には白い歯が覗いている。真っ白で傷ひとつない肌と育ちのいい肉付き。若さと大人っぽさの中間をいい感じに切り取った彼女は、絶世の美少女と呼ぶにふさわしい外見のように思えた。


「Hello! みなサン! 産まれはイギリス、育ちはアメリカのHappinesse girl、愛可アダムと申すデス! Nice to meet you! デス!」


 頭の両端に作られたツインテールが大きく揺れ、それと同じくらい大きく手を振りながら登場した彼女の姿にクラスメイト達は騒然……ではなく、唖然としていた。

 

 突然現れたそのハイテンションモンスターは、明らかに外国人の容姿だった。留学生じゃないよね? 留学から帰って来たいわゆる帰国子女じゃなかったの? と誰もが動揺する。俺も動揺している。

 そもそも留学生が来るのはこの進学学科ではなく海外交流学科の方だ。留学する生徒がいてもしてくる生徒はいない。なら帰って来た人で間違いないはずなのだが、来日したての外国人にしか見えない。


「ムム? ワタシ、また何かやってしまったデス?」


 愛可と名乗った彼女は顎に手を置いて考えるような姿勢をとり、ニヤリとした笑みを浮かべてそう呟いた。また、って前科でもあるのか、と言う突っ込みは喉元で堪えた。


「いやなろう系か⁉」


 ……と言う突っ込みは思わず放たれていた。

 衝動に任せて立ち上がり、思わず叫んだその言葉に、今度はクラスメイト達がこちらを見て唖然としていた。俺の目立たなくて落ち着いた人と言う印象が完全にぶっ壊れた瞬間であった。


「おお! Nice Japanese突っ込みデス! 鋭いデス!」

「あ、その、いや……」

「なんだ友倉、気が合いそうだな。ちょうどいい、アダムは友倉の隣に座れ」

「え、あ、ちょ先生――」

「了解したデス! よろしくデス、トモクラ!」

「あ、はい……」


 片手を上げてそう言ってくる愛可に対し、俺は力なく答えて腰を下ろした。

 と言うか先生、もとより俺の隣にする気満々だったでしょうに。そう思って視線を向ければ、先生は怪しげな笑みを浮かべていた。どうやら俺は手のひらの上で転がされていたらしい。


 しかしなるほど理解した。

 俺が窓際からひとつ距離を置いた最後尾、そして愛可が窓際の最後尾という配置には、このハイテンションモンスターを封印しておくという目論見があったのだろう。ってことは体良く厄介事を押し付けられたわけだふざけんな。


「おっほん!」


 教師に対する不満を積み上げていると、愛可がわざとらしく咳払いした。


「では改めまシテ、愛可アダムです! 愛が世界を救う可能性は高い、の愛と可です!」

「出来ればもうちょっと自信持って欲しかったな……」


 愛で救えないならこの世界は何で救えるんだろうか。やっぱり科学とか?


「ワタシは去年からこの学校に通う予定だったのデスが、親の都合でもう1年アメリカで過ごすことになりまシタ。そこで1年アメリカに留学して、帰って来たということです! Bay the way, 日本は初めてなので、帰国カッコ笑い子女デース!」

「自分で言いやがった……」

「慣れないことばかりの不束者デスが、何卒よろしくお願いするデス!」


 青い瞳を輝かせ、この子の未来は明るく輝いているんだろうなと思えるその姿に、クラスメイト達は自然と拍手を送っていた。最初は驚いてしまったが、この底抜けの明るさに当てられたということだろうか。俺もほどほどに手を叩く。


 そしてそれから程なくして、予告通り愛可が俺の隣へと向かってくる。

 洋風の顔立ちは珍しうえ、愛可自身の顔が整っていることがあるのだろう。机の合間を縫いながら、笑顔を振りまくその姿は人気スターのように輝いていた。愛可に掛かれば机と机の合間がランウェイになるらしい。

 そんな美少女が俺の目の前で立ち止まる。何事かと思って見上げると、満面の笑みを浮かべた愛可がこちらに手を差し出してきていた。


「よろしくデス、トモクラ!」

「……ああ、よろしく」


 俺が手を差し出し返すと、愛可は勢いよく上下に何度か振った後、満足したように手を離し、隣に座った。

 遠足のお弁当を取り出す小学生のようにウキウキした様子で鞄を開き、準備を進める愛可を横目に見ながら考える。


 このクラス、去年は1回しか席替えなかったよな、と。

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