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あの日の出会い

 どうもシファニーです! このお話を大晦日に出したくはなかったけど順番的にしょうがない! 覚悟して読んでください!

 1年と少し前のこと。

 高校合格が決まり、受験期以前と同じくサッカーの練習に励んでいたある日のこと。

 3月も下旬、少しずつ温かくなりつつも冷え込む朝方に、俺は公園にサッカーボールを持って訪れていた。

 そこで、彼女を見つけた。


 その人はベンチの上にいた。緩めのニットに口半分を埋め、ジーンズを体育すわりで抱え込む、高校生くらいの女性。当時中学生の俺からしてみれば大人びていて、物珍しさもあって一瞬見惚れた。この公園には何度も来ていたが、1度も見たことがなかったので不思議に思いつつ、ずっと見続けるのもはばかれてすぐにサッカーを始めた。

 

 いつも通り軽いウォーミングアップを済ませ、満足いく記録が出るまでリフティング。その日は500回くらい連続で出来たのでそれで満足し、持参したフラットマーカーを地面に並べてドリブルの練習。

 本当だったらシュート練習もパス練習もしたかったが、相手もゴールも無いんじゃどうしようもない。そんな、ただ自分を見つめるだけの練習を続けること数時間。ふと公園の時計を見れば12時近く。我に返ってみれば空腹感もあり、帰ろうかと後片付けを始めた時、声をかけられた。


「ねえ、君って中学生?」


 声が聞こえて顔を上げる。

 すると、そこにいたのは数時間前に見かけた女性だった。

 白色のニットとジーンズのパンツルックス。高い位置で結われたポニーテールは背中半ば程まで伸びていて、露になった唇は桃色に色づいている。

 見ていたのは一瞬のはずなのに記憶が鮮明なのは、当時人の顔なんかにはまったく興味がなかった俺にとってその顔があまりに衝撃的だったから。


 恥じらいを捨てて白状するのなら、一目惚れしていたのである。


 いや、正確に言えば二目惚れなのだろうか。顔をはっきりと見たのは1度目だったわけだが……とにもかくにも、今でも鮮明に思い出せるくらい印象的だったその出会いは、その一言から始まったわけだ。


「え、あ、はい……」

「君凄いね。私あんまりサッカー分らんないけど、足にボールがくっ付いてるみたいだった!」

「そ、う、ですか? ありがとうございます」


 白色の葉が覗く笑顔、柔和に笑みが描かれた目端、言葉の度に漏れる白い息。

 軽快な動きでポニーテールを揺らし、褒めてくれるその表情にドギマギして答えに戸惑ってしまう。頬が熱い。呼吸が乱れる。運動直後だという理由以外に、いわゆるトキメキを覚えているのだと、女性経験皆無の俺でも分かった。ただの運動でこんな風に乱れはしない。


「学年は? 住んでるのはこの辺?」

「えっと、中3で、住んでるのはこの辺です」

「進学先は? もう決まった?」

「一応、私立の、オリバンダー高校、です」

「ほんと!? 私と一緒じゃん! 来年からは先輩後輩だね!」

「あ、はい……」


 つまり、彼女はオリバンダー高校の生徒なのだろう。


「じゃあもしかして進学後はサッカー部? ウチそんな強くないけど、いいの?」

「まあ、俺がサッカー出来れば、それでいいので」

「勝てなくてもいいの?」

「まあ、その……はい」


 思わずサッカーボールを抱える手に力を籠める。

 声が上擦りそうで仕方ない。震えているかもしれない。受け答えがたどたどしいのが恥ずかしくて、悔しい。自分は今もしかすると最初で最後の青春を迎えようとしているかもしれないのに、何も出来ないでいることがもどかしくて仕方なかった。

 もっと格好良く振る舞えたらと思った瞬間、何もかもを崩されるような一言が耳に届いた。


「じゃあ、全部自己満足ってこと? それ、楽しいの?」

「……え?」


 自己満足。その言葉くらい知っているし、この性格だ、言われたことは少なくない。

 でもただ、結局何を言われたか、じゃなくて、誰に言われたか、が重要だったんだろう。俺の中で大切にしていた物が音を立てて崩れ落ちたような気がして、抱えていたサッカーボールの空気が一気に抜けたかのように、心がしわくちゃになった。


「君くらい上手かったらもっと誰かに認められようとか褒めてもらおうって思って頑張れば、もっと楽しいんじゃない? サッカー強いとこ行って試合に勝てばプロ「選手になれるかもしれないし、そうなれれば幸せだと思わない?」

「え、いや、それは――」


 その日以来だろう。いや、間違いない。その日からだ。

 俺が自分自身に自信を無くし、サッカーを手放し、ひとりふさぎ込むようになったのは。

 

 その言葉を聞いたからだ。


「そんな中途半端な自己満足、私は嫌だなぁ。……って、あ、もうこんな時間。これから約束があるんだよね。それじゃあ君、またね!」


 肌を撫でた風がやけに冷たくて、凍ったかのようにパサついた頬を触った。冷たいものが手について、なんだろうと手を見てみる。それが水だと分かった時、自分の涙だと分かった時、俺は、最初で最後の失恋をした。


 それを最初で最後と言うのは、もう恋なんてしないと決めたからだ。

 誰にも知られず、わずか数秒で終わった俺の初恋は、そうして幕を閉じ、永遠に忘れられない俺の黒歴史へとなり果てた。

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