会場決め
どうもシファニーです! 皆さんは学生時代年末年始にクラスで集まったりとかしました? 私はまだ家族以外と過ごしたことがありませんね。それだけです。
歓迎会に関する話し合いは円滑に進んだ。
来週の土曜日、午前10時に愛可の家と言うことらしい。
いやいや、どうして歓迎される人の家に行くんだよとなるかもしれないが、これにはちゃんとした理由がある。
「いやー、愛可の家楽しみだねー」
「ね! めっちゃ大きいんでしょ!?」
「豪華絢爛、楽しみ」
「そこまでではないと思います……」
その日の放課後、俺は愛可に連れられて会場、つまりは愛可の家の下見に行くことになった。というのも、参加を表明した人の中で今日部活がない組のひとりだったからだ。
そして他の部活がない組、奈央、美鈴、飛竜も一緒だ。
「もうすぐデス!」
「楽しみぃ!」
愛可の声に美鈴が返し、他の2人も持ち上がる中、ことの発端を思い出す。
それは日程を決め終えた後のこと。時間などを決めようにも場所によっては使えない時間もあるだろうということで、先に会場を決めることになった。
「えっと、この人数で長時間遊んでても問題なくて、出来ればご飯を食べられそうな場所……うーん、ちょっと思いつきませんね。誰か意見ありますか?」
巫女が悩ましそうにうねり声を上げてから訪ねると、サッカー部男子――確か相生博人みたいな名前だった気がする――が手を上げた。
「普通にファミレスじゃ駄目なのか?」
「流石に人数が多すぎるよ。10人も一緒に行ったら迷惑でしょ?」
「んあー、それもそうか」
博人の質問に答えたのは奈央。諫めるように言われれば、博人は挙げていた手を下ろして静かになった。
それからも意見が出ては欠点が指摘され、特段悪い空気になったりはしなかったが、話し合いは難航していた。
そんな中、意外にも大人しくしていた愛可が小さく肩を叩いて来た。
「ん? どうした?」
「これは、Welcome Partyの場所を考えてるデス?」
「ああ、そうだな」
「だったら、家はどうデス? 広くて、迷惑も掛からないデス」
「あー……」
愛可の家は確かに大きかった。3階建ての上1階ごとも広かったと思う。そのリビングを使えれば10人くらいは入れるかもしれない。しれないのだが……。
「いいのか? ご両親とかの了承も無しに」
「My parentsはむしろ喜んでくれるはずデス。ただ、料理とか飲み物は買ってもらうことになるデス」
「まあ、外で食べるよりは安く済むんじゃないか? みんなで食材とかジュースとかお菓子を持ち寄ればいいわけだろ? キッチンとかは使えるのか?」
「Maybe」
「なるほどなぁ。良さそうではあるけど、愛可はいいのか? 愛可の歓迎会なのに自分の家で」
歓迎されるのだから自分の家で開催するのはなんだかおかしくないだろうかと思って聞いてみると、愛可は何とも無さそうに笑顔を浮かべる。
「Yes。ワタシの歓迎会を開いてくれるだけで十分嬉しいデス。むしろ、それくらいはお礼がしたいデス」
優しい笑みだった。普段の明るく、底抜けに楽し気な笑みとはちょっと違う。感謝とかの温かい感情を丸々表現したような、そんな笑み。
初めて見るそんな笑顔を見て、思わず頬が熱くなるのを感じた。
いやいや、俺は何に照れてるんだ。愛可の顔が可愛いことなんて、最初から分かっているだろうに。
自分に言い聞かせてみても熱は引かず、それを隠すために顔を背けながら言う。
「……そっか。愛可の気持ちは分かった。とりあえす七夕さんに確認してみようぜ」
「Yse! はいデス!」
「あ、アダムさん、どこかいい場所知ってるの?」
「とっておきの場所があるデス!」
そんな感じで話し合いが進み、とりあえず確認をしてみようということになって今に至る。
ここで1番何が気まずいって愛可の家に女友達が遊びに行くならまだしも出会って2日目の俺がなおかつこの男女比率の中お邪魔してしまうことだ。愛可の家族に対しても奈央たちに対しても上手く接する自信がない。
まあ、そもそもまともに話が出来る相手を持ち合わせてはいないのだが。精々が妹相手くらい。最近じゃあ両親に対してもなんだか苦手意識が芽生え始めているので、いよいよ重症だよな。
結局4人の会話に1度も入ることなく愛可の家にたどり着いてしまった。
家を見上げる。
幅、奥行き、高さ。周りの家々と比較して、そのすべてを1.5倍したようなサイズ感の愛可の家。初見の時も思ったがやはり大きく。豪邸と言っても差し支えないんじゃないかというその家を前に、思わず足踏みしてしまう。
「わ、わあお、ほんとに大きい」
「すご! 芸能人の家みたい!」
「巨大建築」
「さあみなさんWelcomeデス! 案内するデス!」
奈央たちが思い思いに感想を零す中、俺は俺でその大きさに圧倒されていた。
いやなんか、初見の時よりも大きく見えるんだけど。リフォームした?
なんて言いつつ、分かってはいるのだ。別に家が大きくなったわけではない。
俺が勝手にプレッシャーを感じて、大きく見せている。入りづらくしているんだということは、分かっている。
愛可の無茶振りを断ろうと思いながらも断れずにいた。ただなぜだろう。
今だけは、どうしても足がすくんで動かなかった。