小さな女子会
どうもシファニーです! この挨拶毎回考えるのって結構しんどいんです! でもやめません!
男女比率1:4。俺の社会的地位などあるわけもなく。
「わあすっご! これ愛可が作ったの!?」
「めっちゃ綺麗じゃーん! ねね、私にも作って!」
「才色兼備、愛可、有能」
「ありがとうデス! ワタシでよければ作ってくるデス!」
いつの間にか互いに打ち解け合い、お弁当を見せ合いっこしながら楽しそうに話している女子たち。それを、辛うじて同じ領域にいながらも隅っこで眺める俺。
あとでお弁当美味しかったよってちゃんと言わなきゃな。今は言える気がしない。
「ナオ、ミレイ、ヒーちゃん、みんな優しいデス!」
「そんなことないって、これくらい普通だよ!」
「そそ! あ! 今度みんなで歓迎会しようよ!」
「Wow! 本当デス!?」
「季布一諾、絶対」
「きふのいちだく……トモクラ、どういう意味デス?」
なんか楽しそうだなぁ。歓迎会かぁ。俺呼ばれるかな? 呼ばれるとしてどうしよう。人数が多すぎると俺いてもいなくても変わらないからなぁ……。
「どうすっかなぁ……って、あ、なに俺?」
「Yes。どしたデス? 大丈夫デス?」
「ああうん、大丈夫。それで季布一諾? 確か約束は絶対守るみたいなって村龍さんよくこんなの知ってますね!?」
「いや泰河もなんで知ってるの!?」
「私たちも分からんかったって!」
「拍手喝采、泰河、凄い」
「え、あ、いやその……」
しまったいつもの癖で! いや、突っ込む癖なんてないんだけどね!? 昨日愛可に対して全力で突っ込みを入れてから俺の中で何かが目覚めたような気がしていたが、まさか反射的な突っ込み技術だったとは。
いらねぇ。
てか、何気に呼び捨てされてる女子って怖い。陽キャって怖い。
3人分のキラキラと視線が突き刺さって思わず目を逸らしそうになり、愛可だけ不思議そうに小首を傾げていることに気付いた。
「愛可? どうかしたのか?」
「タイガ、はトモクラのLast nameデス?」
「ラスト? いやいやファストネーム。名前、苗字じゃない」
「?????」
「何でそこでそんなに疑問そうなの?」
小首を傾げ、頭の周りにはてなマークを浮かべていた。
「トモクラが、Last name? Isn’t first name?」
「そうだけど……」
「日本語名前はややこしいデス……」
「まあそれは分かる」
日本の名字と名前ってどっちがどっちか分からないことは結構ある。飛竜とかはそもそも名前かどうか怪しかったり、キラキラネームなんかも難しかったりするよな。
ただ、そこまで驚くほどか? ああいや、まあずっと友倉が名前だと思ってたならこんがらがってもおかしくはないか。
「……タイガ?」
「そうそう」
「Tiger?」
「それは虎」
「Thailand?」
「それはタイ王国ってどういうボケだよ」
たいの部分しか合ってないだろうが。
と前のめりに突っ込みしていると、ふいに3人分の、いや、それ以上の視線に意識が向いてしまった。
気付かずいられたらどれだけ幸せだっただろうか。
意識してしまえば最後、俺は途轍もない後悔に襲われる。
何自然にコントしてんだよ、と。これだとまるでとても仲がいいみたいじゃないか。
そして、クラス中の人たちの気持ちを代弁するように奈央たちが畳み掛けてくる。
「ふたりってほんとに仲いいんだね。もしかして前から知り合い?」
「馴れ初めは!?」
「興味津々、教えて」
「いやだから、別にそういんじゃなくって。なあ、愛可。……愛可?」
助けを求めて愛可を見ると顎に手を添えて何やら考え込んでいる様子だった。どうにも神妙な顔つきで声をかけかねていると、愛可の方が驚いたように目線を合わせて来た。
「……Hoh? どうかしたんデス?」
「いや特に……愛可こそ何か考え事か?」
「Yes。大切なことを考えていたデス」
大切なこと、と聞いてそれ以上踏み込むことを躊躇ってしまった。
家庭環境も生まれもまったく違う愛可。そんな愛可にとって大切な考え事となれば、俺に出来ることは何もないかもしれない。聞くだけ聞いて何もしないのはやっぱり無責任だよな。そう思って逸らす先の話題を探し始め――
「何悩んでたの?」
「私たちでよければ話して!」
「唇歯輔車、困ったときは、助け合い」
「いつの間にそんな密接な関係に?」
唇歯輔車って依存しあうくらい密接に助けうみたいな意味だったはずだぞ。というかもっとこう、一蓮托生みたいにみんなに分かりやすい言葉遣いは出来なかったのだろうか。
いやいやそれ以前に。
俺の躊躇いを返せ。
頭の中がごちゃごちゃになっていると、愛可は3人の問いを受けてか口を開こうとする。
これで家庭内の問題とか持ち出されたらどうしようかと身構えながらも耳を傾けると、愛可は何ともなしに呟く。
「タイガと呼んだ方がいいデス? トモクラの方がしっくりくるデス」
「「「……」」」
「まあ、ほらあれ。泰河の方が仲良さそうじゃん?」
「Well…… yes。そうするデス」
奈央のフォローがあって何とかなったが、その後のお昼ご飯タイムは少し静かになってしまった。
そんなどうでもいいことを真剣に悩むな。