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盆踊り  作者: ふみりん
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女として選択した道が幸福たったのか、不幸だったのか?

男と女は生き方も考え方も違うが、それでもついていくと決めた人の心の揺れや時代に飲み込まれた人々の苦しさ、切なさ、喜びとは

「今日は俺に和枝を一日預けてくれ」

家族にそう告げた剛は和枝の手を取り歩いていく。

「きっと何かあるのだろう?」

余り深くは考えずに歩き始めた。


剛のことは嫌いではない、いやどちらかといえば好きな方だ。このまま彼と進めば何が起こるのかその時の彼女には想像出来なかった。

若いと言うのはそれだけで行動に弾みがつく、恋愛になればなおらさだ。


彼の近くにいるだけで胸が高鳴る

鼓動が速くなる

息が苦しくなる

青い海を見ながら彼はつぶやく

「俺と一緒にならないか?」

余りに唐突だったので答えに困ってしまったが、心の中では決めていた。

「一緒になりたい」と


幼い頃から知っていたし、中学では少し悪ぶっていたが、優しい眼差しと少し強引な所にも惹かれていた。

「恋愛とは理屈では説明出来ない。好きになったらどうしょうもないのだ。」

その日和枝は彼と一つになった。

好きな人とそうなる事は当たり前だと理解していた。

そして彼は呟いた

「俺、志願兵になろうと思う」


時に思う、

「男は勝手だ。一緒になりたいというのになぜ志願するのか?」

「国の為に戦う事がそんなに素晴らしいことなのか」思っても口には出せない

死なないで帰ってくる保証は何処にもないのに

好きで一緒になったのに剛は国の為に戦う。

いいかと言って結ばれたあの日

お腹の中には新しい命が芽生えていた。


剛との生活は大家族で始まった。

朝は皆より早く起きて薪で米を炊き、味噌汁、卵焼き、自家製の漬物等を準備した。

昼間は家の掃除や畑の仕事、お昼、夕食の買い物と慌ただしく過ぎ、身籠っていたので飯炊きの匂いが辛くなった。

嫁に行くとはこんなものだろうと一応の心構えはしていたつもりだったが、姑から呼ばれるたびに心の中では大きなため息が出るようになっていた。


結婚して暫くすると夫と娘の幸江を連れて朝鮮に渡った。

ここでの暮らしも新婚とはいえなかった

剛は海軍で船に乗っていた為殆んど幸江と2人だった。

「夫は国の為に働いているのだから泣き言を言っては罰が当たる」

そう自分に言い聞かせていた。

ある日娘が熱を出した。麻疹にかかったようだ。

苦しそうに肩で息をする娘を必死で看病した。

夫が居たならと思ったが船の上では仕方がない。

「神様助けて下さい」

と祈りながら寝ずに看病した。

熱が下がった時はホットした

これが親なのだと実感した。


戦争が激しくなって日本に帰ってくるように姑から手紙を貰った。

剛はまだ帰ってこない

娘を連れて日本に帰国した。

少し嫌な予感がした

「夫は無事だろうか?」


悪い予感は的中した

剛の軍艦はアメリカに撃墜され海に沈んでしまった。

「信じられない」

数日前迄一緒に暮らして、見送った夫はもう帰らない。

「会えない」

嗚咽するほど泣いて、娘を抱きしめた。

涙が止まらない

「夫を返して」

何度も叫んだ

「もしかしたら何処かの島に流れ着いているのではないか」

精神が壊れそうだった。


戦争は人を狂わせる

国の為にと命を捧げ、潔く死ぬことが美德とされる

一つしかない命を戦う事の為に使って良いわけがない

アメリカは憎いが日本という国も憎くて仕方ない

和枝は涙が枯れるまで泣き続けた。

遺骨のない墓に向って夫に話かける

「剛さん、これからどうすればいいの?」


夫の実家で娘と剛の両親との暮らしが始まった。剛の死を嘆いているのは和枝だけではない。一人息子だった両親、姉、

暫くすると日本が戦争に負けたと陛下のお言葉があった。

負けたんだ 悔しいという気持ちは殆んどなくて戦争が終わったんだという安堵を覚えた。

これで空襲もない、新たに戦地で亡くなる人もいない、ゆっくり眠れる


「お祖母ちゃん、お話して」

孫の真由美が駆け寄ってくる。

娘の幸江は結婚して3人の子宝に恵まれた

自分が一人っ子だったので子供は2人以上欲しかったようだ。幼い頃父を亡くし、きっと寂しい思いをしたのだろう。

戦争未亡人の中には再婚して新しい生活を始めた人もいた。しかし和枝は長男の嫁で、家を捨てる勇気もなかった。


孫との時間は心を自由にしてくれる。日頃の家事や両親の世話とは違い心から笑える。

孫の笑みは何度見ても飽きないものだ

横になっている孫に桃太郎の話をしながら

胸をトントン叩く、次第に孫が眠りにつく、

この光景を剛にも見せたかった。


夏休みになると、娘や孫が長期で遊びやってくる。海水浴、蝉取り、スイカ割り、夜になると夏祭りの夜店や盆踊りと行事が目白押しだ。孫の絵日記も毎日楽しそうな絵が続く。

しかし帰ってしまうと寂しさが一気にやってくる。自分で育てた娘だが、嫁に行けば自分の家庭が出来る。和枝は舅と姑の世話を愚痴も言わずに一人でこなしていた。

夜床に入ると、ふと涙が出る。優しい剛ともう少し一緒に居たかった。

「これで一生を終えてしまうのか」

と考えると涙が溢れていた。


運動会の季節になると娘から見に来てと誘いが来る。

朝から巻き寿司や煮しめを作り泊まりで出かける。

誰に似たのか孫の浩一は足が早い。リレーの選手にも選ばれる程だ。


この頃の親子リレーは面白い。孫2人と娘と婿と4人でバトンを渡す。娘まではトップなのだがどうしても婿が抜かれてしまう。

しかし婿は言う。

「来年も頑張ろう」

今では色んな家庭があり、親子リレーはなくなったと聞く。昭和の面白い行事が廃れたのは悲しい。

必死に走ってくる孫たちを一生懸命応援する。

来年が楽しみだ。


1年経って、盆踊りの季節になった。

若い頃剛と浴衣を着て出かけたのを思い出す。

娘や孫にも浴衣を着せて連れて行く。

いくつになっても一度覚えた踊りは忘れない。

指の先、顔の角度、表情、足の運び。

心のなかにしまっていた感情が喜びとなって溢れ出す

「踊っていると笑顔になるのよね」

娘の幸江が笑いながら呟いた。

    

「ねぇ、お父さん知らない?」

「パチンコじゃないの?」

真由美が答える。

婿は公務員でありながらギャンブルが好きだ。持っているお金は自由なお金ですぐに使ってしまう。

しかしこのときは大変だった。いつまでも帰ってこない夫に幸江が切れてしまった。子供のお年玉に手を付けてすべて使ってしまったからだ。

お正月の楽しみであるお年玉は一度真由美が預かり、半分を子供達に渡すことにしている。

責められた婿は反省しているようだった。

許せない気持ちもわかるが、話し合える相手がいるのは幸せな事だろうと少し羨ましくもあった。


自分は早くに戦争未亡人となり、女としての幸せは短かったのかもしれない。けれど剛を好きだという思いは今でも忘れられない。軍服を来た写真を眺めながらその気持ちを確かめる。

「何ていい男なんだろう」


昭和の頃のお風呂は今のようにガスや電気ではなくて薪等を燃やして湯を沸かしていた。時間がかかるし熱かったり、温くなったら薪を出したり入れたりと大変だ。薪割りも女の和枝には大変な労働だった。割った薪は紐で結えて納屋に入れておく。姑から薪の並び方を注意された時もハイと返事してきちんと入れ直したものだ。


和枝は舅と姑に口答えした事がない。

幼い頃からの躾で

「上のものには従いなさい」

と教えられてきたからだ。また男の人に対しても従うという気持ちが身についている。教えとは恐ろしいものだ。一度身についてしまったものは簡単には取れない。風呂の順番にしても女は最後と決まっていた。何故汚いのか、考えた事もなかった。


しかし紅白歌合戦を家族で見ている時、孫の真由美に

「何でお祖母ちゃんは白組を応援するの?」

と聞かれた。

女である真由美は当然紅組を応援する。不思議だったのだろう。

「何でだろうね?」

男が勝つのが当たり前と思っていた自分は返事に困ってしまった。

「旦那様には口答えしない。求められれば何だってする。」

四民平等の世の中にはなったが、男尊女卑を払拭するには時間がかかるのだろう。私の心も早く変わると良いのにそんな事を考えながらまた1日が終わっていった。





戦争によって大切な家族を失った人の辛くても生きていれば色んな幸せや喜びに出会える風景を描いてみました

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