愛しのお握りロボット
「アサコさんはサ、ロマンチストだと思うヨ」
ロボットがお握りを作りながら言う。
珍しい人間型ロボットは、つい最近、リサイクルストアで買って来た。
「その心は?」
「三個のお握りを注文シテ、全部チガウ具にしろなんテ、ロマンが無ければ、タダの暴君だモン」
ロマンチストと暴君の二択とは、お前こそ暴君だ。
人間の文明は発達し過ぎたらしい。
物凄く便利で高速な生活は、限界にも速く近づいてしまった。
結果、いろんなものが崩壊したのだ。
残ったのは、前よりだんぜん少なくなった国境と人口と、お金なんて何の役にも立たなくなったリサイクル暮らし。
そして、どんな人でも、自分の住処の中に菜園を作って生活している。
自分で食べるのはもちろん、物々交換には農作物が無ければ始まらない。
この、お握りロボットだって、大根三本とブロッコリー二個で交換してもらったのだ。
故障しているところは、近所に住む修繕屋さんに、ほうれん草とトマトで直してもらった。
わたしの家は屋上にソーラーパネルと温室があるので、電気が使えるし、季節外れの野菜が採れる。
電気が使える家は少ない。
そもそも、使える電化製品が少ないので、たいして困ることもないけれども。
だけど、ロボットには電気が必須だ。
このお握りロボットは非常な優れもので、お腹の中に炊飯器がある。
お米と水と具材をセットして電源を確保すれば、注文通りのお握りが出来上がるのだ。
しかも、ロボットの手握りである。
この手握りの力加減が絶妙で、ずっと見ていても見飽きない。
昔は、握り寿司ロボットなんてものもあったらしいが、生魚は難しい。
肉も魚も、栄養素を混ぜて作るモドキばかりだ。
紅い刺身も白い刺身も、食べればほとんど同じ味。
植物性のものは、なんとか栽培可能なので、梅干しや漬物はまあまあのものが作れる。
お握りの具材は、あんがい大丈夫だ。
じっと見ていると、お握りロボットは最後の仕上げに入った。
梅干し、完成。
高菜漬け、完成。
そして三個目。
モドキを佃煮風にした具材をご飯に載せて、さあ、握りこむぞというところでロボットが停止した。
「あんにゃろ~」
わたしは急いで屋上に上り、ソーラーパネルから伸びる線を真っすぐに直す。
姿は見えないが、たぶん、スズメだ。
この線を引っかけられると、送電がうまくいかなくなってロボットが停まってしまう。
「この辺に罠を仕掛ければ、スズメの佃煮が作れるかも」
うんうんと一人頷きながら、屋内へ戻った。
「アサコさん、完成だヨ」
最後の仕上げを見逃した、三個目のお握りが皿に置かれたところだった。
「ありがとう! 愛してるよ!」
「愛はいらないヨ。メンテナンスよろしクだヨ」
「愛わかった!」
「………」
多分気のせいだけど、大根三本とブロッコリー二個にしては、上等すぎる相棒がため息をついた……ように見えた。