新人パルト③‐火魔法使い Ⅱ
□ ■ □ ■ □ ■
銀貨四枚を払って、銅貨のお釣りを受け取って。
ワーフェルドさんが脱いだ革鎧を着け直すのを待ってから、もう一回、四つ通りの洗濯屋に向かう。
広場のロバ小屋に、ワーフェルドさんは興味を持ったみたい。いつかゆっくり、見に来ようね。
ワーフェルドさんが着てた染みだらけの服を、追加で頼んだら。朝出したものと一緒に、二日後にできあがると言われた。
「でもねえ、そっちの兄さんの服は……もう諦めた方がいいよ。随分、生地が薄くなってくたびれてるし」
「ですよねー」
洗濯屋の奥さんと、こそこそ話した。
それから次は、道具屋だ。
南路から北へ、混み合っている二つ通りに入るのではなく、今走った三つ通りを走る。
「ろば」
広場を抜ける際に、ワーフェルドさんがそう呟いた。
うんうん、そのうちお休みの日を作って、見に来ようね。
北路を東へ曲がり、二つ通りを右折して、また南へ。細かい路地は分からないから、大回りだけど迷わない方を選ぶ。
復興現場より北側にある店で、昨日の買い物を思い出しながら、パルトの必需品を揃えていく。
ただのズタ袋になった元背負い袋を新品に買い換えて、また場所を借りてから詰め直していく。
え、この袋も買取してもらえますか。助かります。
「……おれ、二日で二年分の買い物した気分だぜ」
ちょっとクードが、げんなりしている。
ワーフェルドさんは手鋸に何故か興味津々だったので、私が止めた。
いや、だって買っちゃったら絶対、どこかの細木を伐って棒にするかもしれないでしょ。
銀貨が更に減ったけど、ようやく二人の装備が一式揃って落ち着けた。その気持ちは、私たちにも伝染る。
さあ、次は昨日の装具店だ。ここは近いから、歩いて行こう。
□ □ □
「報償金の残りは、預けておこうと思いまして」
「ほぅか、まあ目標額まで頑張れ……その革兜は使い回せんな。帽子はどうした?」
「洗濯中、繋ぎを買う余裕ねえから、気ぃ付けるわ」
店主のお爺ちゃんは、クードの返しに渋い顔をしつつ、私たちに銀貨三枚ずつを渡して、残りを受け取ってくれる。預り証は、なくさないようにしなきゃね。
ワーフェルドさんのそれは、数字が増えていた。
「一昨日のホブリフ、解体がはじまりよるけん、明日にでも手伝ぅて来い。引換持っとりゃ、現場に入れるけん。
ついでに申し出りゃ、工賃は出るはずじゃし、素材はうちで買い取っちゃる」
わあ、任務依頼が出てないところに入り込んで稼げるとか、いいのかしら。それとも任務扱いになるのかしら。
あ、でも明日は延びてた水車小屋と西地区のあれこれをしなきゃだから、行けても明後日からだわー。
みんなで顔を見合わせていたら、装具屋のお爺ちゃんにニヤリ、と笑われる。
「おとなしゅう解体終了まで、分配を待ちよったら、目当ての素材がもらえんぞ」
「明日は一日任務が決まってます。昨夜のホブリドなら、間に合うかもですが」
お義兄ちゃんの返しに、お爺ちゃんは目を見開いた。
「なんと、あれもお前さんらぁか」
「たまたまです」
「あ、そっか。おれとワーフェルドで墜としたからもらえる量も多いんだっけ……ホブリフの方はいっそ金でもらって、ホブリドの素材だけ引換した方がいいんじゃね?」
「おとした。ぼくたち、にもつぐちゃぐちゃ」
「そりゃまあ、難儀じゃったのぅ──そうじゃなあ、ホブリフの半端素材よりゃあ、そっちのがええかもな。
ホブリド素材なら、正羽じゃのうて綿羽を狙うんじゃぞ。ワーフェルドの鎧の中材を先に貯めちゃれ」
お爺ちゃんは、今日は鳥の素材見本と図説冊子を持ってきてくれた。ほうほう、軸がないふわふわを、綿羽って呼ぶのね。
「こいつは防寒具や布団材に向くけん、正羽より装具屋にゃ回って来んのじゃ」
了解です。
……でもこれ、軽そうだし、いっぱいもらえたら、宿用の布団が作れないかなあ。
そこまで量はないかなあ。
□ □ □
それから、靴屋に向かった。これまた二つ通りの、装具店のご近所さんだ。
装具店のお爺ちゃんはざっくりと、靴の構造を教えてくれたんだけど──しみじみと、知らないことばっかりだわー。
足の形や足首の動かし方なんて、考えたこともなかったし。
靴屋では、ワーフェルドさんは裸足になって粘土を踏まされて、足の幅と甲高を計測されて、目を白黒させていた。
うわあ、ちゃんとした靴って、一足たりとも同じ形がないんだ。
ちゃんとした鎧と一緒、なのねー。
「靴の中で足が遊ぶのも、逆に締め付けすぎるのも良くないんだよね。戦闘職なら、先ずは足元からだよ」
父さんと上のお兄ちゃんの間くらいの年齢の靴職人さんが、なんかむっちゃ語ってきた。
曰く、逃走に向くのは木底より、革張り底か縄網底とのこと。
経験が少ない新人ほど、速く走れる靴を選ぶべきだ、とも。
「けどさあ、そんな軟らかい底材じゃあ耐久性が足りなくなるじゃんか」
「俺たちは未だ、『外』に出られないんです。街と西地区を走って、任務の数を熟すことが最優先で」
「お前らのその木底靴じゃ、走ってるうちに体重がかかるとこからひび割れんだよ。七つ通路は石敷き箇所も多いだろ。
そっちの二人は農家靴だろ、駆け足より踏み支えに向く形だ。底の厚さが足りねえ。
んでお前は、その形なら石工靴だな。こっちも駆け足には向いてねえし、逆に厚すぎる。せめて≪魔蟲≫の外殻で補強して」
「いや、あんなもん張ったら躓くか滑るかすんじゃねえの?」
「ばぁーっか、鋲状に成形して」
靴職人さんとクードが、喧嘩腰っぽく盛り上がっている。
お義兄ちゃんは口を挟めなくなり、ワーフェルドさんは椅子に座ったまま、裸足をぶらつかせていた。
結局、クードが履いてる分厚い靴底板に、お試しでホビュゲ鋲が幾つか打たれて、銅貨が減る。
「兄さんの靴は十日かかるからよう、それまではこの中敷き入れて、こっちの紐に換えて、靴と足が密着するように、上からしっかり括っとけ。
あとそれ、底削って、高さ合わせてっから、慣れるまでバランス気を付けろ」
また来なきゃいけない店が、増えた。
□ ■ □ ■ □ ■
靴屋の後は、南路へ走って鋳掛屋を目指す。復興現場の脇を、邪魔にならないように身を縮めて通っていたら、みんなに声をかけてもらえた。
今度はまたも四つ通り、なんだけど、正直言って誰も馴染みがない。
洗濯屋は南路との角にあったから、分かりやすかったんだけど。
二つ通りの建物の、半分くらいの間口と幅の店がずらっと並んでいる中、架けられた看板を見上げながら探す。
辿り着いた先で対応してくれたのは、お爺ちゃんと傷痍衛兵さん、にしては細身のお兄さんだった。
尋ねたら、元パルトだった。スーさんというらしい。
蝶番や、ぐんにゃり曲がった鏝なんかを買取してもらう。これで二人の荷から、不要物がなくなった。
「新しいもの、研いでいくかい?」
片足がないスーさんから、私たちはちゃんとしたことを教わる。砥石は目の細かさで、使う順番があることを知った。
「包丁と農具は別の砥石だったけど、同じ刃を何回も研ぐのは知りませんでしたー」
「おれも……くっそ、切り出してたくせに、石のことなんも知らなかったぜ」
「ははは、まあそんなもんだよ。こうやってから革砥で仕上げると、別物だって分かるよ」
三人は山刀やナイフ、髭剃りを。
私は包丁と鋏を、分解してから研いでもらう。コツや技術が、あるんだろうなあ。
果たして専門家の手にかかった刃物は、すごい切れ味になって。
思わず四人で大騒ぎしてしまいましたごめんなさい。
□ ■ □ ■ □ ■
ようやく今日の予定が全部終わって、私たちは受付所に戻り、もう一回テーブルの使用許可をもらって席についてから、明日の任務の確認をする。
お義兄ちゃんが、竹札と木札とを出して並べた。
ホブフリオスメルジャ交換は竹札に、野焼き任務は木札に記されている──あれ、私たちが受けられるのって、竹札までだったはず。
いいのかな、とお義兄ちゃんを見たら、唇に指を立てられた。いいみたい、でもなにか事情があるらしい。
「香の交換、野焼き……で、夕方までに戻れたらホブリフ解体現場に顔を出してみよう。
どこまで進んでるか、交換できる素材と量を」
「もう一通り終わってるわよ。
明日は刈った毛の洗いが第四衛兵団詰所の隣、肉の保存加工が『一の通り』の三番加工所」
と、受付所から声をかけられる。揃ってそちらを向くと、ここで最初に会った女性の係員さんがいた。
交代して帰る途中らしく、表情がちょっと柔らかい。
「大物が続いたから、人手は幾らあっても……と言いたいけど。衛生管理講習か解体経験者じゃないと、肉の方は立ち入り禁止よ」
「あの、交換札があるんですが。見学や手伝いができるとか、素材がもらえるとか聞きました」
「あらあ、今すぐじゃナマモノで渡されるわよ。処理済みでもらった方が、結局いいと思うなあ」
鞣しや干しができる経験や道具や場所があるか、と尋ねられて首を振った。
ちら、とクードを見たけど、不可能貝と口の動きだけで返される。
係員のお姉さんは同僚に断りを入れてから、私たちのテーブルに近寄り、ホブリフ事件の木札を手に取った。
裏返し、端に刻まれた二つの日付を指してくれる。
「解体と第一加工が終わってから、素材の総量が算出されるのよねえ。交換申請、なにが欲しいです、って希望を出せるのが、ここ、明後日までの日付ね。
それから現物をここ、今月中に保管庫か冷蔵倉庫へ取りに行くようにね。
えっと、君たちの貢献度だと……革の端材を鉄鍋一杯分もらうのと、干し肉や燻製の切り落としがいいかなあ。革細工ができるなら、端材がいいわよ。
肘や膝に縫い付けて補強をしたり、槍の柄に使ったり、って……あら、二人は武器、どうしたの?」
革用の縫い針や太糸を持っていないこと、ワーフェルドさんの棒とクードの長柄鎚がダメになっちゃったことを伝えると、お姉さんは難しい顔をした。
ホブリドの方の札も見せて、とお義兄ちゃんに詰め寄り、二つ並べて数字を呟き出す。
どうやら貢献度と、金額の換算をしているらしい。
「うーん……取り急ぎ、素材云々よりお金でもらっておいて、二人の武器をどうにかした方がいいわねえ。
クード君が長柄鎚の所有免許持ってるなら、実家は石工よね。おうちに予備があるなら買い取るか、取引先の鍛冶屋を紹介してもらって新しいものを買いに行く?」
「いや、うちの備品はおれには重すぎたんすよ……柄を改造して全体を軽くして、それでやっと。体に合わねえのを買い取っても……」
そう言えば、石撃ちをしながら、クードは辛そうな顔をしてたっけ。お義兄ちゃんが持ってきたやつ、重すぎたのに頑張って振ってたんだ。
少しだけ使うことはできても、ずっと振るのは無理ってことかなあ。
確かに、そういうのを間に合わせで買っても、良くない気がする。
「それじゃ、明日はその改造鎚の注文を出しなさいよ。完成までは、二つ通りで同じ重さの槍を買って、要らなくなったら売ればいいわよ……で」
「ぼくのぼうはたのむした」
「あ、ワーフェルドさんの棒は素材の入荷待ちです。装具屋で発注済みです」
「そっちも槍を買いなさいな。出来上がるまで手ぶらじゃ、良くないわよ。
街や二つ地区内でも、なにがあるか分からないんだから」
「……ですよねー」
ぴしゃり、と言われて私たちは、ありがたく頭を下げた。
大人たちの、それぞれの立場からの忠告は、私たちを慮ってのものだろう。
どれに沿うか、何故断るか、どれを選ぶかは、私たちが決めなきゃいけない。
お姉さんは私たちの懐事情や、装具屋のおじいちゃんとの約束を知らない立場から、忠告をしてくれているんだから。
□ □ □
帰宅するお姉さんにお礼を伝えて見送って、私たちは食堂に向かった。昨日よりはパルトが多い中、食べながら話し合いを続ける。
明日は先ず、イルさんの水車小屋へホブフリオスメルジャの交換に行く。ここは二人が手ぶらでも、なんとかなりそうなので。
大人の人が、見守ってくれているっぽいから。
「んでさ……二つ通りに戻って道具屋や装具屋の開店待つより、そのまま職人町に渡ろうぜ」
「向こうで槍を売ってる店があるのか?」
「んにゃ、ない」
「じゃあどうするのー」
私の問いに、クードは少し考え込んでから顔を上げた。
「染物屋で、古い突棒を買おうぜ。捨て値でいけるはずだ」
クード曰く、糸や布を染める店には、大きな器と掻き回す棒が常備されているんだって。
斑にならないようにする棒は、洗濯篦に近い大きさで──違う色には使い回せないので、常に予備がある、とも。
「破損したら割って燃料、だけど染めの臭いがついてて、薪として売ることができねえんだ。それぞれ家で使うだけだから、安く買える、と思う。
ワーフェルド、明日の昼過ぎまでそれ使え」
「クードの槍、どうする」
「カルゴ、お前のそれ、しばらく貸してくれ。おれの二代目長柄鎚ができるまで」
「いいけど……昼過ぎ、ってどういう」
首を傾げるお義兄ちゃんに、クードは笑みを返した。
「焼畑済んで、ホブフリオスメルジャ交換の時に石切場に寄ってくれ。そこでおれには重すぎる備品の鎚を、ワーフェルドの棒ができるまで借りる。
おれの名義で借りて、実際に使うのはワーフェルドだ」
「え、それ、ありなのー……」
だって長柄鎚って、石切場以外だと持つのに免許がいるんでしょ。なにかそれで壊しちゃったら、責任が。
「人目があるとこでは、おれが持つ。それで言い訳は立つ。ワーフェルドは街中ではカルゴの槍、持っとけ。
いざとなったら、おれとお前の得物を交換だ」
「……クード、それは……いや、緊急対応の範疇で収まるけど……そうだ、その二代目ができた後はどうするんだ!?」
まだ素材自体がないワーフェルドさんの棒より、クードの改造鎚の方が早くできるんじゃないかなあ。
「えと、それは……おれの予備を荷物持ちしてくれてる、とか」
「いや流石にそれは無理がある!」
なんだかついていけなくなったので、私はごはんに集中した。
食堂の塩漬けキャベツって、うちで漬けてたのより薄味よねー。
ワーフェルドさんがパンを頬張り終える頃、明日としばらく先の予定が決まった。
早朝から水車小屋、南の木橋を渡って職人町へ。
突棒を買ってワーフェルドさんに持たせて、お義兄ちゃんの槍をクードが借りる。
渡し橋で、南村へ。雑草焼きが済んだら、ホブフリオスメルジャを換えながら石切場。
クードが重い長柄鎚を借りて、こっそりワーフェルドさんに持たせる。突棒は、石切場に置いてくる。
「昼は毎日、広場で炊き出しすっから、そこで燃やしてもらえりゃいい」
あー……まあね、おじちゃんやおじさんたち、いっぱい食べるし。
それから鍛冶屋町に走って、クードの改造鎚を発注して。
街に戻る石橋の手前で、ワーフェルドさんとクードの得物交換。
暗くなる前に、帰ってこなきゃねー。
私、新しい弩より先に、靴とランタンを買わなきゃいけないなー。
木橋には欄干があるけど、石橋にはないのよね。うっかり日が暮れてから渡ってたら、緊急の荷車を避けようとして南北川に落っこちちゃうかも。
それで、ホブリフ素材は引換じゃなくお金で計算してもらって。
ホブリド素材の引換は、上限まで綿羽でもらう。
クードの改造鎚ができるまでの間に、ワーフェルドさんの棒の代わりをちゃんと探す、と。
……いざとなったら、イルさんに頼んで丸太を買って、みんなで削ろう。
加工場所、どこか借りるとしたらえーと……「魔法の家」の裏って、私まだ借りられるかしらー。
ダメなら屯所の中庭か、実家かなあー。
□ ■ □ ■ □ ■
翌朝は、夜明けの鐘に合わせて飛び起きた。まだ寝てる同室の女子を気遣って、そうっと支度を整える。
三階だけど、流し台があるのはありがたい。
口を濯ぎ、顔を洗って拭いて、ミントを浸けた≪整え油≫を薄く伸ばしていく。
髪を梳かして、編み込んでまとめ、竹ピンを刺して留めれば準備完了。弓手袋を着けて革帽子は背負い袋の蓋布に乗せ、階段へ急いだ。
忍び足で受付所に向かうと、先着していた影の濃い三人に手を振られた。わ、待たせちゃったかな。
「おはよー」
「おはやう」
惜しい、ワーフェルドさんちょっと違う。
「……キリャ、カルゴがやらかした」
朝からなに言ってんの、クード。
「おはよう。やらかしてない、ついでで受けられるものを見付けただけだ」
お義兄ちゃんはそう言うと、手にしていた竹札をこっちに向けてくる。
屯所のあちこちに灯る機工ランタンの光は弱くなっていたけど、刻まれた字は読めた。
止血薬草の採取。
「……繁縷?」
「うん、休耕地なら生えて、どころか蔓延ってるだろうから」
説明求む、という様子の二人に、私たちは交互に話す。
ワーフェルドさんはともかく、クードが知らないとは思わなかった。
「ハコベっていう、地面に這って生える草があるのー。ほっとくと畑が大変なんだけどー」
「食べられるし、血止め薬にも歯磨きにも使えるんです」
「マジか」
「まじか、ですか」
そうなのだ。
なので私たちは幼い頃から、文句を言いつつ草むしりの時に選り分けていた。
半分は母さんに渡して茹でてもらったり、もう半分は村の薬師さんに買取を頼んで、鉄貨を貯めてみたり。
「ふーん、依頼主は街の薬師さんなんだー。村で売るより高いんだー」
まあ、微々たる差だけど。
「あ、そうだ。畑に入る前には靴の底を洗わなきゃなんだけどー……知ってる、よねー?」
「なんで?」
思い付きを口に出してよかった。こっちは、クードは知ってたけど、ワーフェルドさんが知らなかった。
「畑に良くない草の実が、泥に混じってついてたり、良くない虫がくっついてたり、するから」
「あー、それで昔、こいつらの親父さんに怒鳴られたっけなあ」
「ぼくも麦畑に入るしかけて、怒られるしたことある。よそものがー、って」
……うん、ワーフェルドさんの場合はちょっと違うと思う。
「大丈夫です、ワーフェルドさんは余所者じゃないし、今日は任務ですから」
お義兄ちゃんの言葉に、ワーフェルドさんは笑顔で頷いた。
「うん、畑はじめて。靴あらって、はこべいっぱいとる」
「……なあ」
ふと、真顔で竹札を凝視していたクードが、問いかけてくる。
「この薬草、つーかハコベ? 乾燥させたら手間賃上乗せで報酬上がったりしねえ?」
思わず三人揃って、クードに詰め寄った。
「できるのか」
「どういう意味ー」
「かわかす?」
おおう、と仰け反ったクードが、一歩退く。
「いやその、な。おれ、強い風魔法、あんま使えねえだろ」
「まほう、すごい」
「あんがとな……いやだからな、弱い風を吹かせるのはできたから。その、パルトになる前に、あちこちで仕事して」
「うんー」
クードは石切場の南の、「飲めない川」沿いにある職人町で働いていた。
その経験に、昨日助けられた。
きっとそれは、今日から先も、私たちの武器として活きる。
「……その前から村の燻蒸小屋も、秋に手伝ってたじゃんか。
で、そのこと言ったら、やってみろ、ってなって──おれの風、干しものを飛ばさず、ちょっと速く乾かすことができるようになって」
「すごいじゃないー!」
私は思わず、クードの手を取った。
「なんで黙ってたのー! 麦も野菜も、乾かす時間が短くなるのって、すごいことじゃないー!」
「いや、おれはその……糸とか皮とか」
「だったら薬草もいけるわー! あ、洗濯物もー」
「いや、そっちはまだやったことねえし」
「早く言ってよー、そういうすごいことはー!」
クードえらい、と手を振り回していたら、振り払われた。
こんなん、風魔法を使える奴なら誰だってできるだろ、とか、ぶつくさ言ってるけど、聞いたことないしー。
「……普通の風魔法使いなら多分、吹き飛ばして終わると思うぞ、それ」
お義兄ちゃんが、呆気にとられた顔をするけど。
「けど、正直使えるぞ。昼休憩でやってみよう」
そう言って、クードの肩をぽん、と叩いた。
朝っぱらから元気だなあ、と受付係員のおじさんが持ってきた大袋に、私たちは一瞬で真顔になる。
そうだった、ホブフリオスメルジャの交換は、新しい香の玉と、回収する灰袋と手箒と、所と日付により枝葉が必要で。
西地区の一部であっても、村は水車小屋周辺よりずっと広くて。
「……済みません、俺の見込みが甘かった。大甘でした」
受付所にどっか、と積まれたのは、私たちの背負い袋より大きな二袋。
「……うん、まあ、おれとワーフェルドで抱えて行くか。手ぶらだし」
「だいじょうぶクード、これならしばって上にのるできる。背負い袋、あたらしいいいやつ」
職人町を出る頃、ワーフェルドさんが買ったすごい色の突棒には、大袋が二つ、括り直されていた。
両端を、クードとワーフェルドさんが担いで走る。
復興現場で見かけたなー、こうやって運ぶパルトの先輩方。