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8.見舞い

クラウスは無言でマリオンを抱えたまま公爵邸内の廊下をズンズン進み、カールの病室として使われている客室の前まで来た。


「下ろして下さい!」


クラウスはマリオンの言葉を無視してルチアに扉を開けさせた。そしてマリオンを抱いたまま部屋に入って寝台に近づき、その横に置かれている椅子の上にマリオンをそっと下ろした。


マリオンはカールの様子にショックを受けてクラウスに礼を言うのも忘れていた。それに対してクラウスはムッとする気持ちを隠せないが、辛うじて口を開かないでいた。


寝台の上のカールは目を閉じていたが、人の気配を感じて目を開けた。彼の黒髪は汗で額にぴったり張り付いていて頬が少しこけ、顔色はまだ悪い。


カールは寝台の横にマリオンが座っているのを見つけて微笑み、口を開いたが、かすれた声しか出せない。


「お嬢様…お怪我されたと…聞きました。お嬢様を守られずに…申し訳ありません」

「何言ってるの?!貴方がいなければ私は死んでいたわ!私のせいで大怪我させてごめんなさい…ううう…」


マリオンは目に涙を浮かべ、カールの手を両手で包んだ。


「ゆっくり身体を治して…また私を守ってね」

「はい…命尽きるまでお仕えします」


クラウスは荒々しくマリオンの手をカールの手から引きはがして2人の会話に口を挟んだ。


「マリオン、カールにはマリオンの護衛から降りてもらうことになる。詳しいことは彼の怪我が治ってから、義父上から話があると思う」

「えっ?!どういうことですか?!彼は私を守ってくれたのにそんな仕打ちはないでしょう?!」

「君にはすぐに話してあげてもいいよ。でもここじゃ何だから、まずは君の部屋に戻ってゆっくり話そう」

「もう少しここにいさせて下さい」

「いや、カールに負担になるからもう行こう」

「クラウス様…私は大丈夫です」


クラウスは空気を読まないカールを睨んだ。そしてルチアに救いを求めるかのように視線を投げた。


「…お嬢様、僭越ながら兄はまだ目覚めたばかりでございます。少し休ませていただけませんか」

「ルチア…私は…大丈夫だよ」

「お兄様、今はゆっくり療養するのが仕事ですよ。お嬢様を困らせないで下さい」


クラウスはカールの返事を待たずにマリオンを抱き上げた。その様子をカールは切なそうに見る。ルチアはそんな兄の視線に気付いて歯を食いしばった。


カールの部屋を出てすぐにマリオンはクラウスに下ろしてくれるように頼んだ。今度はクラウスもマリオンのお願いを聞いてくれた。マリオンはルチアから松葉杖を受け取ると、ピョコピョコと数歩歩いた。


「マリオン、もういいだろう?俺が部屋まで抱いて行ってやるよ」

「まだちょっとしか歩いていません!」

「駄目だ。足首に負担がかかる」

「もうちょっと歩かせて!」


クラウスは抗議するマリオンを構わずに抱き上げてマリオンの寝室まで運び、寝台の上にそっと下ろした。


「クラウス、いくらなんでも過保護過ぎよ。少しは動かないと脚が鈍っちゃうわ」

「足首をまた痛めたら元も子もないだろう?今日は十分歩いた。明日、付いていてやるからまた少し歩く練習をしよう」

「貴方が付いている必要はないわ。ルチアがいるもの。お父様の所へ行って補佐をして」

「義父上には許可を得ている。未来の夫として妻に寄り添うのも重要だ」

「『未来の夫』ね…」


クラウスはマリオンの言葉を聞いて眉間に皺を寄せた。


「何がそんなに不満なんだ!俺はお前と公爵家にこんなにしてやってるのに!」

「それが押しつけがましいのよ!」

「何だって!」


クラウスが怒りで目を吊り上げて今にも掴みかかってきそうに見え、マリオンはひっと叫んで掛布団の中に潜り込んだ。


「…ご、ごめん…怖がらせるつもりはなかった」


クラウスがしゅんとして謝ると、マリオンは顔を半分だけ掛布団の下から出しておずおずと話しかけた。


「…ねえ、私達、相性最悪だと思わない?婚約解消しましょうよ」

「だ、駄目だ!そ、そんなことしたら君は傷物になる」

「私のことは心配いらないわよ。いざとなったら修道院に行ってもいいし、どこかの貴族の後妻でもいい」

「駄目だ、駄目だ、駄目だっ!君はまだ若いんだからそんな道を考えなくていいんだ!それに俺のことも考えてくれよ。君と結婚できなかったら俺はどうすればいいんだ?せっかくここまで公爵家の後継ぎ教育を受けたのが無駄になる!」

「貴方が公爵家の後継ぎとして実力をつけたのなら、別の貴族の家に婿へ行っても通用するはずよ。だから今までの努力は無駄にならないわ。うち以外の公爵家で婿を探している家はないけど、公爵家の伝手でそれなりの地位と財産のある貴族令嬢との良縁を探すことはできるはずよ」


胸を抉るような提案にクラウスの表情はごっそりと抜け落ちた。


「…それは君の考えか?それとも義父上の考えか?」

「お父様とはまだ話してないわ」

「そうか…君は本当に…残酷だな…」


クラウスは肩を落としてマリオンの部屋を去って行った。マリオンはクラウスが激怒して掴みかかってくると思っていたので、その背中を意外に思いながら見送った。

ブックマーク、ありがとうございます!

涙が出るほどうれしいです!

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