表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界をまたいだ恋~植物状態になった恋人も異世界に転生してました~  作者: 田鶴
番外編1 カールのその後

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/62

1.公爵家から辺境へ

 カールは、マリオンを庇って背中を刺されてから約1ヶ月後、彼女が孤児院慰問に出かけている隙に公爵夫妻に別れの挨拶をして公爵家を出発した。


「カール、本当にマリオンに別れを告げなくていいのか?」

「ありがとうございます、閣下。でももう1ヶ月前に私の覚悟をお嬢様に申し上げました。お嬢様の顔を見てしまうと……ずっと傍でお仕えしたくなってしまいます」

「そうか。それならせめて文通を許そう。クラウス君もそのぐらいは許すだろう。でもマリオンにはクラウス君ときちんと話してから手紙を出すように言うから、辺境に着いてもしばらく待っててくれ」

「もちろんクラウス様が容認するまで待ちます」

「クラウス君だって手紙のせいで焼け木杭に火が付いて君とマリオンが駆け落ちするなんて思わないだろうから、大丈夫だろう」


 カールは、マリオンを女性として愛することは許されないと思い、慌てて否定した。


「あ、当たり前です! や、焼け木杭なんて……! 私はお嬢様の忠実な騎士でした。決して邪な想いなど抱いてはっ……」


 カールの慌てる様子を見て公爵夫人は彼をまっすぐ見つめて話し始めた。


「貴方のマリオンへの気持ちは邪なんかじゃない、崇高なものよ。そうでなかったら身を捨ててマリオンを守れなかったはず。本当にありがとう」

「いえ、こちらこそ、お嬢様の専属騎士にしていただけて本当に光栄でした」


 カールは溢れる涙をシャツの袖で拭った。


「貴方は身を引いて公爵家を出るんですから、今、この場では気持ちを隠さなくていいわよ。むしろここで最後に貴方の気持ちを発散して手紙には貴方の想いは書かないでね」

「もちろんです。お嬢様と手紙のやり取りができるだけでも幸せです。でも2、3回のやり取りに留めます。私が生きていようといまいと、クラウス様とお嬢様の結婚式の前には文通を止めます。本当にお世話になりました。公爵家の繁栄を遠くからお祈り申し上げます」


 公爵が餞別代りに融通してくれた馬でカールは出発した。野宿を挟んで5日後、辺境警備隊の基地に一番近い街にたどり着いた。


 それまでの行程は満身創痍のカールにはきついものだった。負傷した左脚と右肩は天気が悪くなると痛むだけでなく、馬から乗り降りするのも一苦労だ。何より、左脚は引きずってしか歩けないし、右腕は肩より上に上がらない。


 辺境警備隊最寄りの街には、警備隊の事務所や引退した隊員達の住む施設がある。希望入隊者は外出可能なので、非番の日はこの街で買い物や飲食をしたり、荒ぶる気持ちを娼館で発散させたりする。


 カールは、その街に着いてすぐに中心地にある少し古びた建物に向かった。その建物は1軒丸ごと辺境警備隊の事務所になっている。基地にも小さな事務室があることはあるが、給金支給など最低限の任務を受け持っているだけで、ほとんどの手続きや事務仕事は街の事務所が負う。ここで入隊希望の受付や退役証明書の発行、給金の計算、魔獣の肉や核の売買手続きなど諸々行われる。街でも基地でも、怪我を負って魔獣退治に参加できなくなった希望入隊組が退役後に事務員として再雇用されている。


 中に入ってすぐ見える受付には、初老の男が座っていた。カールが明らかに脚を引きずっているのを認めると、怪訝そうな表情を隠さない。


「そんな脚で入隊希望かい? 命は大事にしろよ」

「はい、でもどうしても入隊したいんです」

「そうか。まぁ、死にたいなら引き留めはしないがな。じゃあ、ここに名前を書きな」


 希望入隊組も強制入隊組も訳ありの者ばかりだから、受付の男はそれ以上追求しなかった。


 カールが入隊申込書に記入していると、左腕の肘から先がない30代半ばぐらいの男が初老の男の背後からひょっこりと現れ、カールの名前を覗き見て驚いた。


「カール・ハインツってあの4年連続剣技大会で優勝したあの……?! そんな凄腕がどうしてこんな所に?」

「お前さん、そんな剣豪だったのか。やるせないねぇ」


 カールが剣技大会で優勝した年には、受付の男達は既に辺境にいてカールの実際の剣技を見たことはない。しかし剣技大会の際には、この街でも闇で賭けが行われるので、賭け事の好きな男達の中でカールの名前は有名だ。


 受付が終わり、カールは脚を引きずりながら事務所を出てその足で街唯一の小さな宿屋へ向かった。その背中を見送って、受付の男のカールへの憧れは憐みに変わっていった。


 警備隊は万年人不足なので、満身創痍なカールでもすぐに入隊許可が下りた。カールは、許可が下りるとすぐに宿から警備隊の寮に移動した。


 寮の部屋は個室ではなく、基本は4人部屋で希望入隊組と強制入隊組とに別れている。洗濯や掃除をやってもらえて、食事も用意されるし、魔獣の退治実績によって給金も支給されるので、買い物や飲食、買春の費用まで賄える。それに加え、任務以外の外出不可の強制入隊組も利用できるように街の娼館から交代で娼婦が寮に派遣される。仕事が危険なことを除けば、基地でも案外快適に過ごせるのだ。

ここでやっとカールのフルネームが出てきました。

クラウスが文通を提案するずっと前に、マリオンパパはクラウスに無断で文通を許可してました(!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ