14.心の中の忠誠
カールは、ルチアが自分達から離れて壁際に立つのを確認すると、マリオンに話しかけ始めた。
「お嬢様。不甲斐なく負けてしまい、お仕えし続けることができなくなって申し訳ありません」
「騎士でなくなっても公爵家に仕え続けてほしいわ」
「私はお嬢様にお仕えすることを心の支えにしてきました。それができない以上、ここにはいられません」
「公爵家に勤めるなら、私に間接的に仕えていることになるわよ」
「私は…お嬢様の…隣に立つことが許されないからこそ…騎士として忠誠を誓ったのです。それができないのに…お嬢様の隣に他の人が立つのを見たくありません。でも公爵家を辞しても心の中でずっとお嬢様に忠誠を誓っています」
カールは床に跪き、マリオンの手をとってキスをした。その途端、扉の向こうから殺気が飛んできたが、2人の世界に入り込んでいるマリオンとカールは気付かなかった。
「えっ、えっ?!それって…?!」
「辺境に行っても私の心はお嬢様の元にあります。これをお守りとして、私だと思って、お納めいただけますか?」
カールがマリオンの手に握らせたのは、サファイアのように青い魔石のペンダント。希少な青い魔石はエネルギー源としては使えないものの、持ち主を危機から守る効果があると信じられていて宝石として高値で取引されている。
マリオンはそのペンダントを見た途端、目から涙が出てきた。どこかで見たことがあるような気がするが、どうしても思い出せない。
「…ありがとう。大事にするわ」
その言葉を胸にカールは部屋の扉へ向かう。その行く手をルチアが阻んだ。
「行かせないわよ!」
「ルチア、行かせてくれよ」
「公爵家にいられないなら、家に戻ればいいでしょう?どうして戻らないのよ?!」
「父上達にはここまで育ててくれた恩はあるけど、やっぱり赤の他人の俺があの家を継ぐわけにはいかない」
「え?『赤の他人』?!」
マリオンはカールとルチアが義理の兄妹であることを知らなかったので、驚いた。
「お兄様が私と結婚すれば赤の他人じゃないわよ!お父様とお兄様が養子縁組してないのは、私と結婚して家を継ぐためなんだから!」
「いや、それはできないよ。お前のことは愛しているけど、あくまで妹としてだ」
「結婚して徐々に愛を育んでいけばいいでしょう?政略結婚の場合、お互いに愛なんてなくても結婚するんだから!」
「俺は心の中の方以外と結婚したくないんだ」
「どうしてよ?!どうして私じゃ駄目なの?!」
ルチアの言葉は最後にはほとんど悲痛な叫びとしか聞こえなかった。




