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勝利を君に  作者: ヴェルネt.t
4/10

王妃のお茶会

「マリアナ…あなた、シャリナに会ったことはある?」

急に問われて、マリアナは手元から視線を離して顔を上げた。

迎え合わせの長椅子に座っているエミリアの鳶色の瞳が見つめている…

「シャリナ様…アンペリエール夫人でしょうか?」

「ええ、シャリナ・アンペリエール。カインの母よ。」

カインの名が王妃の口から出たので少し驚きつつ、マリアナは「ええ。」と頷いて見せた。

「ペリエ男爵の葬儀の際にお会いしました。けれど、あの時はお話ができる状況ではなくて…ご挨拶するのが精一杯で…」

「そうよね…本当はもっと早く会わせるべきだったのだけれど、リュシアンが貴女とカインの接触を嫌がって、そうさせなかったのよね。」

「…はい。」

エミリアは手に持っていた刺繍の針を布に刺して傍へ置くと立ち上がった。マリアナのいる場所へと歩み寄り、隣に座る。

「…実はね。シャリナを王宮に招いたの。フォルトの誕生祝賀会が十日後に開かれるのを前に、一度、彼女と話さねばならないことがあって…」

「こちらに来られるのですか?」

「ええ、多分、明日には到着するはずよ。」

「まあ…」

マリアナは瞳を輝かせた。カインのお母様…ずっとお礼とお詫びを言いたかった…ユーリさんを失って、落胆のあまり体調を崩されていると聞いていたけれど…

「私もお会いしたいわ…」

マリアナが言うと、エミリアは「もちろんよ。」と言って頷いてみせた。

「歓迎の茶会を開きたいところではあるけれど、彼女は大人数の場が好きではないし、ユーリを失った心の傷も癒えていないでしょうから、私と貴女とシャリナだけでささやかなお茶会にしようと思うの…」

「三人で?…とても素敵だわ。」

「日当たりの良い部屋でお菓子や果実酒を用意するから、水入らずでゆっくり話をしましょう。」

「はい、母上。」

嬉しそうなマリアナの様子に、エミリアも微笑みながら安堵した。

初めての子供を身籠っていると言うのに、王太子の配慮が今ひとつ足らず、マリアナの心労が気掛かりで仕方がない…リュシアンなりの気配りなのかもしれないが、いっそ何もしない方が心が安まるというものだった。

「…そろそろリュシアンの我慢が限界の頃合いね?」

「ええ、多分…」

二人が扉の方向を見遣る…すると次第に足音が聞こえ始め、次にリュシアンの大声が聞こえた。

「妃はどこだ!」

エミリアは目を細め、溜息を吐いた。

「もう...本当に騒々しいわね。」



「王都は久しぶり…」

シャリナは馬車の窓から見える風景を眺めて呟いた。

最後に訪れたのはいつのことだったか…ユーリが宮廷嫌いだったせいもあって結婚後も訪れることがほとんどなかった王城の都。

「エミリア様のご招待がなければ、王宮に出向く必要もなかったのだけれど…」

シャリナは自分にもたれかかって眠っているセレンを見つめ、その髪を優しく撫でた。もちろんセレンも王都は初めてで、目を覚ませば華やかさと人の多さに圧倒されてしまうに違いない…

「王妃様とお話しをする間はリオーネと待っていてね。大丈夫、リオン姉様がいれば百人力よ。それはもう頼りになるのだから…」

『水晶の騎士』こと、リオーネは騎士達も一目置く存在であって、噂好きの宮廷貴婦人も容易には絡めない。今はシセルと共にバレルを連れて王宮に滞在しており、セレンの安全は保証されているのだった。

馬車は程なく城門内に入り、シャリナは数十年ぶりに王城のエントランスに降り立った。以前なら隣にユーリが並び「何も心配せんでいい」と言ってくれたものだが、そんな彼はもう居ない…

「シャリナ様…」

呼び声の方向に顔を向けると、シセルが走り寄ってくるところだった。彼は笑顔を浮かべながら近づくと一礼し、エスコートのためにシャリナへと手を差し出した。

「無事のご到着、安堵しました。」

「ありがとう、シセル。…けれど、降りた途端に不安になってる...貴方が来てくれてとても嬉しいわ。」

「それは光栄です。」

シセルは微笑み、シャリナと腕を組んで歩き出した。ユーリ亡き今彼女を支えるのは自分の役目であると肝に銘じているが、義理の息子とはいえ。寡婦となったシャリナの横を歩くのは危険であり、あらぬ疑いを抱かれる可能性があった。

…だがまあ、騎士である妻にエスコートなど必要ないのは公然の事実…その点、こう言う場面で妙な疑惑が生まれないのは幸いだな。

もっとも、パルティアーノ公爵が王宮に居れば話は別…何人たりとその役割を譲ろうはずもなく、余計なことだと皮肉られること請け合いだ…

「明日はともに茶会を...と王妃様が仰られていましたが、お疲れではありませんか?」

シセルの問いに、シャリナは首を横に振りながら言った。

「大丈夫。招待状が届いてからは私なりに体を鍛えたの。少しは見られる程度になったでしょう?」

「見られるなど…」

シセルは渋面を浮かべて言った。

「少しお痩せになられた以外、以前と全くお変わりなく、お美しいままです。」

「そこが問題だったのよ。…フォル…いえ、パルティアーノ公が服を新調させるくらい見窄らしかったのだから…」

「シャリナ様…」

シセルは言葉を失った。確かにふっくらとしていた頬は幾分細くなってしまったかもしれないが、さりとて、宮廷においてパルティアーノ公爵の隣に並ぶに相応しいほどの気品と、その美しさに変わりはない。

…何とか自信を取り戻して頂かねば…

「それより、セレンのことだけれど...」

シャリナは後ろを歩くセレンティアを見やりながら微笑んだ。セレンは周りの風景に圧倒されていて、案の定、驚愕している様子だった。

「リオーネはどこに?」

「バレルと部屋で控えています。マリアナ妃がおいでになっていましたので…出迎えをご遠慮させて頂きました。」

「まあ、妃殿下が?」

シャリナは驚いて声を上げた。

「まだいらっしゃるの?」

「はい、おそらく…」

「すぐにご挨拶しなければ…」

シャリナが急に早足になったので、セレンは慌ててその後を追いかけねばならなくなった。高い天井、どこまでも続く広い廊下…迷子になったら大変だ。

やがてシセルが部屋の扉を叩くと、すぐにリオーネが姿を現し、シャリナを室内へと導いた。

奥でバレルの声が聞こえる…そして、若い女性の声も…

「妃殿下がいらっしゃっているの…」

リオーネは静かな声で言った。

「バレルが遊んで戴いているのよ。」

「…遊び?」

シャリナが反問すると「リオン?」と呼ぶ声が聞こえた。そして奥から若い貴婦人が姿を見せる。金糸の髪、宝石のような青緑の瞳…美しくも可憐な面立ちは、紛れもない王太子妃殿下だ。

「…妃殿下。」

シャリナは膝を折り、姿勢を低くしてお辞儀をした。マリアナ妃はカインが深く関わった女性…お詫びを申し上げねばと常々思っていたのだ。

「まあ、カインのお母様ね…」

マリアナ笑顔になり、自らシャリナに歩み寄ると、同じ目線で手を差し述べた。

「お会いしたかった…すぐにご挨拶ができず、本当にごめんなさい。」

「何を申されます…私の方こそ、拝謁に伺うべきでしたのに…」

マリアナのほっそりした指先が触れたので、シャリナはそっとそれに応じた。二人の手が繋がり、マリアナが満面の笑みになる。

「お互いにいろいろな事がありましたね…でも、ようやくお話ができてとても嬉しいわ。」

「もったいないお言葉ですわ…愚かな息子をお赦し下さったこと、母として心より感謝申し上げます。」

「何をおっしゃるのですか…カインがいなければ私はここにいなかった…とても感謝しているのです。」

シャリナが涙を流すのを見て、マリアナも思わず涙を浮かべた。優しい眼差しと柔らかな口調…カインはシャリナにそっくりだ…

…この方をお母様と呼びたかったな。

マリアナは少し切なくなったが、その気持ちを封印した。カインには時々会えるし、今はそれだけで幸せだ…

「堅苦しいご挨拶はもう終わりにしましょう。私はそろそろお暇します…ゆっくり休息なさってね。」

マリアナは告げ、足元でスカートの裾を掴んでいるバレルに微笑みを投げかけた。

「…またね、バレル。」

バレルの表情が不穏になったので、すかさずリオーネがその体を抱き上げた。見守っていたシセルも歩み寄り、息子に何か囁いて愛おしげに髪を撫でる…

「では…後ほど。」

マリアナは膝を軽く折った後、近衞の騎士に伴われて部屋を出て行った。

…ユーリの言っていた通り…妃殿下は本当に屈託のない方、カインが惹かれ続けるのも無理はない。

「…こら、暴れるんじゃない。」

むずかるバレルに苦戦して、リオーネが言った。

「マリアナ様はご用心があるのよ、諦めなさい。」

「こっちへおいで、バレル。」

シセルが手を伸ばして軽々と小さな体を引き取る。シャリナはその光景に微笑んだ。

「お土産があるわよ、バレル。」

シャリナが告げると、控えていたセレンが木で作った馬の玩具を差し出した。バレルが動きを止め、シセル似の青い瞳を大きく見開いてそれを見つめる…

「あら、機嫌が直った!」

リオーネは目を丸くして言った。

「厳禁な奴め…」

シセルも苦笑を浮かべる。

「子供はこうしてあやすものよ…」

シャリナはさらりと言い、優しく目を細めた。



シャリナが訪れたと知ったマルセルは、エミリアの部屋へと続く廊下の途中に立ち、文字通り『待ち伏せ』をしていた。

アンペリエール最後の一人にして、敬愛するアンテローゼの孫娘。

その容姿はアンテローゼに生き写しであり、マルセルにとっては懐かしさそのものだ…

「最後に会うたのは狼の国葬…あの時は倒れそうなほどに嘆き悲しんでいたが…」

かつてアンテローゼが突然の死を迎えたと告げられた時、少年だったマルセルも大声で泣いた。

王太子ゆえの孤独を深い慈愛で支えてくれたアン。マルセルが王として立つための礎だったと言っても過言ではない存在だ。

「今こそ支えてやらねば…場合によってはフォルトめにも喝を入れねばならぬであろう。」

「「余計なことはなさらないで…」

妃の理解不能な忠告はあったものの、やはり黙ってはおられず、マルセルはシャリナに直接会うことを決めたのだった。

「仰々しくてはシャリナが臆する。そなたらは遠くに控えて居れ。」

いよいよシャリナが近づいているとの報告を耳にすると、マルセルは鬱陶しげに騎士達を追い払った。

「仰せのまに。」

命令に従って騎士達が引き下がると、ほどなくシャリナの姿が見えた。 隣を歩くのはバージニアス子爵。義理の息子とはいえ、年齢が近い二人が並んで歩くと、まるで夫婦の様だ…

「よう来た、シャリナ。」

マルセルは静かに告げた。

「…少し話をしよう」


突然の誘いに戸惑いを隠せず、シャリナは緊張しながらマルセルと向き合っていた。

マルセルは笑みを浮かべており、人払いされたテラスに二人きり…こんなことは初めてだった。

「緊張するでない…体に障るぞ。」

マルセルが声を和らげて言った。

「恐れ入ります、国王陛下…」

すでに座っているため膝は折れず、シャリナは軽く頭を下げた。

エミリアとの約束の時間ではあるが、気にしている素振りを見せる訳にはいかない…

「実はの…ずっとそなたに告げようと思うていた事があったのだが機会がなく、今日は良い機会と思った。」

「わたくしに?」

「うむ。余が王太子であった頃、そなたの祖母アンテローゼには過分に世話になった…そのことをな。」

「…恐れ多いことですわ…」

シャリナは恐縮しつつ言った。 

「何の…余はクグロワ公爵とも幾多の戦役を潜り抜けた…あの者に何度命を救われたか判らぬ。そなたの一族とは深い繋がりがあり、

特別な縁を感じているのだ。」

「感謝いたします…」

「…だが、その血も残るはそなたと黒騎士、そしてリオーネとその嫡子のみになった。あまりに少ない数だとは思わぬか?」

「はい。」

「狼がもっと子供を多く残しておればと思うが、いまさら何を申しても仕方がない…あの男らしいと言えば、そうかも知れぬ。」

「申し訳ありません。」

シャリナは俯いて謝罪した。世継ぎ問題は深刻で、確かにこのままではアンペリエールの名は消えてしまう。カインも結婚を拒んでおり、どうしたら良いのかシャリナにも正直判らなかった。

「そなたを攻めているのではない…勘違いしてはならぬぞ。」

マルセルは目を細め、顎を手でさすった。

「そこでだ。世の意見を伝える、良く聞けよ。」

顔を上げてマルセルを見ると、厳しくも優しい紺碧の瞳が瞠目していた。ユーリの言う彼への「酷評」も、シャリナにとってはあまり認識のないものだった。

「父と兄が殉死した後、そなたはずっと孤独の身だった。ユーリはそなたを愛していた様だが既に旅立ち今や天上の者。その嫡子黒騎士は公爵となり、リオーネも嫡子を得た。であれば、そなたも自身のことを考えるべきであろう。」

「…え?」

「シャリナ、寡婦のままで終わることは罷りならぬ…これは命令ぞ。」

命令と言いながら、マルセルの口調は穏やかだった。国王が何を言わんとしているのかは理解している…“性格が悪いマルセル“の精一杯の「思いやり」なのだと言うことも…

「はい、国王陛下…」

ハンカチで涙を拭うシャリナ…その姿にアンテローゼの面影を重ね、賢く優しかった教育係との思い出に、マルセルはしばしその身を投じた。


「マルセル?」

シャリナをエスコートして来たマルセルを見たエミリアは目を丸くした。冷徹な夫にしては、なんとも珍妙な行いだったからだ…

「シャリナが恐縮しているわ。可哀想に…」

「何を申すか…余はシャリナを励ましておったのだ…無礼者。」

「余計なことをしないでと申し上げました。」

「余計とはなんだ、余計とは!」

二人の応酬を前に、部屋に居たマリアナが困惑している…シャリナも瞼を瞬かせたが、痴話喧嘩であることは明らかで、黙って見守る他はなかった…

「…では、もう用はお済みなのでしょう?」

エミリアは面倒そうに告げた。

「後は私にお任せになって。」

「何だ、厄介払いか…」

「そうではありませんけれど…茶会に参加を?」

「あり得ぬ…余はそんなに暇ではない。」

「…では、シャリナをこちらに。」

唸りながらマルセルが腕を解いたので、シャリナは一歩下がって謝意を述べた。

「感謝致します陛下…とても楽しいひとときでした。」

「おお、そうであろうとも…余とて同じだ。」

言い終えると、国王は嬉しそうに口角を上げ、背中を向けて扉の向こうへと去って行った。

「お口直しをしましょう。」

エミリアはシャリナを誘って、日当たりの良い部屋のテーブル席の椅子を薦めた。テーブルの上にはとりどりの菓子が並んでおり、陶器製の器が置かれている。

「本当に…王宮のお料理は珍しいものばかり…」

シャリナが呟くと、傍から茶が注がれ、良い香りが広がった。ペリエ城でも茶は嗜むものの、この上品な香りは特別な物だ…

「さあ、遠慮なく召し上がれ。誰にも邪魔はされないし、どんな密談だって可能だわ。」

「密談…?」

マリアナが反応して目を丸くした。

「そう…女性だけのね。」

…何だか意味深。

マリアナは、エミリアが意図してシャリナを茶会に誘っていると知っているため、少し胸がざわついていた。一体何の話をするのだろう…

初めは他愛のない話題。

お菓子の素材のことや味についてなどを話した。

シャリナはボルドーの騎士が教えてくれた焼き菓子の話題に触れ、子供たちに自ら作ってあげたことや、ユーリの大好物だったことを懐かしそうに話している。

…だからカインはあの焼き菓子が好きだったのね。

マリアナは謎が解けて納得した。少しだけ聞いてはいたけれど、ボルドーのフィッツバイデ卿が伝授したとは知らなかったし、そうとは知らず、自国の味の再現をしていたのだと解って、不思議な縁を感じる…

…またカインに食べさせてあげたい。

マリアナは微笑んだ。

アーレスの気配りで久しぶりに実現したカインとの散歩…また一緒に歩けたら、焼き菓子を頬張るカインが見られるかもしれない…

…でもその前に、リュシアンに作ってあげるべきよね…

マリアナは、思い直して菫色の砂糖菓子をつまんだ。口に入れると

甘さと香りが広がる…

「綺麗な色だわ…香りも素敵…」

マリアナが言うと「そうでしょう?」とエミリアが答えた。

「花びらを砂糖漬けにした物よ。シャリナの瞳と同じ色の花をね。」

「まあ…」

マリアナがシャリナの瞳を見つめる…リオーネと同じ魅惑的な色だ…

「弟はこのお菓子が大好きなの。いつも寝室に置いていて、一人の時に食べている…素敵な思い出があるからだそうよ。」

その言葉に、シャリナは目を見開いてエミリアを見遣った。シャリナが“すみれの砂糖漬け“を食べたのは一度きり…フォルトが自らつまんで直接口に入れてくれたあの時だけだった。

…私は世間知らずだった…フォルトがその行為に込めた想いも、伝えようとした言葉も、何も分かってはいなかった。

「弟はずっとその思い出を大切にしている…いいえ、もっと以前、彼が初めての恋をした時から、すみれの花が大好きになった…私のせいで不幸になってしまったけれど…彼はもう一度その花に手を伸ばそうとしている。」

「…。」

「ねえシャリナ、ユーリはフォルトに「あなたを幸せにしてやってくれと」と頭を下げた…とても立派な行為だわ。貴女にとっては心外で、許せない気持ちもあるかもしれないけれど、ユーリだって貴女が忌み嫌う相手にそんな申し出をしないと思わない?」

エミリアは立ち上がり、シャリナの傍に歩み寄った。ほっそりとしたシャリナの手を取り、鳶色の瞳で見つめる…

「フォルトは貴女との結婚を望んでいる…でもそれは、ユーリに頼まれたからじゃない。幼い日からずっと貴女を愛していたからよ。」

「エミリア様…」

「フォルトと結婚なさいシャリナ。貴女は弟に相応しい女性…貴女がパルティアーノ公爵夫人になることは、私のお母様も切望なさっていたことなの。私も貴女と姉妹になれるなら嬉しいわ…」

シャリナは何も答えられなかった…

涙が溢れ、嗚咽が止まらない…ユーリを失ったあの日からその事実を受け入れられず、この悲しみを封印して来た。ユーリとの思い出にすがり、生涯を生きようと思っていた…

「アンペリエール夫人」

いつの間にかマリアナが寄り添っており、背を優しく撫でながら言った。

「私が絶望している時…天にいるお父様が教えてくれたのです…「お前を待っている人がいる…だから生きなさい。」って。…きっとユーリさんも同じことをおっしゃっているわ。」

「…そうね。ユーリなら「何をもたもたしてる!」って、喝を入れるわ。」


…そうかも知れない。


シャリナは泣きながらユーリを思った。

「騎士の妻が『引き篭もりの寡婦』などであってはならん!」


高潔な騎士『漆黒の狼』が、そんなことを望み、許す筈はないのだ…



5話につづく








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