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「せめてそこは分かってくれよ……」
媚薬と女体化の因果関係を結びつける事ができず、麗奈に聞いても分からない。正直現状では手の打ちようがなさそうだ。
悠太は肩をすくめ、ため息をついた。
『怒ってる?(´・ω・`;)』
「別に怒ってねーよ。お前俺に媚薬飲ませて何がしたかったの?」
『……言えないヽ(´o`;』
「何しようとしたんだ?」
『媚薬って言ったらひとつしか無いでしょ!?何!?お姉さんに言わせたいの!?辱めたいの!?』
悠太も絶句してしまうほどの見事な逆ギレだ。
「俺と……そういう事がしたかったのか?」
核心に迫る質問をした悠太の心臓はバクバクと、その鼓動が聞こえてきそうな程うるさい。喉はカラカラに乾き始めている。
『……うん』
「それって……俺の事が、好きなのか?」
「……うん」
何とも気まずい空気が2人の間に流れる。
近くて遠い距離と言ったらいいのか、お互い手の届く距離にいるのに、黙って背を向けている。
普段ならそんな沈黙も心地よく感じるはずなのに、何とも落ち着かない。
悠太は麗奈が媚薬を使い、彼を籠絡しようとした行動に怒りたい。そんな気持ちとは正反対に好意を向けてくれている事を知り、怒りよりも嬉しさが勝ってしまった。
怒らなきゃいけないと思う自分と、今すぐ振り返って想い人を抱きしめたい。と思う気持ちがせめぎ合い動けずにいた。
麗奈は悠太を騙し、媚薬と言う卑怯な手で彼を籠絡しようとしていた事を心の中で悔いていた。
作戦に失敗した上で、嘘をつき、それもバレ、自らの心の内まで話してしまった。
卑怯な手を使わずとも、彼は自分を見てくれていたのに。結果彼の性別まで変えてしまい気まずい空気だ。
彼に嫌われたかも知れない。嫌われてもおかしくない。
正反対の気持ちを抱いて2人はすれ違う。思いあっている気持ちは同じはずなのに。
ふと、麗奈が、悠太の背中にぴとっと体重を預けた。
『ごめんなさい。お姉さんが間違ってた』
目先の物事に囚われてしまったがゆえ、引き起こしてしまった事を謝罪する。
麗奈が謝って許さない悠太では無い
「女になっちまったのは仕方ない。気にすんな」
と麗奈に背中に張り付く麗奈に告げた。
彼は麗奈に対して底抜けに甘いのだ。
彼の幼馴染である涼夏に「悠くんは麗奈さんに甘すぎだよ!」とクレームを頂くくらいには甘い。
「何日かしたら戻るだろ。だから気にしなくていい」
麗奈を安心させようと、悠太はもう一度、出来るだけ声を柔らかくして告げた。
「……ぁぃぁと」
悠太の優しさに答え、麗奈も誠意を示そうと思い自分の声で伝えた。失声症の彼女が出せる精一杯の蚊の鳴くようなか細い声で。
『でも、罪には罰が必要だって菜月が言ってた。お姉さんに罰を与えて欲しい』
あまりきついのはやめて欲しいけど。付け足そうとしてやめた。彼がそんなきつい事を言ってくるとは思えない。むしろ自分に取ってご褒美に近い何かをくれるかもしれない。
背を向けたままの悠太が発する声を待ちわびた。
誠意なんてない。麗奈の目には目の前の少年が自分に与えてくれる物をただ喜んで受け入れるだけ。
「そうだなぁ」
物憂げな声で発された言葉は一言で一旦区切られた。何を言われるんだろう。
麗奈は次の言葉を息を飲み、待つ。