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「キー!この泥棒猫!胸まで葉月そっくりな上に悠太の心を奪っていくところまで葉月に似てるわね!」


 麗奈のそれが嘘をおりまぜた真実とは知らず、灯は袖の裾を噛んで分かりやすく、悔しがった。

 母親と言うのは、子供の言うことを無条件で信じてあげるものだ。昔不良として街を闊歩していた灯が、警察にお世話になった時に、母から言われた事だった。


 この言葉の通り、双子と、長男の言うことは全部信じてきた。


 そんな灯だからこそ、今日出来た新しい娘の言葉すらも全部鵜呑みにして、悔しがる。


『お姉さんの身体的特徴をイジっても無駄。この小さなお胸も悠太が好きって言ってくれたから』


 麗奈が背筋を伸ばして肉の薄い胸を張りながら、愛おしそうに撫でた。


「……弱点を愛で乗り越えたというのね」


 丁度同じサイズ感だった娘は、胸の事を指摘されると、大激怒していた。だからこそ灯は胸の話を引き合いに出して、麗奈を攻撃しようとしたのだが。


『そう。愛。でも、お姉さんは灯も好き。会ったばかりだけど、優しくしてくれて、暖かい。悠太みたい』


 彼女の方が広い心で受け止めた上で、攻撃を加えようとした灯も許容してくれた。

「私も麗奈ちゃんのこと、好きよ」


 この娘が義理の娘になってくれたらと、灯は心の片隅で思い始めている。


 ――これは悠太が堕ちてしまうのも仕方ないわ。何でも受け入れてくれて、母性とは違う、お姉ちゃんが持つ許容の広さなのかも。


「お前なんでうちの母ちゃんと百合百合してるんだよ」


 灯はハッとして、麗奈から離れた。愛する息子の声が聞こえたから。

 姿を視認しようと振り返った。待ち侘びた息子の御身を脳に刻み込もうと目を見開く。

 半年前手を指し伸びたけれど、振りほどかれてしまった。


 愛しくて愛しくて仕方がなかった。


「……悠太!」


 愛息子を抱きしめようと一歩踏み出す。彼も灯に合わせて1歩下がった。


「何故下がるの!」


「いや、なんつーか、その、風邪気味なんだよね。母ちゃんに熱をうつしちゃいけねえと思ってな」


 灯から見て悠太は呼吸も浅く、確かに息苦しそうではある。マスクもしている。


「なんだか、少し女の子らしい体つきになってない?」


 どことなく、肩とか、腰辺りが丸みを帯びて見えるような気がしてならない。


「気の所為だろ。そんな事より、今までごめんね。ずっと謝りたかった」


 灯は感極まって視界が歪んだ。ずっと会いたかった息子が自らの非を認めて詫びられるほど成長した事に対する感動を味わっている。


 それと同時に立ち会えなかったことへの後悔もひとしお。


 

 

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