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悠太
春日悠太は皿洗いをしながら、夕食の直後から、様子がおかしい同居人のことを考えていた。
皿洗いの時でも離れようとしないのに、今は近寄りがたそうにキッチンの入口に背を持たれて、俯きがちにボーッと床を見つめている。
――私には麗奈が居ないとだめなのに、勝手な事しないでよ。
勝手に女の子にしておいて、勝手に懺悔されては溜まったものじゃない。
麗奈の気持ちは晴れても、彼の世界が曇ってしまう。
沙織を利用した事も、会うはずだった唯が来なかった事も他の恋敵を出し抜こうとしたことも認識した上で止めた。
――私も同罪だね。
自嘲気味に笑う。彼女たちへの思いには、麗奈に告白を行う前に、お断りをするという返事で答えようと思っていた。
沙織からも、涼夏からも、唯からも、好意を伝えられていたが、悠太が姉の死と向き合えていないという状況から、返事を保留にしてもらっていた。
最近ようやく、向き合うことができて、この前墓参りにも行った。だから彼は、今日明日で、彼女たちに答えを出して同居人に告白しようと思っていた。
同居人が朝から居ないから丁度いいと思っていたのに。
――麗奈の所為で私の計画が全部パーだよ。
だから彼は、麗奈に告白をされた時、少し意地悪をした。
好きだけど、元に戻らないと付き合わない。
それまではお互い好きあっているけど、キスをしたり恋人のような事は一切しないつもりでいる。
「いい加減こっち来なよ」
皿を洗いながら同居人の背中に声をかけたが、同居人が動こうとしないのでため息を吐く。
「はぁ……2人きりで話すなら今しかないんだよ?」
現状この家には、悠太と麗奈の2人きり。大人2人組は、女子会をやるために買い出しに出かけた。
だから、麗奈と話そうと先程から声を掛けているのに、この調子だった。
「麗奈。俺の傍を離れないんじゃなかったのか?」
声を低く、口調を意識して男っぽくしたら、麗奈が振り向いた。
「残念戻ってないよー。んふ」
彼が煽ると、麗奈は唇の真ん中を少し上げて、不快を露にした。
「戻ったからと言って、麗奈が抱えてる罪悪感は消えないと思うけど」
告げると、次は眉が微かに下がった。
「んふ。なんだか麗奈の考えてる事が手に取るように分かるよ。いつもと逆だねー。女の子になったから?」
『そんなこと私に言われても分からないよ』
「ねえ、私から麗奈を奪うような事はしないでね」
会話の内容は繋がらない。けれど、話の本筋を先に伝えて置かないと、同居人はまた後ろを向いてしまいそうなので、悠太は言った。




