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沙織が悠太の事に好意を持っているのに、媚薬を用いて悠太に抱かれようとした。
夕方頃堂々と唯を騙くらかしたことも思い出した。けれどもそれは、恋敵を出し抜いただけ。
恋愛において恋敵は蹴落としてナンボ。麗奈には悠太しかいないから。
と思い少しの罪悪感を、胸の内で殺しておこう。
唯や、他の恋敵達のことはそう考えた筈なのに。
沙織は、媚薬を何に使うか分かっていて、調達してくれた。
真実に気づいてしまった瞬間、搦手で悠太を手に入れようとした自分は、とても醜いものだと言うことに気がついてしまった。
麗奈はごめんなさい。悠太に薬を飲ませたのは私なの。とスマホに文章を打ち込んだ。
これだけでは媚薬を飲ませて既成事実を作ろうとしたことは伝わらないが、全部引っ括めて、麗奈は自白しようとしていた。
打ち明ければ菜月に怒られるどころか、性犯罪者として、悠太と引き離されてしまうかもしれない。
自分がやった事を考えれば、当然だ。
麗奈は、震える手でスマホを裏返そうとしたが、出来なかった。
気持ちの問題では無い。物理的に。
悠太はごめんなさいの文字を見てから、ニコッと微笑んで、麗奈の手からスマホを取ると、少し操作をして返してきた。
『これは私と麗奈の問題だよ?沙織さんや姉ちゃんは関係ない。私が許した以上打ち明けるとかしなくていいよ』
彼は沙織の好意に気づいているのだろうか。関係ないという彼に、麗奈は気になったが、勇気を振り絞った行動を止められた以上、もう動く事は出来ずに、気は進まないが黙って夕食を食べる事にした。




