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「でも、私が思うに、お母さんも喜ぶと思うんだよね」


 悠太が言った。


「菜月さんの時も同じこと言ってましたけど、長男を3女に変えられて喜ぶ母親がいます?」


「現にお姉ちゃんも喜んでるでしょう?」


「いやいや、怒ってますって〜」「怒ってはないよ?沙織の家だから仕方ないと思って諦めてる」


 ズンと沈んだように沙織は肩を竦めた。

 沙織がここまで手玉に取られて、本気で落ち込んでいるように見えるのは珍しい。


 沙織の説明不足がこの状況を引き起こしてしまった。沙織が強く出られない主たる理由を考えると、麗奈は最初は面白くも思っていたが、心の底から申し訳なく思った。


 本来1〜10まで麗奈が悪いのだ。媚薬なんて搦手を使わずに、最初から正々堂々交際を申し込んでいれば、こうはならなかったのだ。


『沙織。ごめんね』


 テーブルの下で沙織の太ももをつついて、こっそりと沙織だけに見えるようスマホを見せると、沙織は困り笑顔を向けてくれた。


 それだけで胸が張り裂けそうだった。本当の事を言いたくなった。


 麗奈が俯いていると、隣から手を握られた。暖かくて柔らかい彼の手だ。

 


「まあでも、飲んだのは私だから。大丈夫だよお姉ちゃん。怒りの連鎖は俺が止めるから沙織さんを責めないで」


「でも」


「後でお風呂一緒に入ってあげるから。ね?こんな事でも無いと一緒に入れないよ?」


 それも確かに、と菜月は頷いた。


 悠太は菜月とお風呂の約束をすることで、2人を助けた。少なくとも麗奈にはそう見えている。

 

「沙織はどうする?泊まってく?」


「私はお暇させていただきます〜」

「え?沙織さんも一緒に入るでしょ?」

「えっ!?」


 悠太が風呂に誘うと沙織は顔を赤くして驚いた。

 いつもなら喜んで飛びつきそうなものなのに、恥ずかしそうに頬を染めた沙織を、麗奈は意外に思った。


「ありゃ、麗奈も一緒に4人で入るのかと思った」


「あ、良いじゃない?うちのお風呂広いし。たまには女子会しよ」


 その中に1人男が混ざっているのだが、悠太は気にしていないようだ。


「どしたの?沙織さん恥ずかしいの?」


「ええ、それは、まあ」


 妙に恥ずかしがり、それでも嫌がってはいなさそうな、沙織を見て、麗奈は確信した。


 沙織が悠太に向けるものを、麗奈は性癖的なものだと、思っていた。

 男同士の絡み、それと男の娘が描かれた創作物が好きだから。


 けれども今の沙織は、熱の篭った視線で悠太を見ている。


 

 ――沙織も悠太のこと、恋愛的な意味で好きなんだ。


 だとしたら自分のした事は、とてつもなく残酷な物ではないか。


 

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