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だから、麗奈の浮気を心配する必要は無い。しっかり伝えたつもりだけども、彼にしっかりと伝わっているのだろうか。
心のどこかで、まだ不安を抱えているなら、直ぐに察して信頼して貰えるように取り計らうつもりでいる。
「そう言えば今日夕方お母さんから連絡があって、お母さん明日うちに来るってー。悠太に会いたいって言ってたよ」
菜月がいきなり発した言葉に彼が一瞬眉を顰めたのを、麗奈は見逃さなかった。
本当に一瞬なので麗奈以外は誰も触れなかった。
「えっ!そうなの!?やったね!麗奈。会えるってー」
それどころか、先程会いたいと言っていた自分に微笑みかけてくれた。
『楽しみ。だけど、悠太のこと、説明どうする?(;;°;ё;°;;)』
「……お母さんブチギレるかも」
悠太になにかあれば、悠太の保護者として、一緒に住んでいる菜月が監督責任を追及される。
それは理解出来たが、菜月がなぜそこまで母を怖がるのか、麗奈は理解できなかった。
麗奈にとっては大和の方が何かと小うるさく言ってきそうだと思う。
だが、彼女は、まだ春日遺伝子を甘く見ていた。
身内以外の敵は情け容赦なく切り捨てる彼の性質を。
『灯ってそんなに怖いの?』
麗奈は箸を止めて会話に参加する事にした。
「蓮さんのお友達って言ったらわかるかな?」
麻波蓮。春日家のお隣さんだ。彼の幼なじみのお母さんだ。
時折晩御飯を共にするので、麗奈自身も親交がある。
元暴走族の総長だった。と本人以外の口から聞いたことがあるのだが、麗奈は、蓮のことを大人の女性で、聖母のような慈愛に満ちた印象を受ける。
元総長だと聞かされたところで、今の印象が強すぎて、総長のイメージの欠片もわかない。
だから麗奈は悠太の言葉の真意を測りかねた。
『うーん。灯も元総長なの?』
「蓮さんとセットでここいらの不良に恐れられてたみたいだけど。強化版の沙織さんって言ったらわかる?」
『ヤベェやつってこと!?Σ(゜д゜;)沙織より!?』
「ちょーっとお2人には言いたいことがあるのですが〜」
麗奈が沙織に振り返ると、彼女はこめかみに青筋を立てて、口元をぴくぴくと引き攣らせていた。
「沙織さんはヤベェやつだけど、お母さんは違うよ。ね、お姉ちゃん」
「そうねぇ。お母さんは女体化の薬を頭痛薬と並べて置いたりはしないかな」
「菜月さんまで〜。や、やっぱり怒ってます?」
「怒ってないよ?悠太が勝手に飲んじゃったんだもの」
怒ってないと言う菜月の、瞳の奥には確かに怒りの色が宿っていた。




