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 彼女は自分が時折頷くだけで、会話に参加出来ない食事の時間も楽しんでいる。

 菜月が1日何をしていたかだったり、姉弟と幼なじみの昔話だったり、色んな話を聞かせてもらいながら、彼の作った料理を食す。至福の時間だ。


 今日も案の定彼の母親と父親の話に花を咲かせている。

 八割型母親の話しだが、話しを聞けば聞くほど、彼の性格面は父親似であることが分かる。

 彼の父親には、麗奈も1度だけあったことが、すんごく不器用な男だと思った。

 彼と、姉の菜月を思うがあまり厳しく接しすぎて、距離を置かれた。本当は、葉月を含めて3人を誰よりも愛しているのに。


 ようは素直じゃないのだ。意地っ張りで負けず嫌いな所もそっくりな印象を受けた。

 

 逆に、菜月は母親にそっくりの印象を受ける。


 だから菜月に通ずるところがあるならば、きっと自分の事も気に入って貰えるのではないか、と麗奈は思った。


 灯と悠太に挟まれて買い物に行くところを想像してみた。

 義母と旦那、そっくりな見た目の2人と、手を繋いで歩く自分の姿を。

 彼女は思わず口元が緩んでしまいそうになるのを理性で抑えた。


 先程悠太を不安にさせたばかりでしていい妄想ではなかったと、自分を戒めながら、彼女は彼の言った春日遺伝子と自分の相性にある種の畏怖を感じていた。


 ――私は悠太が好きなのに、見た目が一緒なだけで灯に浮気をしたりなんてしない。そもそも同性は守備範囲でもなければ、私は悠太だから好きになった。


 見た目はあくまで話すようになったきっかけであって、自分を投げ打ってでも人を助けようとする彼の優しさと、重要な場面で引っ張ってくれる彼の器量の大きさに惚れたのだ。

 自分が女装をさせようとすると、嫌がりながらも付き合ってくれるところも、彼の羞恥に濡れる顔が好きな彼女にとってはポイントが高い。


 ――あぁ、だから嫌なのかな。


 彼の言う春日遺伝子が、彼の持つ女性的な可愛い顔だとしたら、合点がいく。

 麗奈としては、彼が恥ずかしがるし似合っているから、女装をさせているつもりで、同性に恋愛感情はわかない。


 けれども、自分そっくりな顔で体も女性な灯は、麗奈の好みどストライクと言えなくもない。

 だけど、麗奈は――女の子みたいな見た目なのに、付いてるのが可愛いのに。悠太は分かってない。

 と少しの憤りを感じていた。


 つまるところ、彼女は、男の娘が性癖なのだ。


 気兼ねなく話せるようになった男が、男の娘だったという僥倖をつかんだだけなのだ。


 

 

 

 

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